31、アプルゴルド星 〜土色のドラゴン
突然、地中から放出された霧のようなものが、身体にネットリとまとわりついてくる。身体が少し重く感じて不快だな。
(状態異常の霧かな)
一瞬振り返って、案内してくれた獣人さん達、そして女神様とシャインの様子を確認する。小さな白いスケルトンの姿の魔王カイさんが、しっかりと守ってくれているようだ。
皆、あと数段で広場に降り立つ場所で止まっている。広場の土を踏むと、この霧のようなものがまとわりつくのか。
広間の中央付近にいる2体の土色のドラゴンは、僕達をジッと睨んでいる。獣人さん達の2倍程度だから、小型のドラゴンだ。
(サーチは弾かれるな)
僕としては、どちらかといえば、巨大なドラゴンの方が戦いやすい。小型のドラゴンは、スピードが速かったり魔力が高かったりと、誰かを守りながら戦うには、厄介な奴が多いんだよな。
この土色のドラゴン達は、神竜の眷属だと、リュックくんが言っていた。神竜が、自分のウロコから作り出してるんだよな?
(殺しちゃマズイよね)
「あの魔物は、倒しても大丈夫なんですか?」
獣人さん達にそう尋ねると、なんだか動揺されたのを感じる。やはり、マズイのか。
「行商人さん、魔物は倒せないよ。隙をついて出口へと走るしかないんだ。だけど、視界の悪い広間を走るのは、あまりにも危険すぎる」
(うん? ということは良いのかな)
「ライト、瀕死の状態にするのじゃ。絶対に逃がすのじゃぞ?」
猫耳の少女はウズウズしながらも、広間へは降りてこない。神竜の眷属を相手に、女神様が魔力を使うわけにはいかないもんね。
神竜は、ドラゴン族の魔王マーテルさんと同じく、スチーム星の白い竜だという。かなり警戒すべき相手だ。おそらく、女神様が魔力を使った瞬間、正体がバレるだろうな。
だけど、女神様とリュックくんとは意見が真逆だな。
リュックくんは、あのドラゴンを捕まえれば、神アプルゴルド様の居場所がわかると言っていた。でも女神様は、深傷を負わせて、逃がせと言っている。女神様は、神竜を探しだそうとしているのだろうか。
(神竜は、神殿にいるんだよね?)
僕は、広場の中央へと、ゆっくりと歩いていく。
(相手がどう動くかを見てからだな)
僕が近づいていくと、さらに地面から何かが吹き出してくる。視界を奪う霧なのだろうけど、僕には不快に感じるだけだ。身体がだる重いが、特に問題はない。
『ドラゴンの爪が欲しいから、片腕を狙ってくれ』
(へ? リュックくん、何に使うの? まるで何かを錬金するみたいなこと言って)
『は? おまえなー。忘れてるかもしれねーが、おまえが背負っている魔道具のオレは、腹黒女神が作った錬金の魔道具だぜ?』
(うん、忘れてないよ。リュックくんは、ポーションを錬金してるでしょ。もしかして、竜の爪で何か新作を作るの? 薬膳系な感じだよね〜、竜の爪って)
『おまえなー。神アプルゴルドを捜しに来たんじゃねーのかよ。竜の爪なら魔力が溜まるからな。神アプルゴルドの魔力も溜まってるかもしれねーぞ』
(リュックくん、あの土色のドラゴンを作ったのは、神竜だよ? 神アプルゴルド様じゃないよ?)
『当たり前だろ。どーみても、ドラゴンじゃねーか』
(リュックくん、なんだか意味不明だよ。眠いなら、寝てていいから)
『なっ!? オレのどこが意味不明なんだよ。腹黒女神と一緒にすんじゃねーぞ』
(あっ、拗ねた。うふふ、まだまだ子供だね〜)
『拗ねてねーぞ! シャインと一緒にすんなよ』
そう言うと、リュックくんの念話は切れた。やっぱり拗ねたんじゃん。
ゴゥォォォッ!
土色のドラゴンに近寄りすぎたのか、2体は同時に炎を吐いた。僕は、炎の檻に囚われたか。
(なかなかやるじゃん)
僕は剣を抜き、水を纏わせると、その炎を打ち消そうと意識して剣を振るった。
ガォォォオ
炎は完全には消せなかったが、これでいい。威嚇してくる2体のドラゴンからは、殺意は感じない。炎を使って、神竜の試練に挑む者達を脅すことが、彼らの任務なのだと感じた。
(完全に消したら、また炎を吐くよな)
それを繰り返すと、この広間の温度が上昇する。階段にいる彼らには、辛いだろう。
『おい、竜の爪っ!』
(はいはい、リュックくんが自分で出てくればいいのに)
『まだ、オレの出番じゃねーだろ』
またリュックくんは、変な本を読んでるのかな。タイガさんと一緒に昭和の日本に行くたびに、変なことを覚えてくる。
タイガさんは、わざと変なことを、リュックくんに教えてるような気がするんだよね。彼は、魔人であるリュックくんが暇になると、どこかの星を潰しに行くかもしれないと危惧しているようだ。
リュックくんは、絶対にそんなことはしないと僕は思っている。だけど強い魔人は皆、征服本能があるとか……。リュックくんは、魔人が不安定だという100年は越えたんだけどな。
土色のドラゴン2体は、僕を敵だと認定したのか、再び口に魔力を溜めている。変なブレスを吐きそうだな。
僕は、剣に炎を纏わせた。
ガフゥッ
(うん? ビビったのかな?)
あぁ、ブレスを吐く前は、無防備だからか。
(ちょっと覚醒を使おうかな)
僕は、スゥハァと深呼吸。すると、目に映る景色が青く染まった。すべての動きが、超スローモーションに見えてきた。
僕は、ダンッと高く跳躍し、ドラゴンの頭上を飛び越えた。奴らが僕を見失ったその隙に、1体に近づき……。
ザンッ!
片腕を斬り落とした。
ドラゴンは、何が起こったのか気づいていないのか、キョロキョロしている。
(痛くないの?)
斬り落とした片腕を拾うと、肩からヒュルヒュルと細い紐状のものが伸びてきた。リュックくんの紐だ。プスリと刺さった瞬間、僕の手からドラゴンの片腕が消えた。
『ドラゴンの爪、ゲットだぜっ』
拗ねていたリュックくんが、急に元気になっている。最近、なんだか喜怒哀楽が激しくない? また、反抗期かもしれないな。
ギャァァァァッ!!
片腕を失ったドラゴンが、悲鳴をあげて倒れた。今頃、気づいたのだろうか。あぁ、僕が覚醒を使っているから、時間の感覚がいつもとは違うんだな。
土色のドラゴンは、2体とも同時に僕の姿を見つけると……。
ドドドドドドッ!!
(逃げちゃったよ)
本当に、試練に来た住人を脅すだけの役割みたいだな。1体が片腕を斬られたから、逃げたんだ。かわいそうなことをしたかな。
土色のドラゴンは、僕から距離をとると、地中に潜った。
ドラゴンが居なくなると、広間を覆っていた霧のようなものは、スーッと消えていった。
(これで、もう終わり?)
僕は、覚醒状態を解除した。あまりにも呆気ない終了だけど、まぁ、いっか。
「ライト! 片腕を斬り落としたのではないのか?」
猫耳の少女が駆け寄ってきて、地面に飛び散った血を確認しているようだ。
「父さんの手から、すぐに消えたように見えました。取り返して逃げたんじゃないですか」
(へぇ、シャインには見えてたんだ)
「行商人さん、凄いな。俺達だと、姿を隠す魔物が逃げ出すことなんて、あり得ないよ」
「見えない中、勘で戦うなんて、できないよな。サーチもできない魔物だし」
獣人さん達が、褒めてくれる。
「いえ、見えていました。確かにサーチはできなかったですけど……」
「ほう! そうかい。凄いな」
猫耳の少女は、そんな獣人さん達から離れ、血の跡を追っていく。2体のドラゴンが潜った場所にたどり着くと、地面に触れて、ジッとしている。
(どこに逃げたかを捜してる?)
魔力を使うと、正体がバレるんじゃないのかな。
「カイ! 向こうじゃなっ」
猫耳の少女は、出口を指差している。だが、出口ではなく、2体のドラゴンが逃げた方向だろう。魔王カイさんに探らせていたのかな。
「お嬢ちゃん、そうだよ。向こうが出口だ。竜紐をもらえるぞ」
「ふむ、赤いリボンをもらうのじゃっ」
猫耳の少女は、獣人達に話を合わせつつ、僕に目配せをしてくる。出口方向の地中に、さっきのドラゴンがいるということだな。
「さぁ、お嬢ちゃん、出口だ。おめでとう!」
獣人さんが出口の扉を開くと、そこには、二人の人が立っていた。そのうちのひとりには、片腕がないようだ。




