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67、バナバナ星 〜長い階段

 貧民通りのテントのひとつに、僕達は案内された。他のテントと同じくボロボロだ。それに刺激臭がすごい。中に入るには、少し勇気が必要だ。


「うっぷ、すごく臭いですね、ライト店長」


 町の中は暑くはないと聞いていたが、直接地面に支柱を立てて布で覆っただけのテント小屋は、蒸れるのだろうな。


 僕達は、白いダウンジャケットのような魔道具服を着ている。だから、温度と湿度は快適に保たれていてイマイチよくわからないけど、なんとなく、外よりも暑いのだと感じる。


「高温多湿な星だから、地面から湿気が上がってくるのかな」


「鼻が曲がりそうですよ。酸っぱい変な臭いが……」


 城兵達は小声で話しているが、案内してくれているこの貧民通りの住人達に聞こえているだろうな。だけど、彼らは気にする様子はない。



「行商人さん達、あの奥に階段があるので降りてください。お頭(かしら)は、別のテントから先に降りています」


「えっと、キミ達は?」


 案内してくれた住人達は、テントの入り口から動かない。


「俺達には、蔵に入る許可が出てないんです。ここで見張りをしていますから」


(階段を降りた先が、蔵になっているのかな)


「わかりました。では、僕達だけで、参りますね」


 城兵達は、一瞬嫌そうに顔を歪めたが、仕事だと諦めたらしい。僕達は、今はポーションの行商人だからね。


 僕は半分アンデッドだからか、臭いに関しては、わりと平気だ。そんな僕でさえキツイと感じる刺激臭……城兵には、酷すぎるかな。



 テント内に入ると、外から見た印象よりも広く感じた。この場所も蔵なのかもしれない。武器を中心にいろいろな物が、ただ放り込まれたかのように散乱している。


 奥へと進むと、そのテントの住人らしき人達が居た。敷き物だけの寝床らしき物も並んでいる。


(さっきの話、聞こえたかな……)


 チラッと城兵に視線を移すと、バツの悪そうな顔をしていた。同じことを心配しているようだ。さすがに失礼だったよな。



「その奥です。降りる階段は、降りるのみ。戻りたいときは、蔵にいる者が別の階段に案内します」


 敷き物に座っていた人は、無表情でそう告げた。一方通行ということらしい。


「わかりました。お邪魔させてもらいますね」


 僕は、明るい声を心掛けたが、その人は無表情なままだった。やはり、話が聞こえていたのかな。




 ◇◇◇



 薄暗い階段を降りていくと、空気感が少しずつ変わっていくのを感じた。階段は、どこまでも続いているように見える。


「ライト店長、狭くて長い階段ですよね」


「そもそも、見ず知らずの俺達を、大切な蔵に案内するものでしょうか……」


 城兵達は、心細くなっているようだな。


「僕達は、ポーションの行商人だからね。買ったポーションを蔵に運ぶのが大変だからじゃないかな?」


 適当に理由らしきものを喋ってみても、彼らの表情は変わらない。罠か何かだと感じているみたいだな。


「でも、蔵に、招きますかね?」


「蔵に閉じ込められたりして……」


(妙だな? ネガティブすぎる)


 城兵達は、長い階段を降りて行くことで、少しずつ表情も変わってきた。軽い混乱状態かもしれない。


「大丈夫だよ。僕は、半分アンデッドだからね。もし何かあっても二人くらいなら、霊体化して救出できるよ」


 僕がそう話すと、やっと城兵達は落ち着いてきた。彼らは、やはり何かの状態異常を起こしている。回復魔法を使ってもいいけど、どうしようかな。魔法の発動は、先に降りているというお頭(かしら)を警戒させてしまうか。



「あっ、やっと終わりが見えてきました!」


「そうだね。扉かな?」


 真っ直ぐに続く階段は、体感的には、少なくとも10階分以上を降りた気分だった。僕も何か状態異常を受けているかもしれないから、定かではないけど。




「行商人さんですね。どうぞ。ここからは戻れません。戻る際は、別の階段を使ってください」


 扉の前にいた人は、立ち上がり、扉を開けてくれた。扉の番人だろうか。薄暗い中でもキラキラと輝く、高そうな鎧に身を包んでいる。


(貧民っぽくはないよね)


 ここから戻れないという言葉は、状態異常を起こしている城兵達には、強いストレスを与えたようだ。


 鎧を身につけた人の表情はフルフェイスの兜(かぶと)でわからないが、城兵達に視線を移しているようだ。城兵達の動揺を楽しんでいるみたいだな。


「わかりました。階段を一方通行にしてあるのは、階段の幅が狭いからなんですね。すれ違いが難しいから、良い考えですねぇ」


 僕は、のんびりとした口調でそう話してみた。すると、鎧を身につけた人は、パッと僕の方を向いた。


「へぇ、この香の中を歩いてきても、そんな口が利けるのですね。どこかの神ですかね?」


(やはり、何か仕込んでたのか)


「いえ、僕は、ポーション屋ですよ。ただ、種族的に、状態異常には強いんです。僕には、弱い毒は効きません。だから、酒を飲んでも酔えないんですよね〜」


「これが弱い毒か……。へぇ、まぁ、星が違えば感覚も異なるのでしょう。いま、行商人さん達に通ってもらった階段は、この星の特殊な霧で満たしてありました。すべては蔵を守るための我々の防衛策です。敵意はありません」


「わざわざ丁寧な説明をありがとうございます。帰り道には、この霧と逆効果の霧に満たされているのかな」


「ククッ、さぁ、それはどうでしょうね。俺はこの階段のことしか知りません」


(わざと不安を煽ってるよね)


「そうですか。じゃ、失礼しますね〜」



 僕達が扉の中へ入ると、パタリと後ろの扉は閉まった。城兵達は、ビクッと飛び上がっている。


 少し進むと、また扉が見えてきた。ここは階段よりも明るいな。城兵達は何も言わないが、ビビっていることは伝わってくる。メンタルを弱らせる霧だったのだろうか。



「行商人さんですね。この先は、蔵になっています。お頭(かしら)がお待ちしています。どうぞ」


 姿の見えない何者かの声が聞こえた。サーチをすればわかるだろうけど、余計なことはしない方がいいよね。


「はい、ポーション屋です。ありがとうございます」


 ギギギと嫌な音を立てて、扉が開いていく。重そうな扉だな。だが、それを動かす人の姿は見えない。


 そんな様子に、城兵達は威圧されてしまっているようだ。神族の彼らでさえ、こんな状態になるなら、普通の人なら失神しているかもしれないな。



 ◇◇◇



「おお、行商人さん、早かったですな」


 蔵の中へ入っていくと、お頭と呼ばれる男がいた。さっきまでとは違って、酸っぱいような体臭は感じない。彼が降りてきた階段には、シャワー機能でも備わっているのだろうか。


「長い階段でしたね。店員達は、少し疲れてしまったようです」


「へぇ、あんたは大丈夫なんだな。こっちに来てくれ。薬の置き場は、こっちなんだ。持っている分すべてを買い取らせてもらうよ」


(何本くらいのつもりだろう?)


 城兵達に持たせたのは、1人1万本だ。僕の魔法袋の中には、作ったリュックくんでさえわからないほどの数が入っている。



 蔵の中を歩いていくと、扉のない小屋のような建物が整然と並び、様々な物がストックされていることがわかってきた。蔵というより、地下の町なのではないかと感じるほど、広い空間だ。


 僕達が入った扉以外にも、至る所に扉がある。物が勝手に浮かんで移動していく光景を、何度か目撃した。そのたびに、なぜか城兵達は怖がっているようだ。


 浮遊魔法は、彼らも使える。それなのに、怪奇現象を見ているかのような目をしているんだよな。これがこの蔵の防衛策か。こんなにビビっていたら、何かを盗もうという気にはならないだろうな。




「行商人さん、これが薬の置き場なんだよ。ここまで来てもらって悪かったね。ほとんどの者は、蔵には入れないからな」


「荷物を持って、長い階段を降りるのは大変ですもんね」


「あはは、まぁ、あんたには女神バナバナ様の畏怖の霧が効かないみたいだから、わからないのさ。ほとんどの人間は、階段の途中で気絶するからな」


(うん? 他の階段も同じ仕様なのか?)


 僕はツッコミたい気分を我慢して、商売用の笑顔を浮かべておいた。



「すべて買うと言っていただきましたが、数は、かなりありますよ。予算は、どれくらいですか?」


 そう尋ねると、彼は、何かの合図をした。すると、目の前に、キラキラときらめく金貨の山が現れた。



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