62、バナバナ星 〜カシスオレンジ風味のポーション
なぜか僕達は、宇宙海賊が造っている町に、徒歩で向かうことになった。女神様の城で決めていた作戦を、女神様はぶっ潰すつもりだろうか。
ただ、子供好きな女神様が、誘拐されて囚われている女の子達を放っておくとは思えない。きっと何か理由があるのだろうけど……。
「腹黒ババァは、何を察知したんや? 俺らの作戦もわかっているはずやないけ?」
「ふん、誘拐された子供達を救出しても、根本的な解決にはならぬと、言うておったではないか。柵の中が空っぽになると、奴らは焦って、また大量に誘拐をするぞ。そうすると……」
女神様はそこで口を閉ざした。そうか、どちらにしても最悪だな。
これまでは学校に入学する前の子ばかりが狙われていたけど、奴らは武術学校を襲撃した。ターゲットの年齢を上げたんだ。デイジーちゃんを狙っているなら、まさしく彼女は武術学校に通う年齢だ。今度こそ奴らは、デイジーちゃんを捕まえてしまうかもしれない。
それに、助け出した同じ子が、再び誘拐される可能性もある。二度も誘拐された子の心の傷はどうなる? プライドの高いアマゾネスの女の子は、完全に心を折られてしまうだろう。そうなると、もはやアマゾネス国では生きていけない。弱い女性は、アマゾネスを名乗る資格を剥奪されるのだから。
女神様は、僕にチラッと視線を移すと、そのまま皆の方を向いた。僕の考えを、また覗いていたらしい。この反応は、当たりのようだ。女神様は根本的な解決をしたいと考えているんだ。
(そのためには、主犯捜しだな)
宇宙海賊が、なぜアマゾネス国の女の子を狙うのか。以前と同じ犯人なら、魔人の子であるデイジーちゃんを利用したいからだ。デイジーちゃんのクローンを造って、兵器にしようとしているらしい。
「皆の者、ここにいる24人全員は、今から伝説のポーション屋じゃ。あちこちの星を行商してまわっておるのじゃ」
女神様が、設定を語り始めた。作戦をぶっ潰されて、僕が担当する城兵達は混乱しているようだ。
「ライトの部隊は、皆、ライトのポーションに関する知識はあるじゃろ? 5人ずつの4つのチームに分けるぞ。そして、それぞれのチームに店長として、妾とライトとタイガとジャックが付くのじゃ」
(はい? 店長?)
「ちょ、ティア様、チームに分ける意味がわかりません。何がしたいのですか?」
「ライトは、店長は嫌なのか?」
「いえ、そういう意味では……」
「なら、ライトも店長じゃ。何色が良いのじゃ? ライトは特別に一番に選ばせてやるぞ」
(はい?)
「何色って何……はぁ」
猫耳の少女は、ベレー帽のような帽子を作り出した。赤、青、黄、緑の4色だ。
「ふぅん、腹黒ババァの魔道具やな。通信用か」
タイガさんに腹黒ババァと呼ばれても、全く気にしない猫耳の少女。いつものように騒がないことから、女神様自身が警戒していることがわかる。
アプルゴルド星でわかったことだけど、他の星にいると女神様はよく眠る。星からエネルギーを得られないためだ。
「妾は、黄色にするから、ライトはどれが良いのじゃ?」
「え? 僕が一番最初に選べるんじゃないのですか?」
そう反論してみると、女神様は口をあんぐりと開けている。黄色を選ぶと怒るかな?
「ライトは、ワンコ好きじゃから、アトラの色、青じゃな。うーむ、脳筋のタイガは赤じゃ。余りの緑はジャックじゃな」
(女神様が決めてるじゃん)
自分は黄色のベレー帽をかぶり、僕達にもポイポイと放り投げてくる。でも、最初から決めてあったような気がする。僕が受け取った青いベレー帽は、布ではなくウロコのようなもので出来ている。
「余りと言いつつ、この素材は俺のための物っすね。ハデナの樹木から出来てるっすよね? 炎と風の加護を感じるっす」
ジャックさんがそう言うと、女神様は明後日の方向を向いている。照れているのだろうか。素直じゃないよね。
「俺の赤い帽子は、炎耐性らしいな。ライトの青い帽子は、闇耐性か?」
「ウロコみたいな素材なので、闇を使っても抵抗が無さそうです」
「ふぅん、黄色は何や? あぁ、マナ収集か。じゃあ、おまえら、自分に合う帽子を選んだらええ。それで自然にグループが決まるやろ」
タイガさんがそう言うと、城兵達は困ったように相談を始めた。だよね、みんなきっと、マナ収集の帽子が欲しいだろう。だけど黄色を選ぶと、女神様のお世話だもんな。
「皆が選ぶのではない。帽子が皆を選ぶのじゃ」
そう言うと、女神様はたくさんの帽子を無造作に放り投げていく。帽子は意思を持つかのように、城兵の手に落ちていった。
(これも、女神様が決めてたみたいだな)
女神様と同じ黄色の帽子を受け取ったのは、城兵20人のうち、5人しかいない女性ばかりだ。確かに、彼女達は、隠密部隊の中で魔力の高い人達ばかりだ。マナ収集の帽子は、役に立つ。
そして、タイガさんと同じく赤い帽子を受け取ったのは、剣術の能力の高い5人だ。魔剣で炎を使う人ばかりだな。炎耐性の帽子は、確かに最適だ。
さらに、ジャックさんと同じく緑色の帽子を受け取ったのは、スピードに優れた5人だ。戦闘力は城兵の中では低いが、隠密能力は高い。炎と風の加護はありがたいだろう。
最後に、僕と同じく青い帽子を受け取ったのは……うーむ、共通点がわからない。個性の少ない5人か。万能タイプとも言えるかな? たぶん、その他枠だろうけど。
「皆、帽子を被ったか? 妾の魔力から作り出したから、こんな陰湿な場所でも念話は可能じゃ。どのチームがたくさん売るか勝負じゃぞ」
(はい? そのためのチーム分け?)
「腹黒ババァの話ではさっぱりわからんから、俺が補足しとくで。宇宙海賊団は、数人のグループに分かれて行動しとる。それを真似てるつもりやろ。全体の人数を把握できへんようにする意図があるらしいわ。俺ら全員で町に入っても、グループ分けしとったら他にも仲間がおると、勝手に誤解しよるからな」
「タイガさん、俺の城兵も来てるっすよ?」
「あぁ、それはただの派手な客寄せパンダやないけ。あ、逆か。客避けパンダやな」
タイガさんは、たまに変なことを言うんだよね。パンダを知らない皆は、首を傾げるしかない。
(やはり、いつもとは違う)
タイガさんが変なことを言うと、必ず女神様はツッコミをいれる。だけど今はスルーしてることから、城兵達にも、女神様が警戒状態だと伝わったようだ。
「ライト、売り物を店長に渡すのじゃ」
「えっと、いつもの3種でいいのでしょうか」
完全にスルーされたタイガさんは、黄色のベレー帽を被った城兵達に目配せしている。彼女達に、女神様への配慮を促しているのだと思う。
「いや、宇宙海賊じゃからな。10%回復やクリアポーションは、もったいないのじゃ。ハデナの果物で作るアレだけでよい」
「カシスオレンジ風味の『F10』火無効付きポーションですか?」
「うむ、この星だと、激売れじゃろ」
カシスオレンジ風味の火無効付きポーションは、体力を1,000回復する。火および炎属性の攻撃を完全無効化するんだ。火無効の効果は約1日で消えるけど、持続時間は、かなり長い方だと思う。
「火属性の攻撃を無効化することはできますが、この高温多湿はどうにもなりませんよ?」
「この陰湿な気候は、火山と火山湖のせいじゃ。そのオレンジジュースで暑さは軽減されるじゃろ? 爆売れじゃ!」
(そうかなぁ?)
こんな星に出入りする宇宙海賊なら、炎耐性くらいあるんじゃないのかな。でも、確かに宇宙海賊に、モヒート風味の10%回復ポーションや、パナシェ風味のクリアポーションは、売りたくない。
「わかりました。じゃあ、ここに出しますね」
「うむ? リュックに言って、それぞれの魔法袋に入れ替えさせれば良いではないか」
(いないのがわかってて言ってる?)
「リュックくんは、アプルゴルド星ですよ。置き去りにしてきましたよね?」
「ちょちょいと呼べば良いではないか」
リュックくんは、アプルゴルド星の防衛のために、宇宙海賊団をまとめてるはずだ。
『はぁ、ったく、うるせーな』
(あっ、リュックくん、戻ってきて大丈夫なの?)
『大丈夫じゃねーよ。おまえの魔力を吸収したら、すぐに戻る』
左肩から、紐がスルスルと伸びてきて、女神様が腰に装備している魔法袋にプスリと刺さった。その直後、ガツンと魔力を吸われる感覚。
なるほど。女神様の命令に従ったというより、魔力を吸収するために戻ってきたんだね。
『ふん、じゃーな』
リュックくんの気配は、スッと消えた。
「のわっ? なぜ、全部、妾の魔法袋に入れるのじゃ? タイガとジャックに配るのじゃ!」
「ティア様、リュックくんは、もう戻りましたよ」
「うぬぬぬ、リュックは反抗期なのじゃ!」
水木金はお休み。
次回は、12月17日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




