37、アプルゴルド星 〜モスコミュール風味の輝きポーション
「ちょ、ティア様!? 突然、知らない人にそんな攻撃を仕掛けるなんて……」
「うむ? 妾は、落とし物を取ってくるのが遅すぎるライトを攻撃したのじゃぞ?」
(はぁ、すっとぼけてるよ……)
女神様は明らかに、赤の神らしき男性を攻撃したんだ。魔王カイさんの片腕をどうやって飛ばしたんだろ。
「知らない男性に当たって……彼は倒れてますよ」
「なんと!? ライトに当たらなかったのか? じゃが、カイのロケットパンチくらいで倒れるとは、かよわい種族じゃのぅ。大丈夫かの?」
猫耳の少女は、タタタと駆け寄ってきて、神アプルゴルド様の前に立った。いや、違う。飛ばした小さな白いモノを拾おうとして、上体を起こした赤の神らしき男性の足元に、しゃがみ込んだ。
(ちょ、蹴られるじゃん)
僕は慌てて、女神様に物理防御バリアを張った。
「この俺が、か弱い種族だと?」
少女を蹴り飛ばそうとした男性は、僕が張ったバリアを蹴って、痛そうに表情を歪めた。だが、そのひと蹴りで、バリアの耐久性は半減している。凄い怪力だな。
ボゥオッ!
女神様が攻撃されたことに怒った魔王カイさんが、反撃した。
(ちょ、やりすぎ……)
赤の神らしき男性と、その一団は、青い炎に焼かれている。魔王カイさんの青い炎は、魔王サラドラさんの灼熱の炎さえ消し炭にしてしまう威力があるんだ。
「カイ、かよわい奴らに、その炎は、ちとキツイのではないか? よわよわじゃから、燃えてしまうぞ」
女神様にそう言われると、魔王カイさんは青い炎をサッと消した。本当に女神様だけには、従順だよね。
ゲージサーチをしてみると、彼らの体力はオレンジ色になっていた。4本あるはずの体力ゲージは、1本しか輝きがない。体力残量は25%を切ってるんだな。
たぶん魔王カイさんは、相手の体力をガツンと削るために、彼らの弱点をつく攻撃をしたのだろう。
「クッ……おまえ、何者だ!? そんなおかしな武器を作るのは、青の星系の住人か」
赤の神らしき男性には、猫耳の少女が持つスケルトンは武器に見えるらしい。魔王カイさんの認識阻害能力は、半端ないんだよね。
「妾達は、黄の星系のポーションの行商人じゃ。よわよわなおぬし達に、見本品をやるのじゃ。ライト、失敗作を渡してやれば良いのじゃっ」
(はい? 失敗作?)
「失敗作など使えるか! バカにしやがって。俺の力を……」
赤の神らしき男性が剣を抜こうとすると、猫耳の少女は白いスケルトンをズイッと、あの有名時代劇の印籠かのように見せている。
「おぬし達には、このカイが見えておらぬのか? 次は、妾は止めぬぞ。良いのか? よわよわなおぬし達は消し炭じゃぞ」
猫耳の少女にそう言われて、彼らは動きを止めた。そして、ピクピクと震えている。こめかみに血管が浮き出しているようだ。
(女神様は、相手をイラつかせる天才だもんな)
「皆さん、僕の連れが失礼しました。体力回復ポーションです。使ってください」
僕は、女神様がダメージを負わせた彼らに、モヒート風味の10%回復ポーションを配っていった。
すると、赤の神らしき男性に目配せをされた一人が、すぐに蓋を開けて飲んでいる。毒見役かな。そして、目を見開き、コクコクと頷いてみせた。
体力を10%回復しても、彼のゲージはまだオレンジ色だ。だけど、4本あるうちの2本に輝きが見える。体感的には、かなり楽になっただろう。
ポーションを飲んだ彼を、ジッと観察している赤の神らしき男性。疑り深い性格なのだろうか。別の人にも飲ませている。
女神イロハカルティア様なら、こういうときは自ら率先して口にするのにな。まぁ、女神様は、深く考えない主義だとも言えるけど、自分より弱い者を盾にしようとはしない。
(この人は、本当に神なのかな?)
「ライトの横におる爺さんには、こっちのポーションをやるのじゃっ」
猫耳の少女は、神アプルゴルド様に小瓶を手渡している。
「ティア様! 彼は、神アプルゴルド様ですよ?」
僕がそう注意すると、猫耳の少女は首を傾げて呆けた顔をしている。女神様が、神アプルゴルド様に気づかないわけはない。何の芝居だろう? あっ、素性がバレないようにという演技かな。
「神アプルゴルドは、小さな子供みたいな感じのはずじゃぞ。シャインよりは大きいが」
(えっ? アプルゴルド様は、まさかの偽物?)
僕は、思わず、老人に疑いの目を向けてしまったようだ。彼は、そんな僕に優しい笑みを返してくれた。
「私は、急速に老いた姿になってしまったのだ。お嬢さんは、私の本来の姿を知っているのだな。この星を以前に訪れたことがあるのかな」
「妾は初めて来たのじゃ。じゃが、泊まった宿に、神アプルゴルドの絵が飾ってあったのじゃ。おっきな獣人達が、絵を見てニヘラニヘラと笑っておったぞ」
(うん? 宿に絵なんてあったっけ?)
「あぁ、そういうことか。私は、獣人達には可愛らしく見えるようでな。皆、私を見ると、ニコニコしていたものだ」
老人は、懐かしそうに語っている。もしかして、アプルゴルド星の獣人さん達が小さな種族が好きなのは、神アプルゴルド様のことが好きだから、ということだろうか。
「爺さん、そのポーションを飲むと、ちびっとだけ元気になるのじゃっ」
猫耳の少女にそう促され、老人は、小瓶の蓋を開けた。
(あっ、この匂いは……モスコミュール?)
「甘い香りだな。ジュースのようだ」
「それは、美容ポーションじゃ。爺さんのお肌が、ちびっとだけ、シワシワが減るのじゃ」
(やはり、輝きポーションかな)
老人がラベルを眺めている。『B10 』と書かれてあるのが見えた。間違いなく、輝きポーションだ。
「ラベルに触れて魔力を少し流すと説明書きが表示されますよ」
僕がそう補足すると、老人はラベルに触れた。
「へぇ、輝きポーションというポーションがあるのか。体力を1,000回復する。ふふっ、確かに、ちびっと元気になりそうだね。ありがとう」
彼は、そのままグイッと小瓶を飲み干した。そして、数秒後、老人は目を見開き、再び、ラベルに目を移した。
「最も輝いていたときのすべての輝きを1%付与する、と書いてあるが、輝きとは……」
老人は、猫耳の少女を見て、涙を浮かべている。このポーションの効果がわかったみたいだ。僕がこれを女神様に渡したときも、同じような反応だったっけ。強気な女神様が、涙を流したんだ。
「爺さん、注意書きも読んだかの? 1日1本までじゃぞ。それ以上飲むと毒に変わるおそれがあるのじゃ。輝きを失っていない若者には効果はないが、爺さんなら効果抜群なのじゃ」
「おぉ……こんなポーションがあるなんて……おぉ……」
彼は、涙が止まらないらしい。そんな彼を見て、赤の神らしき男性は、怪訝な顔をしている。きっと、赤の神らしき男性が飲んでも、体力1,000回復のみだろうな。
「それは見本品じゃ。追加で欲しければ、1本、金貨1枚で売るぞ。妾は、ポーション屋じゃからなっ」
そう言いつつ、猫耳の少女は、輝きポーションを1本、手に持っている。
「俺にも、寄越せ!」
(あぁ、そうなると思った)
赤の神らしき男性が、少女から小瓶を奪って、すぐさま飲み干している。だが、真の効果がわからない彼は、首を傾げている。
滅びそうな星と命が繋がっている神なら、この真の効果に気づく。だけど戦乱で、まだまだ活気のある若い星を壊された神にはわからないだろう。
神は、星を失っても死ぬわけではない。だけど星は、神が滅びると、神と共に崩壊する。
ポーションを飲んだ神は、全盛期の1%分のすべての能力が回復する。そして、星にもその輝きを分け与えることができるんだ。
「チッ、回復したかもわからない。あぁ、鉱物系の種族でも回復できるのが珍しいのか」
そう言うと、赤の神らしき男性は、僕が渡したポーションを飲んだ。そして、目を見開いている。体力が10%回復しただけなんだけどね。
魔道具『リュック』が作るポーションは、リュックくん以外のすべての種族に効果がある。これは、珍しいのかな?




