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39、アプルゴルド星 〜ペンラート星の呪術士

「グハッ!」


 赤の神の近くに、黒い髪の男性が倒れた状態で現れた。高い位置から転がり落ちたのか、肩を強打したらしく、痛そうにさすっている。


 ゲージサーチをしてみると、体力ゲージが1本、魔力ゲージが3本。完全に魔導系だよな。だけど、これはダミーかもしれない。カースと同じペンラート星の住人だから、ダミーを見せる能力があるかもしれないよな。カースとは違って呪術士だと言っていたけど。


 カースのゲージは、見るたびに構成が変わるんだよね。まぁ、色は誤魔化せないから、別にいいんだけど。


 肩をさすっている男性は、体力ゲージも魔力ゲージも青だ。ほとんど満タンに近いのだろう。


 ゲージの色は残量が、80%以上なら青、60%以上なら緑、40%以上なら黄、20%以上ならオレンジ、それ未満なら赤だ。そして死亡時は、体力ゲージが黒くなる。



「なぜ、俺の居場所が……」


 肩をさすりながら、黒い髪の男性は僕を睨んでいる。いや、違う。僕の背後か。


「俺の主人が、力を使おうとしたから止めてやったんだ。感謝しろ、落ちこぼれ呪術士」


 カースは、僕を盾にするかのように、僕の背後に立っている。女神様からの死角にいると言う方が正しいかな。猫耳の少女はキョロキョロと、カースの姿を捜しているようだ。


「なんだと? おまえは、何者だ!? 俺は、赤の神グリースを従える呪術士だぞ。神を従える呪術士だ」


(二度も言った)


「だから何だ? そんな弱い神を従えたり、弱い神の能力をいくつか得ていても、落ちこぼれに変わりはない」


 カースの顔は見えないけど、きっとバカにしたような冷たい顔をしているよね。カースがなぜ落ちこぼれと言うのかはわからないけど、彼の顔色が変わった。ペンラート星に生まれた人には、効果のある嫌味なのだろうな。



「うむむ? カースは、なぜライトの背に隠れておるのじゃ? 確かに、このよわよわな神を従えても自慢にはならぬなっ」


 猫耳の少女は、カースの姿を見つけると、嬉しそうな笑みを浮かべている。最近は、カースはまるで女神様の配下かのように、こき使われてるもんね。


「あぁ? 腹黒猫にバレたくなかっただけだ」


 カースにそう言われて、猫耳の少女はキョロキョロと辺りを見回している。


「腹黒猫など、どこにおるのじゃ?」


 キョトンと首を傾げてみせる猫耳の少女……しらじらしい。カースの小さなため息が聞こえた。



「おまえがどこかの神になりたいなら、黄の星系から出て行け。ここは、非戦の中立の星系だ。星を奪い取りたいなら、赤か青の星系に行け」


 カースは、女神様のしらじらしいキョトンは無視して、黒い髪の呪術士にそう言った。だが、そう言われたからって、はいわかりましたなんて、言うわけないよね。


「……く……くそっ……わ……わかった」


(えっ? わかっちゃったの?)


「赤の神グリース、おまえはどうするんだ? 落ちこぼれ呪術士について行くのか? それとも、イロハカルティア星に行くか?」


 カースの言葉に、赤の神は頭を抱えた。なぜか苦しそうな表情に見える。そんなに苦しみ悩むことなのかな?


「カース、おぬしの術が強すぎて、よわよわな神は返事ができないのじゃ。ライトが闇を漏らしてるからって、それを拝借してパワーアップするのは、泥棒猫なのじゃ」


(えっ? あ、少し漏れてたか)


 振り返ると、カースが僕の闇を纏って漆黒に輝いていた。もしかして、僕の背後にいるのはそのため? 僕は、足元に漏れていた闇を回収した。神アプルゴルド様が闇属性に弱いなら、このままにはしておけない。


「あぁ、もう、引っ込めるなよな。まぁ、無くても余裕だけどさ」


 これもカースの術なのだろうか。黒い髪の呪術士は、反論さえできなくなっているようだ。目つきはギロリと鋭いけど、何も言えないらしい。



 カースが、赤の神への術を弱めたのか、彼は頭から手を離した。こちらを見た彼の表情は、青ざめている。


「ど、どこの神だ!? 彼をこんな風に操るなんて……」


 赤の神が呪術士に仕えているらしいことは、伝わってきた。だけど、赤の神は宇宙海賊なんだよね? あの呪術士は、宇宙海賊をそれなりに従えてるってことかな。


「赤の神、そんなことより、どっちか選べ。まさか、ここに居座るつもりじゃないだろうな? あー、まぁ、この星に居座るなら、仕える主人が変わるだけか」


「お、おまえ……何者だ!!」


 赤の神は、カースの素性を知りたいらしい。だけど、さっきから、カースって言ってるよね?


 すると、カースは、黒い髪の呪術士に冷たい視線を向けた。


「おまえ、自分で俺に名を尋ねる勇気はないらしいな。尋ねると、俺に自分の名が知られると恐れているのか。小者こものすぎて、笑う気にもならない」


(うっわ、バチバチだな)


 そういえば、カースの本当の名前は別にある。確か、レスティンだっけ。本当の名を知られると呪術に使用されるから、ペンラート星では住人は皆、偽名を使うんだよな。


 黒い髪の男性は、呪術士だ。カースは幻術士だから、呪術に関しては、黒い髪の男性の方が上なのかもしれない。



「おまえこそ、名乗る勇気がないのだろう」


(自分で反論しろよ)


 黒い髪の男性は、赤の神に言わせている。ほんと、小者だな。でも、用心深いから、ここまで生き延びてきたんだろう。


「赤の神グリース、おまえには神としてのプライドは無いのか? 仕える主人の名前も知らないのだろう? ペンラート星の者は、信頼した相手には自分の名を告げる」


 カースにそう言われて、赤の神は、黒い髪の男性の方を見た。だけど、睨み返されて目を逸らしている。呪術を込めて睨まれると、直視できないのか。




「ちょっと、あんた達っ! 何を見つめ合っちゃってるのっ。あーっ、このねちこい魔力、さては、あちこちに穴を掘りまくってるのは、貴方ねっ!」


 目の前に、突然、赤いワンピースのチビっ子が現れた。頭の上の花が、ピコピコと激しく動いている。


「魔力にねちこいとかサラサラとか、あるのかよ」


 カースが、魔王サラドラさんにそう尋ねると、チビっ子は、ビシッとカースを指差した。


「あるわよっ。あたしの炎にまとわりつくねちねちしたヤツとか、簡単に消し炭になるヤツとか、いろいろ違うのっ」


(初耳だよ。本当かなぁ?)


『アホのサラドラが苦手か否かの違いだ。魔力の濃さのことを言っている』


(あっ、魔王カイさん。なるほど、それならわかります)


 猫耳の少女の肩に乗った小さな白いスケルトンに視線を移すと、彼はカクカクと手を動かしている。僕も軽く手をあげて、挨拶を返した。



 ベアトスさんと、ノームの魔王ノムさんも現れた。魔人レイは居ないみたいだな。あっ、魔法袋の一つに戻っているのか。


「遅くなっただ。深い綻びは、だいたい埋めただよ。星のエネルギーの流出は止まったはずだよ」


 ベアトスさんの報告に、猫耳の少女は、満足げに頷いている。この場所で集合予定だったのかな。




「何なんだ? コイツらは。それならば、俺も……」


 黒い髪の男性が、身体から強い波動を出した。


(マズイ!)


 僕が動くよりも先に、カースが動いていた。女神様や神アプルゴルド様には、黒い髪の男性の波動は届かない。だが、僕はその波動によって、数メートル飛ばされた。



「応援を呼んだつもりか? ふん」


 魔王ノムさんは、心底つまらなさそうに鼻を鳴らした。しばらくすると、次々と転移してくる人が……。


(ありゃ、そういうことか)


 集まってきた人達は、ほとんどが火傷を負っていて、手や足には、重そうな土の塊が付いている。手錠や足枷あしかせというより、重しが付いている感じだ。魔王ノムさんを見て、その表情は引きつっている。



「なっ? なんだ、おまえ達……くそっ!」


 再び、何かの術を使おうとした黒い髪の男性を、カースが制した。


「やめておけ。俺の主人が怒るぞ」


「は? 何を……。こんなガキが何だ?」


「彼は、女神イロハカルティア様の番犬だ。青の神ダーラと相打ちになった少年と言う方が伝わるか? ザナローク」


「な、な、なぜ俺の名前……な、何を……青の神ダーラ? 青の星系の覇者と相打ち……ハッ! まさかライトか! ライトと言って……ということは、おまえは、カースか!?」


(ずっと、カースと言ってるじゃん)


 黒い髪の男性は、ガクリと崩れるように座り込んだ。目を開いたまま失神しているようにも見える。



「ふむ、なんだか、頭がプッチンしておるのじゃ。カース、こんな奴らは放置じゃ。どどーんと、始めるのじゃっ」


 猫耳の少女に腕を掴まれて、カースはゲンナリとした顔を、僕に向けた。



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