66、バナバナ星 〜貧民通り
僕達は、壁のような建物の先へと進んでいった。
事前にワープワームの映像で見ていたとおり、テント小屋が並んでいる。この付近は、新参者のエリアらしい。さらに奥には、木造の建物が見える。その辺りから、露店通りがあるようだ。
女神様とタイガさんは、その露店通りに露店を構えている。女神様が派手に騒いで試飲させているから、黄色店の方には、既に大勢のお客さんが集まっているようだ。
タイガさんの赤色店の方は、おとなしく商売をしているみたいだな。同じポーション屋だとわかるように、小瓶を並べているようだ。タイガさんも目立つ動きはしていない。
「じゃあ、ジャックさん、ご飯の時間には集合しましょうか」
「そうっすね。町の中で食べる店がないようなら、町の外に出る必要があるっすからね」
僕達は、女神様が分けた人数をさらに半分にして、3人ずつで歩いて行商をすることにしたんだ。僕は、青色のベレー帽のようなものを被る青色店の店長という設定だ。
「了解です。だけど、あの役割って……」
僕達は、危険人物を装って、監視者の注意を集める役割を担っている。危険人物って、どうすればいいのかな。
「あぁ、適当でいいっすよ、絡まれたら、10倍返しって感じで」
(はい?)
「ちょ、それはさすがに……でも、宇宙海賊の町だから、遠慮はいらないかな」
「俺も遠慮しないっすよ。クフフ、こういう町って、俺、好きなんすよね〜」
ジャックさんは、なんだか悪い顔をしている。そういえば、確かにそうかもしれない。ジャックさんは、僕に対しては丁寧に接してくれるけど、魔族が相手だとガラリと別人のようになる。
きっと、クールにバッサリ斬り捨てたりするんだよね。イケメン剣士には、それが似合う。
(僕は、どうしようか……)
「じゃあ、また、後で! 一番は、緑色店がもらうっすよ〜」
僕が、うじうじと考えている間に、ジャックさん達だけでなく青色店のもう一つのグループも、消えていった。
「ライト店長、さぁ、俺達も行きましょう」
「ガンガン売りますよ〜。彼らとは別の道に行きましょうか」
城兵達は、楽しそうだな。いや、楽しそうなフリをしているだけか。
僕の元に残った二人は、危険人物を装う担当を志願したけど、いたって普通の人達だ。どちらかといえば、城兵の中では戦闘力が低い。僕のそばにいる方が安心だと考えたのかもしれない。
「うん、そうだね。あぁ、あっちの方に行ってみようか」
僕は、薄汚れた粗末なテント小屋が並ぶ通りを指差した。ワープワーム達の映像で、この町の中での地位というか身分が低そうな人達が住んでいることを、確認済みだ。
「えっ? 貧乏そうじゃないですか?」
「僕達の役割は何だっけ?」
不満げな……いや、不安そうな彼らにそう言って、僕が歩き始めると、城兵達は互いに顔を見合わせ、覚悟を決めたような顔をして、僕についてきた。
「ポーション屋です〜。試供品を配ってます。興味のある方は、声をかけてください〜」
僕は、ポーションの小瓶を両手に持ち、そう呼びかけながら歩いていく。城兵達も僕を真似て、声出ししてくれている。
白いダウンジャケットのような魔道具服は、この町では目立つようだ。声をかける前から、多くの視線を感じた。
そして視線といえば、壁のような建物からのサーチ魔法は、ずっと僕達を追ってくる、追跡系の魔法だろうか。
「あんたら、この通りに何をしに来た?」
プンと酸っぱい臭いをさせた男が、怪訝な表情で近づいてきた。服はドロドロだな。まさしく貧民という装いだが、その目つきは鋭い。
「ポーション屋です〜。さっき、この星に着いたばかりなんですけどね。結構、蒸し暑いですねぇ」
「はん、そんなゴツい服を着てるからだろ。よく、この星で結界を使えたな」
その男は、僕達のまわりをぐるぐると回っている。威嚇のつもりだろうか。
少し離れた場所に、やはりドロドロに汚れた服を着た人達が、テントから出てきた。僕達を捕まえようとしているのか、後方にも、いつの間にか、ドロドロな服を着た人達が出てきている。
(囲まれたみたいだな)
「結界なんか使ってませんよ? この星の大気は厄介だから、すぐに帰ろうかとも思ったんですが、帰る前に行商しておこうと考え直しましてね〜」
「は? 結界無しで出歩けるということは、その服か。ここを通りたければ、3人ともその服を置いていけ」
(へぇ、鋭いな)
城兵達は、剣に手をかけている。だけど、僕はそれを制した。
「何を言っておられるのか理解できませんが、これは制服なんですよ。だから渡せませんね〜。そんなことより、試供品を飲んでみませんか? キミ達、近くにいる人達に渡してくれる?」
僕がそう指示すると、城兵達は小瓶を取り出し……そのまま固まっている。まぁ、そうなるか。僕達を取り囲む人達は、ほとんど皆、武器を手に持っているもんな。
「試供品とか言って、変な毒を飲ませようってんじゃないのか? この町から俺達を追い出せと依頼されたか」
(うん? なんか、こじれてるのか)
「はい? 誰に依頼されるんですか? この町に着いて、僕達は門番としか話してませんよ? 門番は、試供品を気に入ってくれました。他の店が露店を出しているから、買いに行ってるかもしれないな」
その男に小瓶を渡すと、彼はやはり怪訝な表情を浮かべていた。近くにいた数人にも、小瓶を渡していく。
すると、一人が蓋を開けた。ふわりと爽やかなオレンジの香りが広がる。
「なんだ? この匂いは?」
「このポーションをご存知ないですか? イロハカルティア星の伝説のポーション屋ですよ?」
(自分で言うと、恥ずかしい)
すると、取り囲んでいた何人かが、コソコソと何かを話しているが、皆、首を傾げている。うっ、知られてないんだ。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ポーション……何だ? それは」
(えっ? ポーションを知らない?)
「飲んでみてください。ラベルに魔力を流せば、説明が表示されますよ」
蓋を開けていた男が、一気に飲み干している。喉が渇いていたのかもしれない。そして身体をぶるっと振るわせ、目を見開いている。
これは、初めてポーションを飲んだ人の反応だな。身体の中を駆け巡る感覚に、最初は僕も驚いた。あのときは、ドブの臭いがするポーションだったけど……。
「体力が1,000も回復すると書いてある! 空腹感は変わらないが、確かに辛さは消えたな」
すると、次々と小瓶を開ける人が出てきた。その様子を見て、やっと、僕の前にいる男も小瓶の蓋を開けた。
「火無効付きって……お頭! コイツらは、これを飲んでいるから平気な顔をしてるんですよ」
「確かに、これを飲むと汗が引く。何なんだ? この薬は? 奇跡の薬か?」
(本当に知らないんだ)
「ポーションは、基本的には体力を回復するものです。僕達が売っているポーションは、普通のポーションとは違って、飲みやすい味なんですよ。いくつかの種類がありますが、今回、行商に持ってきたのは、この火無効付きのポーションです。火山に近寄っても平気です」
「こ、こんな薬があるなんて……。だから奴らは追い詰めても、なぜかすぐに立て直すのか。我々の方が強いはずなのに、こんな薬を使っていたのか」
お頭と呼ばれた男は、ワナワナと震えているようだ。事情はよくわからないけど、彼らが貧民になっている理由は、これかもしれないな。
「ポーションは高価ですが、命を守るために重宝しますよ」
「そうか。だからポーション屋は、他の星に行商に行けるのだな。安物を売るなら、宇宙船を借りるわけにもいかないだろう。それを知り、買う財力のある者が、この宇宙の覇者に近づくのだな!」
(えっ、大げさ……)
「使える道具は、多い方が良いでしょうね。必要な量を、お売りしますよ?」
僕がそう言うと、その男はギロリと僕達を睨んだ。あぁ、お金がないのかもしれないな。
「その薬は、1本いくらだ? 試供品を配るくらいだから、相当高く取るのだろう? 金貨10枚か? まさか100枚か?」
(はい?)
僕が一瞬、呆けたのだろう。城兵がすかさず、答えてくれた。
「1本あたり銀貨10枚です。10本買ってくれたら、1本おまけをつけますよ」
「やはり10枚か……妥当な価格だ」
(わかってないな)
「銀貨10枚です。金貨ではありません。10本で金貨1枚です。店員がおまけの約束をしたので、金貨1枚で11本お渡しします」
僕が補足すると、ガチャリと音がした。振り返ってみると、驚いた人が持っていた武器を落としたようだ。
「な、なんと! そんなに安いのか! うぉぉお〜、皆の者! 彼らを、蔵にご案内しろ!」
木金お休み。
次回は、12月24日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




