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33、アプルゴルド星 〜神殿中庭の井戸へ

「ふぅ、長い階段じゃったな」


 地上に戻ってくると、猫耳の少女は、ぐたっとその場に座り込んでいた。そんな少女の様子を、大きな獣人さん達はデレデレとした顔で眺めている。もうすっかり見慣れた光景だ。


 僕が脅した効果もあったのか、あの小部屋にいた竜族の人達は、何もしてこなかった。時々、振り返っておいたことも牽制になったのかな。



「行商人さん、神殿への入り口は、いったん外に出ないといけないんだ。休憩したら、案内するよ」


 獣人さん達は、それぞれ神竜水を飲んでいる。大きな身体には、1本では足りてないようだ。だけど、さらに追加で飲むつもりはなさそうだ。それほど、この街の水事情が悪いのだとわかる。



「クラちゃんを待たせておるから、妾(わらわ)達は、そろそろ行くのじゃ。皆、案内してくれてありがとうなのじゃ」


 猫耳の少女は、ぴょんと立ち上がると、彼らにそう告げた。女神様は、まだ赤く平べったい形状の竜紐を手に持っている。おそらく紐状にすると、痕跡をたどれなくなるのだろう。


「そうか、足元に気をつけてな」


「うむ、気をつけるのじゃ」


(珍しく素直に返事してるよ)


 女神様は、完全に獣人さん達の心を掴んでいる。素直な返事も、彼らが喜ぶからだろうな。



 ◇◇◇



 彼らを神竜の試練の出入り口に残して、僕達は、神殿の門をくぐった。彼らは、おそらく、また試練に行くのだと思う。いくつも竜紐を集めることに熱中しているみたいだもんな。



「お待ちしてました。行商人さん、こちらへ」


 昨日僕達を神都の中門に呼びに来た人達が、神殿の門で待っていたみたいだ。


「おぉ、おっきな門番、待たせたのじゃ。ほれ、赤いリボンをもらってきたのじゃ!」


 猫耳の少女は、手に持つ赤い物を高く掲げて、ニコニコしている。そんな少女に彼らがデレデレ顔を向けているのは、もう言うまでもないことだね。


「行商人さん、それは、真ん中の出っ張りを引き出したら紐状になるらしいよ」


「ふむ、それは教えてもらったのじゃ。後の楽しみに取っておくのじゃ」


「そうかい、そうかい。うん、楽しみだね」




 神殿の兵に案内され、僕達は神殿の中庭を進んでいく。中庭といっても、植物は生えていない。だけど、石でオブジェが作られていたり、キラキラとした砂のような物が敷き詰められていたりと、美しい中庭だ。


 先頭を女神様が歩き、その後ろをシャインが、そして少し離れた後方を僕が歩いている。僕の後ろにも兵がいるから、最後尾ではないんだけど。


「中庭が大きいのじゃ。何もかもが、おっきいのぅ」


「あはは、行商人さんのような小さな種族には、そう見えるかな。神竜の試練の扉ができる前は、中庭は、もっと広かったんだよ」


「おおっ、そうなのか」


 女神様は、話を適当に合わせながら、白いスケルトンの向きを頻繁に変えている。やはり、魔王カイさんに、探らせているみたいだな。


 神竜の試練でもらった赤い竜紐は、今は白いスケルトンが抱えていて、女神様はそんな白いスケルトンの胴体を握っている状態だ。



『ライト、左側にある井戸だ。飛び込むぞ』


(はい? リュックくん、さすがにそれは無理だよ。神竜に会ってからじゃないと、失礼だよ?)


『腹黒女神が神竜の相手をしている間が、チャンスじゃねーか。魔王カイがいるんだから、護衛なんていらねーぞ』


(ちょ、でも、シャインはどうするんだよ)


『あぁ、そうだな。シャインは、本物の獣人だから腹黒女神の世話をさせとくか。クラリスは、アテにならねーからな』


(えっ? クラリスさんは神竜の近くにいるんじゃないの?)


『いや、あのデカイ女は拘束されてるぜ。何かのルールを破ったみてーだな。さっきの試練の小部屋の上あたりに、気配を感じた。牢か何かがあるんじゃねーの?』


(へ? 牢? どうして?)


『なんか、水が無くなったのは、あの女のせいだとか言われてたな。水の魔帝がいれば、地下水がよく湧き出るんじゃねーの? 知らんけど』


(ちょ、その、知らんけどって何? また、タイガさんの影響?)


『あー、もー、うるせーな。井戸に飛び込むぞ』


 グイッと肩が引っ張られる感覚。リュックくんが一人で行かないのは、僕が必要だからだよな。いや、まだ、マナの吸収が終わってないのかな。



「シャイン、ティア様をしっかり監視しててね」


「うん? 父さんは?」


「ちょっと寄り道してくよ。あっ……はぁ、ったく」


 シャインに小声で説明していると、僕が持っていた赤い物を、リュックくんが弾いたらしい。


 ヒューっと、弧を描き、赤い物は井戸の中へと吸い込まれるように落ちていった。



「なっ!? 何をしておるのじゃ、ライト! 赤いリボンが飛んでいったではないか」


(あれ? まさかリュックくんと連携してる?)


「あはは、リュックの紐が当たってしまって……ちょっと拾ってきます。ティア様はシャインと先に行っていてください」


「むむ? 妾(わらわ)も……」


「浮遊魔法が必要になりますよ?」


(ふふっ、めちゃくちゃ不機嫌そうだね)


「魔力の無駄遣いはしたくないのじゃ。さっさと拾ってくるのじゃっ」


 こんな神竜のすぐ近くで魔法を使うと、女神様の正体がバレるもんね。猫耳の少女のジト目が……あぁ、リュックくんは、神アプルゴルド様を見つけたと伝えたのかな。


「はい、すぐに追いつきますね」


 シャインに視線を向けると、力強く頷いている。シャインの変身を妨げるモコモコ帽子は被せていない。シャインは、自分の頭を確認し、再び力強く頷いた。


「シャイン、よろしくね」


「はいっ!」



 僕は、透明化!そして、霊体化!を念じた。


「えっ? 行商人のお兄さんが消えた?」


「ライトは、急いで拾いに行ったのじゃろ。シャイン、迷子になるでないぞ」


 女神様は、僕が離れて不安がるシャインと、手を繋いでくれている。まだ僕は、この場所を動いていない。透明化と霊体化を使うと、ほぼ完全に気配も探られることはなくなるんだ。


「小さな行商人さん同士が手を繋いでいるよ。かわいいなぁ」


 神殿の兵は、さらにデレデレ顔だな。彼らの反応は、僕には理解できないことも多いけど、チビっ子二人が手を繋いで歩く姿は、確かに可愛らしいかな。



 ◇◇◇



 僕は、大きな井戸へとふわふわと移動し、重力魔法を使って井戸の底を目指して下りていった。


 リュックくんは井戸に潜れと言ったけど、井戸の底に神アプルゴルド様がいるわけじゃないよな? 


 ゆっくりと下りながら、『眼』のチカラを使ってあちこち見ていくと、神殿の地中の状態を知ることができた。この星の特徴なのか、地中には多くの生命エネルギーが詰まっている。


『アプルゴルドは、獣人が死ぬと地中に埋める風習がある。神アプルゴルドが、死者を砂に変えて、再び新たな命を与えるためらしーぜ』


(へぇ、リュックくん、すごい詳しいね)


『腹黒女神が言ってた。井戸に潜るなら、地表付近の土壌をライトに調べさせろと言ってたぜ』


(えっ? 女神様と話してたの?)


『いや、魔王カイ経由だ。腹黒女神は魔力が漏れないようにしてるからな』


(そっか。でも地表付近って、もう通り過ぎてない?)


『あぁ? まだ、この辺も地表付近だろ。地下水脈より上を調べろってさ』


(まだ、水に届かないもんね。だけど……)


『ねーよな?』


 リュックくんも、サーチしているようだ。下の方を見ているけど、水がない。もう枯渇してしまったのだろうか。



『あぁ、そーゆーことか』


(何? リュックくん、何を見つけたの?)


『神竜水は、飲んだか?』


(まだ飲んでない。女神様もシャインも飲んでないと思うけど。サーチをしたけど普通に水だったよ。硬度が高いみたいだけど)


『なんだよ、つまらねーな』


(はい? リュックくん、何を言ってんの?)


『あれは、おそらく、神竜のしょんべんだ』


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