32、アプルゴルド星 〜竜族の殺意
「あ、お、おめでとう」
出口の先の小部屋には、二人の男性が立っていた。神竜水を売っていた人と同じく、体毛はほとんどないように見える。
大きな獣人さん達は、彼らに敬意を表すように頭を下げている。この星では、獣人以外は、神アプルゴルド様の血縁者しかいないんだよね。ということは彼らは、神の家族なのかな。
(あれ? でも……)
二人の男性が僕を見る目が……恐怖に染まっているように感じる。初めて会ったはずだよね?
「神竜の試練を終えた証だ。身につけておけば、神竜様の加護が与えられる」
そう言うと二人の男性は、赤く平べったい物を配り始めた。僕にも1つ渡された。竜紐は、渦巻き状に丸まっているのかな。軽くて硬い質感だ。
「お嬢ちゃん、こうやって引っ張ると、紐状になるんだよ」
案内してくれた獣人さんが、猫耳の少女に、渦巻きの中心から何かを引っ張り出すようにして見せた。すると、フワッとほどけるように、柔らかな紐状に変わっている。
「おぉ! 石ころみたいなのが、リボンに変わったのじゃ! 面白いのじゃ」
そう言いつつも猫耳の少女は、手に持つ赤い物を紐状に変えようとはしない。もう一方の手には、白いスケルトンを握りしめているからだよね。いや、わざとそういう状態にしてるのかな。
「お嬢ちゃん、お人形さんを持っているから、引っ張り出せないな。手伝ってあげたいが、これは自分でやらないと加護が得られないんだよ」
「ふむ、良いのじゃ。後の楽しみに取っておくのじゃ」
猫耳の少女は、赤く平べったい物を高く掲げて、ニコニコと笑顔を作っている。そんな少女の笑顔に、大きな獣人さん達は、デレデレだね。
「ライト、あの人の腕を治してやるのじゃ」
猫耳の少女は、片腕のない男性を、白いスケルトンを使って指差している。アンデッドの魔王カイさんがこんな風に使われるなんて……。
(いや、カイさんは喜んでるのかな)
「そうですね。えっと、片腕は、どうされたんですか?」
僕がそう尋ねると、彼はクワっと目を見開き、すぐに目を逸らした。知られたくないことを聞いてしまったのかな。
「お気遣いなく。数日で治りますから」
もう一人の男性が、そう早口で言った。遠慮しているというよりは、僕は警戒されているように感じた。あぁ、広間でのことを知っているからだな。やはり、土色のドラゴンの片腕を斬り落としたのは、マズかったよね。
「遠慮しなくて良いのじゃ。妾達は、この後、神殿に行って神竜と会うのじゃ。試練にいた怪我人を知らんぷりしていたとは思われたくないからの」
猫耳の少女が、元気な声でそう話すと、二人の男性は目を見開いている。
「神竜様に会うのか? この竜紐では、謁見の資格は得られないぞ」
「昨日、おっきな門番が呼びに来たのじゃ。じゃが、赤いリボンをもらってからにすることにしたのじゃ」
「えっ? 大きな門番?」
二人の男性は、互いに顔を見合わせている。
「神殿の兵です。おそらく近衛兵かと……」
案内してくれている獣人さん達が口を開いた。
「なぜ、神殿から迎えが……こんな野蛮な……いや、コホン」
(野蛮って言われたよ)
僕達は、宇宙海賊だと思われているのかもしれない。
「この人達は、ポーションの行商人さんなんですよ。体力がグンと回復する薬を売りに来た他の星の人だから、神竜様が会ってみたいと思われたのではないでしょうか」
「ポーション? 不味い回復薬か」
「不味くはないです。草の香りがして、元気になる薬です」
獣人のひとりが、僕から買った体力10%回復ポーションを取り出し、彼らに見せている。
(僕が渡す方がいいかな?)
いや、ダメだよな。僕だと警戒される。あっ、行商人として来ているのだから売ればいいのか。
「いくらで買った?」
「10本セットを金貨1枚で買いました」
「そうか。安いな、大した薬ではなさそうだが」
(安くはないでしょ)
片腕のない男性は、獣人さんに金貨を1枚放り投げ、彼が持つモヒート風味のポーションを取り上げている。そして、片手で器用にポーションの蓋を開けた。
「なんだ? 薬草ではなく草の香りがする」
「草の香りの薬なんですよ。味も爽やかなジュースのようでした」
獣人さんが、僕のポーションを説明してくれる。僕が直接説明するよりその方がいいのだろう。僕は信用されてないみたいだし。
彼は、僕のポーションが本物かを、自ら見極める気だと感じた。片腕のない男性の肩には、血がにじんでいる。まだ出血が止まってない、新しい傷のようだ。
グイッと一気に飲み干すと、彼はブルブルッと震えている。怪我人がポーションを飲むと特に、身体の中を何かが駆け巡る感覚を強く感じるもんね。
だけど、僕のこのポーションでは、怪我は治るけど失った腕は治せない。まぁ、出血は止まるだろう。失った血も回復するかな。
「ぬぉおっ!」
猫耳の少女が、変な声を出した。面白い物を見つけたときのような顔をしている。
(えっ? なぜ?)
片腕のない男性の肩から、新しい腕が生えていた。
「ほう、この薬は凄い効き目だな」
片腕が生えた男性は、ポーションの空瓶を眺め、そして猫耳の少女に視線を移した。
「凄いのは、おぬしの方じゃぞっ。このポーションでは、腕なんか生えぬのじゃっ。とんでもない再生能力なのじゃ!」
「ふっ、何も知らないらしいな。竜族なら、当然のことだ」
(えっ? 竜族?)
「おぬしは竜なのか!? その割には、ちっこいではないか。チビっ子な竜なのか?」
猫耳の少女は、白いスケルトンを振り回し、謎の威嚇行動をとっている。あ、魔王カイさんの闇属性のオーラを纏うための行動かな。
この人は、自分は竜族だと言った。彼らはスチーム星の竜人さん達とは違って、見た目は完全に人だ。スチーム星の竜人さん達は、人の姿をしていても目が竜っぽいんだよね。
女神様は、彼らの素性がわかったのだろうか。チビっ子な竜ということは……神竜の子供ってこと?
「その問いには答えられない。神殿に行くなら、神竜様に尋ねればいい。だが、そっちの乱暴な者には……いや、なんでもない」
(僕のことだよな?)
猫耳の少女は、僕をチラッと見てニヤリと笑っている。勝ち誇ったかのような好戦的にも見える笑顔だ。まぁ、いつもは、女神様が乱暴者扱いされているから、嬉しいのだろうな。
『ライト、こっちの勝ちだぜ』
(うん? リュックくん?)
『神アプルゴルドを見つけた。ここからでも行けるが、ちょっと遠い。神殿の井戸から行く方が早いぜ。腹黒女神は、まだ見つけてねーぜ』
(嬉しそうだね、リュックくん。さっきの竜の爪から、辿れたんだね)
『あぁ、その赤い竜紐は、脱皮したウロコから作ったみてーだから、イマイチ反応が弱いんだよ。やっぱ、眷属の身体の一部の方が強いぜ』
リュックくんが、ウキウキわくわくしているのが伝わってくる。ほんと、女神様と、そっくりだよね。
「じゃあ、妾達は神殿に行くのじゃ。そのポーションをもっと欲しければ、また販売会をするから、おぬしらも買いにくると良いぞ」
猫耳の少女は、二人の男性にそう伝えると、スタスタと階段を上り始めた。
(魔法は使わないんだな)
獣人さん達は、二人の男性に会釈をすると、猫耳の少女を追いかけていく。
『ライト、おまえは一番最後に出て行く方がいいぜ』
(うん? リュックくん、何?)
『そいつらは、あのガキがポーションを持っていると思っている。偉そうに煽って去って行くガキに、半端ない殺意が向いているぜ』
(えっ? 僕には……)
『おまえのことは護衛だと思ってんだろ。それに、おまえには敵わないとわかってるからな』
(うん?)
「父さん、どうしたんですか」
シャインが、不思議そうな顔をして見上げてきた。
「何でもないよ。シャインは、ティア様がまたワガママを言わないか、監視しておいて」
「はい!」
シャインが階段を駆け上がっていくのを確認して、僕は、後ろを振り返った。
(あぁ、なるほどね)
メラメラと怒りに震える二人の男性。なぜ、こんなに怒ってるんだ? あっ、竜族だから、プライドが高いのかな。
僕が振り返ったことで、彼らは殺意を隠し、笑顔を作っている。
「あの、何か?」
「えっ? いや、別に」
「そうですか。不快にさせてしまったようですね、すみません。だけど、僕の連れに何かしようとするなら、貴方達は確実に消えますよ?」
僕は、やわらかな笑顔を浮かべて彼らにそう言うと、くるりと背を向け、階段を上り始めた。




