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38、アプルゴルド星 〜邪竜の背後に

「爺さん、ほれ。とりあえずもう2本渡しておくのじゃ。今日は、もう飲んではいけないぞ。1日1本じゃからな」


 猫耳の少女は、今度は2本取り出して、神アプルゴルド様に渡した。もう、赤の神らしき男性は、この輝きポーションには興味を示さない。


「あぁ、あああ……ありがとう。だが、今、私は金貨を持ち合わせていなくてな」


「妾(わらわ)達は、今日もポーションの露店をするから、急がなくて良いのじゃ。心配しなくても、妾達がイロハカルティア星に帰るまでには、必ず集金するのじゃっ」


 猫耳の少女がそう言うと、神アプルゴルド様は優しい笑顔で頷いた。そして、何かを言おうとしたようだが、言葉を飲み込んだらしい。


(2本では足りないよね)



 輝きポーションは、今は市販はしていない。若返りの美容ポーションとして、若くない女性には飛ぶように売れるんだけど、1日1本を超えて飲むと、種族によっては猛毒に変わることがある。だから、販売をやめたんだ。


 女神様は、かなりの量の輝きポーションを溜め込んでいる。またイロハカルティア星が攻撃を受けて、星に綻びを作られる可能性があるから念のためじゃ! とか言っているけど、それはただの言い訳だと思う。


 確かに僕がこの世界に転生してきた頃は、イロハカルティア星は深刻な状態だった。だけど今は、最強魔人のリュックくんもいるし、何より、幻術士のカースがイロハカルティア星を守っている。


 カースは僕の配下だけど、本来ならペンラート星の神を継ぐべき存在らしい。彼は、自由を奪われるのが嫌だから、一生、僕の配下でいると言ってるけど。


 ペンラート星の幻術士は、青の星系では知らない人がいないほど有名らしい。中堅の魔導系の神々は、ペンラート星には近寄らないそうだ。敵わないということだよね。


 そんな星を治める神を継ぐべきカースは、幻術士としての能力は、すべての星系の中でトップじゃないかと言われている。


 彼が僕の配下になったときは、別の神に従わされていたから、カースがそこまでの能力を持つなんて知らなかった。あの頃の僕は、すごく弱くて無知だったから、気づくことなんて不可能だったと思う。


 名探偵を名乗る魔王サラドラさんは、カースが僕の配下なのが謎すぎると、よく言っている。それは、僕もそう思う。単純な相性の問題なのかもしれない、という気はするけど。




「もっと欲しいなら、お肌がツルツルになってから言うのじゃ。今、たくさん渡しても、品質を維持する魔力がもったいないじゃろ?」


 猫耳の少女は、そう言うと、老人の肩をポンポンと叩いている。


(あっ、気づいたかな?)


 神アプルゴルド様は、信じられないモノを見るような目で、猫耳の少女に釘付けになっている。神だから、触れたら女神イロハカルティア様だとわかるのかな。



『鉱物系の種族だから、わかるんだよ。この程度の他の神には、魔王カイの認識阻害は破れねーぜ』


(リュックくん!? ずっと無言だったのに……)


『あぁ、いろいろ忙しかったんだよ。魔人レイが、うざいの何のって……はぁ、うっざ』


(ベアトスさん達と連絡を取ってたんだ)


『まぁ、それだけでもねーけどな』


(そっか。あっ、でも、なぜ女神様は自分の正体をバラしたの? ポーションの行商人だと言い切ってたのに)


『全体像が、やっとわかったからだ。正体を隠していたら、神アプルゴルドは、どこまでも邪竜をかばうだろーからな』


(うん? 神竜が星を乗っ取ろうとした騒動じゃないの? 宇宙海賊が絡んできてるけど)


『腹黒女神が直接、邪竜に会うまでは、それだけかと思ってたみてーだが、会ってみて違うと気づいたらしーな』


(どういうこと? あっ、シャインは、まだ神竜のそばにいるのかな)


 そう話していると、映像が送られてきた。ワープワームの族長さんは、ほんと、仕事ができるよね。


 シャインが淡く光っているのが見える。守護獣が使う精霊魔法だな。倒れた男性に治癒を施しているようだ。あっ、神竜が倒れてる? まさか、魔王カイさんが倒したのかな。


『おまえなー、そんなことをする理由ねーだろ。さっき、そこで固まってる赤の神が自分で言ってたじゃねーか』


(あっ、眷属(けんぞく)を焼いたってこと? あー、そっか、神竜とは目に見えない何かで繋がっているから、神竜もダメージを受けたのか)


『あぁ、そーいうことだ。だから、シャインが癒してるんだろ。放っておくと邪竜は死ぬからな』


(えっ? じゃあ、赤の神らしき奴らの勝ち? でも、全体像が違ったって、どういうこと?)


『邪竜の背後に、ラスボスがいるってことだ』


(神竜が操られてるの?)


『いや、邪竜は、自分の協力者だと思ってたんじゃねーか? だいたい、竜がこんな大勢に呪術をかけられるわけねーんだ。呪術神の能力を得ているのかと、腹黒女神は考えてたみてーだが、邪竜は、魔王カイのオーラさえ破れなかったらしーからな』


(呪術神なら、アンデッドの魔王と互角以上だもんね。だから、背後に何者かがいるとわかったんだ)


『あぁ、だが、腹黒女神とは相性が悪い相手だな』


(女神様は、呪いに弱いもんね。呪術系の神が相手なら……)


『神じゃねーよ。ペンラートの呪術士だ。ペンラート星では呪術士は、幻術士より格落ちだから、他の星に移住した奴みてーだけどな。神の能力をいくつか吸収してるから、神になりたいんじゃねーか。もうすぐここに来るぜ』


(えっ? ちょ、ヤバイじゃん。リュックくんも、登場してよ)


『オレより、もっと適任がいるだろーが』




 突然、空気が重くなった。


(ちょ、来た!?)


 そう尋ねても、リュックくんからの返事はない。まさか、知らんぷりしないよね? リュックくんは、カースを呼べと言ってるんだろうけど、カースは、今、たぶんこの近くにはいない。



「のわっ? 変なのが来たのじゃ。星の門を無視して入ってくるとは、行儀が悪いのじゃ」


(僕達も、星の門は通ってないけど)


 猫耳の少女は、神アプルゴルド様の腕を掴んだ。老人と少女は同じくらいの背丈だけど、なんだか女神様の方が大きく見える。


「あ、あの、貴女には……」


「うん? 妾は、ティアじゃ。女神の猫なのじゃ」


「えっ? 女神様の猫?」


 神アプルゴルド様は、一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐにそういう設定なのだと気づいたようだ。



「ふん、どこの女神の飼い猫か知らんが、もう偉そうなことは言わせないぜ」


 赤の神らしき男性は、急に元気になっている。


(あっ、来たな)



 重い空気は、さらに重く感じるようになった。倒れそうになっている老人を猫耳の少女が支えている。白い小さなスケルトンは、少女の肩に乗せられている。女神様の護衛は、魔王カイさんに任せておけばいいね。



「もう偉そうに言わせない……ということは、失敗したのですか? 赤の神グリース」


(赤の神グリース? 知らないな)


 声は聞こえたけど、姿は見えない。近くにいるはずだけど、その気配は感じ取れない。神の能力をいくつか吸収している呪術士か、厄介だな。


「失敗などしていないぞ! おまえの手駒の竜は、もう死んでいるだろうし、この星の神は、瀕死の爺さんだぜ」


 赤の神の言葉に、神アプルゴルド様が息を飲んだのが伝わってきた。神竜は神の配下なんだっけ。


「神竜を殺したのか!? いつ? そんな気配は……」


「衰えた神には、これだけあちこちに竜のウロコがあれば、気づかないだろう。竜が、おまえを裏切っていたことにも気づかないくらいだからな。アハハハ」


「そ、そんな……」


 神アプルゴルド様は、ガクリとうなだれている。



「何をほざいておるのじゃ? 邪竜は生かしておるぞ。奴が死ぬと、奴が溜め込んでいたヘソクリが飛び散ってしまうからの」


 猫耳の少女がそう反論すると、重い空気が微かに動く気配があった。だが、呪術士の居場所が全くわからない。


(仕方ないな。付近全体に……)



『ちょっと待て! アプルゴルドは、闇に弱い』


(えっ? カース?)



 その声と共に、閃光が走った。



水木金はお休み。

次回は、11月5日(土)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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