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63、バナバナ星 〜宇宙海賊の町へ

「なんか、変な膜に覆われてますね」


 僕達は、宇宙海賊が造ったという町が見えてきた。村ではなく町と呼ぶだけあって、それなりに広いようだ。そして、その町全体をゼリー状に見える膜が覆っているのだ。


「これが、高温多湿のこの星の気候から守る結界じゃろ。制服がないと、こんな星では1分で汗だくで動けなくなるのじゃ」


(女神様は、やはり警戒状態だな)


 全くふざけないし、適切な返答をしている。いつもとは別人だ。だけど、これが女神様の本来の姿なのだと思う。いつも、はちゃめちゃだけど、それは僕達に甘えているだけで、本来は真面目で誠実な女神なんだ。


 しかし、この星の女神バナバナ様がどこにいるかは知らないけど、こんな勝手な町づくりを許しているのだろうか。



「この結界内では、互いに店長と呼ぶのじゃ。妾(わらわ)は、ティア店長じゃ。良いな?」


 女神様は、皆に呼び方まで指導してるよ。あぁ、様呼びはマズイということかな。宇宙海賊の中には、星を失った神も紛れているだろう。



 僕達は、お揃いの白いダウンジャケットのような物を着て、頭にはそれぞれ色分けしたベレー帽のような帽子を被っている。


 白いダウンジャケットの背中には、黄の星系の共通語で『伝説のポーション屋』と書かれている。これを女神様は制服と呼んでいるが、クマちゃんマークのベアトスさんが作った魔道具服だ。快適な温度湿度に保たれている。


 ベレー帽のような帽子は、赤、青、黄、緑の4色に分かれていて、店長1人と城兵5人のグループ分けに使われているように見えるだろう。だけど、これは、女神様が創り出した魔道具で、こんな環境下でも念話が可能になるそうだ。


 この星の高温多湿な不快すぎるねっとりとした空気は、通常の魔道具の稼働や魔法の発動を阻害する。だから、女神様は急遽、創り出したようだ。


 そして念話のためだけじゃなくて、それぞれに適した素材で作られているようだ。


 女神様の黄色の帽子は、マナ収集。集められた城兵は、女性5人だ。女性だから選んだような気もするけど、僕の城兵20人の中に5人だけいる女性は、皆、魔力が高いから、最も役に立つ帽子だといえる。


 タイガさんの赤い帽子は、炎耐性。彼のグループには、炎系の魔剣を使う戦闘力の高い5人が選ばれている。


 ジャックさんの緑色の帽子は、精霊ハデナ様が守るハデナ火山のの樹木から作られているそうだ。炎と風の加護が備わっているという。彼のグループには、スピードに優れた人が集まっている。二つの加護は嬉しいよね。


 そして僕の青い帽子は、闇耐性。ウロコみたいな素材なので、闇を使っても他の属性を使っても抵抗がなさそうだ。僕のグループには、特別な特徴はない。3人のグループに入らなかった余枠みたいだ。



「皆の者、オレンジジュース味のポーションを、どのグループが一番たくさん売るか、勝負じゃぞ? 互いに競っていることを、奴らにすりこむのじゃ。真の目的は、皆、わかっておるな?」


 女神様の言葉に、皆、困ったような笑顔を張り付けて頷いている。


(なぜ、勝負するのだろう?)


 そう考えた瞬間、女神様の視線が僕に向いた。また、頭の中を覗いてた? もしくは、この帽子のせいかも。


「宇宙海賊も一番になるために競っておるではないか。一番の売り上げをあげた店長と店員には、伝説のポーション屋のオーナーから褒美が出るのじゃっ」


(オーナーって誰?)


 皆の視線が僕に集まった。えっと、やはり、僕のことかな。何かを促す視線……。褒美を宣言しなきゃいけないのかな?


「その褒美って何や?」


 タイガさんは、女神様にそう尋ねてくれた。すると女神様は、僕に何かを促すように、アゴをくいくいと動かしている。だけど、突然そんなことを言われても困る。



「ふむ、その褒美は、じゃな。欲しいポーションを作ってもらえるのじゃ。新作に挑戦もアリじゃぞ」


(はい?)


「へぇ、それなら、やる気が出るっすね。俺は、身体強化のポーションが欲しいと思ってたっす」


 ジャックさんが目を輝かせた。


「腹黒店長が、何を勝手なこと言うとんねん。せやけど確かに、新作をリクエストできるのはおもろいな。リュックの能力から考えて、不可能はない気がするで」


 タイガさんまで、興味津々だよ。


「うむ。ライトのグループも一番になったら、店員みなが好きなポーションを作ってもらえるのじゃぞ」


「夢が広がります!」


「マジっすか? 本気っすか?」


「ライトとリュックに不可能はないのじゃ。一番になれなかった場合でも、売り上げ金は、店ごとに頭割りで山分けするから心配は無用じゃ」


(はい? グループごとに分ける?)


「ポーションの売り上げ金って、すごい金額になりますよね? 私達の普段の給料より……」


「うむ。宇宙への出張手当が含まれるからの。当然の権利じゃ」


 女神様の言葉に、城兵達が騒がしくなってきた。


(お金で釣ってるよ……)


 まぁ、臨時収入は嬉しいものだけどね。


「この星に特産品があれば、山分けした売り上げ金を使って、買っても良いぞ。イロハカルティア星に持ち帰れば、皆に自慢できる美味しい菓子があるやもしれぬ」


(いや、お菓子って……)


 女神様の頭の中は、常に、民の……特に子供達の笑顔を保つことでいっぱいなのだと思う。




 女神様は、タイガさんとジャックさんに、カシスオレンジ風味の『F10』火無効付きポーションを……大量に渡している。一瞬、空中に現れた小瓶の大群が、二人の魔法袋へと収納されていく。一度では終わらない。リュックくんは、どれだけ渡したんだろう?


「うむ。不人気なオレンジジュースも、この星だと激売れなはずじゃ。皆、思いっきり売るのじゃ。値段は、イロハカルティア星では、1本銀貨1枚らしいが、定価は銀貨10枚にするぞ。そこからの値引き交渉は、店長次第じゃ。売り上げ金は、ネコババせずにこれに入れるのじゃ」


(ネコババするのは、女神様だけだと思う)


 帽子の色と同じ色の魔法袋が渡された。


「お金は、店長が持つのじゃ。金狙いの宇宙海賊に、店員達が襲われたらかわいそうじゃからな」


(まぁ、確かにそうだな)



「では、いざ、出陣なのじゃ!」


(はい? 出陣?)


 僕だけでなく、何人もが首を傾げると、タイガさんが口を開く。


「あぁ、今、湖上の街ワタガシの劇場でな、戦国系の劇をしとるんや。戦国武将が戦いに出向くときのセリフで、出陣じゃと言わせとるからな」


(そんな劇をしてるのか。知らなかった)


 僕を含め、皆、微妙な表情で軽く頷いている。この世界の人に戦国武将って言っても、わからないもんね。




 ◇◇◇




「止まれ! 何者だ? 許可証は?」


 宇宙海賊の町の門で、僕達は剣を突きつけられた。いきなり剣を抜くって、どういうことだ?


「妾(わらわ)達は、行商人じゃ。ほれ、背中の文字が読めぬのか?」


 猫耳の少女は、いつもの調子で挑発している。


「何だ? 伝説のポーション屋だと? そんな宇宙海賊団は聞いたことがない」


「おぬしは、アホなのか? 宇宙海賊団ではなく、イロハカルティア星から来たポーションの行商人団じゃ。皆で、売り上げ競争中じゃから、町を見つけたから来たのじゃが……暑さで、頭がおかしくなっておるのか?」


(あおりすぎ……)


「な、何だと? 適当なことを言うな!」


「だが、コイツら、外を平気な顔をして歩いて来たぜ? イロハカルティア星の伝説のポーション屋って、アレだろ?」


「あぁ、青の神ダーラが、配下にしようと狙っている男が作るんだよな? 女神イロハカルティアの側近のやべぇ奴が」


 門番達は、コソコソと相談を始めた。


 すると、女神様は、1本、魔法袋から取り出して、文句を言っていた門番に渡した。


「試供品じゃ。本当なら、銀貨10枚じゃが、信用してもらえねば、この町で行商できぬからな。黄色店からの試供品じゃぞ。赤色店や青色店ではなく、黄色店じゃぞ?」


(何、その店名……)


「飲みやすいカシスオレンジ風味の火無効付きポーションです。体力を1,000回復し、火および炎属性の攻撃を完全無効化します。火無効の効果は約1日で消えますが、1本で1日、結界なしで出歩けますよ?」


 僕がそう説明をすると、猫耳の少女は、僕を睨む……フリをしている。芝居くさい。


「試供品は、黄色店から渡したぞ? 他の店も門を通りたければ、試供品を出すのじゃ」


(何だろう、この展開……)


 ジャックさんが別の門番に1本渡しているのを見て、タイガさんと僕も、仕方なく1本差し出した。



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