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34、アプルゴルド星 〜井戸の奥の光る壁

 リュックくんが、壊れた!?


『は? おまえなー。オレが壊れるわけねーだろ。魔道具から進化した魔人は、主人が生きている限り壊れねーよ』


 僕の心の叫びに、リュックくんはすぐさま反論した。


(そういう意味の壊れたじゃないよ。頭のことだよ)


『頭? どこにもぶつけてねーぞ。おまえは霊体化してんだから、肩にいるオレがぶつかるわけねーだろ』


(いやいや。ふふっ、そういう所って、女神様とそっくりだよね)


『腹黒女神と一緒にすんじゃねーぞ。何度も言ってるけど、オレはアイツとは別人だからな』


(はいはい。確かに女神様なら、あんなことは言わないね)


『腹黒女神は、まだ気づいてねーんだよ。神竜水は、きっと、神竜のしょんべんだぜ』


(また、言ってる)



 女神様の魔力によって生み出された魔道具『リュック』は、本人は否定するけど、やはり女神様と似ている。僕の魔力を吸収して進化したから、見た目も能力も、女神様とは全く別人だけど、根本的な部分は似てるんだよね。


 そう指摘すると、いつも互いに嫌がっている。なんというか、妙なライバル意識があるらしい。


 これはリュックくんだけじゃなくて、他の魔道具から進化した魔人も同じだっけ。ベアトスさんの魔法袋から進化した魔人レイも、同じようなことを言っていたかな。



『腹黒女神は、地下水脈より上を調べろって言ってたが、水がねーから、どの部分のことかわからねーな』


 腹黒女神とか言いつつも、ちゃんと女神様から指示されたことをやろうとしてるんだよね。今日は、意外に真面目だな。


『は? 何か言ったか?』


(ふふっ、何も。リュックくん、ベアトスさん達の方はどうなってる? 魔人レイから連絡あった?)


『あぁ、サラドラが絶好調らしーぜ。どーやら、星の綻(ほころ)びと神アプルゴルドが消えた理由は、別物みてーだな』


(うん? 神竜が神殿を乗っ取ってるみたいだし、邪神って呼んでたのは、結局、神竜のことなんでしょ?)


『いや、違うみてーだぜ。侵略者は一人じゃないってことだ。神竜は邪竜だけどな。神アプルゴルドは、わかってて任せてるんじゃねーか』


 リュックくんが考えていることが、僕にはイマイチわからない。神アプルゴルド様が、神竜に何を任せているんだ?


『だから、しょんべんだってば』


(ちょ、リュックくん、意味不明!)


『あははは、おもしれー。ライトは、本を読まねーからわからねーんだよ』


(あのねー、リュックくんが読んでるのは怪盗とかが出てくる漫画でしょ)


『あれは、もう何年も前に読破した。今は、海にかけるロマンの……』


(ちょ、リュックくん、あれは?)


『あぁ? あぁ、神アプルゴルドだな』


(へ? 光る土?)


 井戸を底に向かって下りていくと、井戸の壁の一部が淡く輝いているのが見えた。


『神アプルゴルドは、鉱物系なんだろ? あの下に、しょんべん入れがあるぜ』


 リュックくんは、しょんべんを連呼してるよ。女神様も、子供達と一緒に遊んでいるときは、うんこを連呼してたよね……。


『おまえなー、腹黒女神のアレは、うんこ盛り盛りパフェだろ? ソフトクリームじゃねーか。オレが言ってんのは、本物のしょんべんだぜ』


(そういうとこ、女神様にそっくりなんだけど)


 そう指摘すると、リュックくんは静かになった。ふふっ、女神様にそっくりだね。


 神竜から排泄されたものが神竜水だと、リュックくんは考えたようだ。うーん、なんだかなぁ。



 僕は、淡く光る壁を『見て』みる。かなり広範囲の土が光っているようだ。おそらく中庭全体に広がっているんじゃないかな。井戸は、まだ続いているけど、どうしよう。わざと落とした竜紐は、井戸の底だ。


 さらに『眼』に魔力を込めて、光る土の底の方を見ていく。すると、井戸から離れた場所に、空洞があるように見える。ただ、何かの結界があるらしく、空洞の中の様子は見えないな。



『とりあえず、神アプルゴルドの中を通ってみようぜ』


(えっ? 光る土の中を?)


『あぁ、オレだと、通れねーからな』


(確かに、霊体化しないと通れないよね)


『魔王カイにも無理だと思うぜ。アイツも、中庭の地中に何かあると気づいたみてーだけど、こんなに生命エネルギーが強い中をアンデッドが通ると浄化されちまうからな』


(それで神殿に行くことにしたんだね。女神様が赤いリボンって騒いでいたのは、赤なら、神竜の試練の最深部を通るからかな)


『まぁ、それだけじゃねーだろーけどな。あの竜紐は、身につけると体力を奪われるだろ? 邪竜の強化に利用されてんだよ』


(えっ? あ、だから獣人さん達は、あんなに体力ゲージが減ってたんだ。だけど神竜の加護っていう洗脳っぽいことに……)


『洗脳じゃなくて、邪竜の呪いだろーな。カースが言ってたけど、呪術なら、物に宿らせることで見知らぬ誰かに術をかけられるらしーぜ。知らんけど』


(ちょ、リュックくん、その知らんけどって言うのやめて。どっちかわからないじゃん)


『は? 何でわからねーんだよ。カースが言ってたことは、嘘を混ぜると、バチンってなんかくるじゃねーか。知らんけど』


 はぁ、リュックくんが……完全に楽しくなってるよ。これ以上指摘したら、永遠に、知らんけどって言いそう……。


(とりあえず、井戸の底の竜紐を拾ってからにするよ。それに、神アプルゴルド様の身体の中を通るなんて、畏れ多いし)


『腹黒女神は、地下水脈より上の土壌を調べろって言ってたぜ』


(それって、土になってる神アプルゴルド様の身体を通れってこと? 光る土があるかを見て来いってことでしょ)


『早く行こーぜ。オレは、通れねーから』


 リュックくんは、これが狙いで、僕を連れて来たのか。神の身体の中に勝手に入るなんて……。


『中を通れば、神アプルゴルドと話せるかもしれねーじゃねーか』


(まぁ、確かに……)




 僕は、井戸の底への降下をやめ、光る壁へと向きを変えた。そして、そのままスーッと壁を通り抜けていく。


 霊体化していると、火山のマグマの中でも自由に泳げるし、どんなに硬い岩も通り抜けられる。


『うひゃ〜、なんじゃこりゃ』


 リュックくんのテンションが高い。淡く光る土は、次々と色を変えていく。霊体化していても目が痛い。


(楽しそうだね……)


『おまえは嫌そうだな〜』


(嫌というわけじゃないけど、畏れ多いじゃんか。だけど、土というより砂かな。粘度もないし、とても通りやすい)


『そりゃそーだろ。じゃなきゃ、しょんべんを濾過(ろか)できねーじゃねーか』


(また、しょんべんって言った)


『しょんべんだから、しょんべんだって言って何が悪いんだよ?』


(もうっ! リュックくん!)



『あははは、女神イロハカルティアの星の者だな?』


(えっ? この声って……)


『私は、神アプルゴルドだ。そうか、キミは、女神の番犬だね。私の中にいても、全く気配を感じない。凄い能力だな』


(は、はい。思念は届いていますか? アプルゴルド様)


『あぁ、キミの存在を示すように、時折ピカッと光るモノが、キミの声を届けてくれるよ。リュックくんというのかな? この能力は、魔人か』


(はい、彼は魔道具から進化した魔人です)


『そうか、キミ達を寄越したのは、女神イロハカルティア様か? 救難信号を発することができずに、こんなことになってしまったが』


(えっと、僕の店に来ていたお客様から、アプルゴルド星の異変を聞きました。救難要請を受けた者としてではなく、行商人としてお邪魔しています)


『なるほど、だから竜は静かにしているのだな。ありがたい。イロハカルティア星からの応援だとわかると、奴は、何をしでかすか、わからないからな』


 やはり、神竜は邪竜か。


『うむ? 何と言った?』


(いえ、神竜が……)


『神竜のしょんべんが、神竜水なんだろ?』


(ちょ! リュックくん!)


 いきなり割り込んできて、何を言ってんの!


『あははは、キミ達は、面白いね。確かに、竜の身体から出たモノを、私が濾過して水に変えている。この星の水脈は完全に枯渇してしまったからね。私は、この星の住人の命を守る義務がある。この方法しか無かったんだよ。だが……』


 神アプルゴルド様は、そこで話をやめた。彼が苦しんでいることが、淡く光る土から伝わってくる。新たな星の綻(ほころ)びが、増えたのか。


水木金はお休み。

次回は、10月29日(土)に更新予定です。

来月中旬頃には、更新頻度を少し改善できると思います。

よろしくお願いします。

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