27、アプルゴルド星 〜不思議な土と貧民街と食事情
「ティアちゃん、そんなにたくさんの金貨……」
神アプルゴルド様に仕えるクラリス・ロールさんは、猫耳の少女がカウンターにぶちまけた金貨を、慌てて集めている。
「さっき、つかみ取りをして勝ち取った分じゃ。お金は、どどーんと、使うためにあるのじゃっ」
(勝ち取った、の?)
「お嬢ちゃん、お金は貯めておく方がいいと思うぞ」
宿に案内してくれた獣人さんから、教育的指導が……。
「これは良いのじゃ。このために、つかみ取りを頑張ったのじゃっ。たくさん持っていても、金貨は食べられないのじゃ」
「あはは、確かに金貨は食べられないが、金貨がないと飯を食えないぞ?」
ごもっともな説教に、猫耳の少女は首を傾げている。女神様は面倒くさくなって、子供のフリをしているようだ。
「ティアちゃんには、まだ難しいお話ね。この話の続きは、湖上の街でしましょう」
クラリスさんも、猫耳の少女を教育しなければと、思ってくれたみたいだ。ありがたい。
「皆さん、すみません。この金貨は、彼女が欲張って……頑張って取った分なので、使いたいんだと思います」
「そうね〜、革袋から手が抜けなくなっちゃったんだもんね〜」
クラリスさんは、思い出し笑いをしているようだ。あっ、他の獣人さん達も、だな。みんな、見てたもんね。
「じゃあ、お嬢ちゃんに食事をご馳走になろうかね」
「うむ、皆、たくさん食べるのじゃ」
猫耳の少女は、満足げに頷いている。そんな少女をみんなは、微笑ましいと思ってくれているようだ。
(皆さんが大人でよかった)
女神様は、食事をご馳走するのが好きだもんね。でも、こんなにたくさんの人達と一緒に、夕食を食べるのだろうか。気を遣いすぎて疲れそうだけど。
「行商人さん達は、特別室を使ってくれ。魔帝クラリス様は、護衛をされるのですね」
宿代を出してくれた人が、部屋の鍵らしきものをクラリスさんに手渡している。
「ええ、私は彼らの案内係だからね」
「では、神竜の試練にも行かれるのですか?」
(うん? こんな人いたっけ?)
見覚えのない大きな獣人さんが、クラリスさんにそう尋ねた。誰かが、神アプルゴルド様に仕える人は神竜の試練に行けないみたいなことを、言ってたっけ。
「私は、試練は受けないわ。神竜の試練の扉へは、他の皆さんが案内してくれるのでしょう?」
クラリスさんがそう答えると、尋ねた人は明らかにホッとした顔をしている。
(やはり、何かあるんだな)
「そんなことより、シャインが空腹で死にそうになっておるのじゃ」
猫耳の少女は、シャインのせいにして、話を切り上げたいみたいだな。シャインは、さっき歩きながら、弁当のバーガーをこっそり食べていたから大丈夫なんだけどね。
「まぁ、シャインくんが? 大変だわ。じゃあ皆さん、明日はよろしくお願いしますね」
クラリスさんはそう言うと、僕達を先導して広い廊下を進んでいく。
(うん? ここから別行動?)
◇◇◇
「さぁ、ここが特別室みたいよ」
クラリスさんが案内してくれたのは、この宿屋の裏庭だった。ただの土の上だ。塀で囲われているけど屋根もない。
(あっ、土は貴重なのか)
「寝具はないのじゃな?」
「作ればいいのよ。アプルゴルド様のチカラを秘めた土だから、魔力を込めて念じれば、いろいろな形に変わるわ」
「なっ!? それはおもしろいのじゃ! クラちゃん、やってみせてくれぬか?」
猫耳の少女に、キラキラな目を向けられ、クラリスさんはデレデレ顔になっている。もう、見慣れてきたかも。
「ティアちゃん、このステッキに魔力を流して念じるのよ」
クラリスさんは、無造作に転がっていた杖のようなものを掴むと、クルクルと回した。すると、大きなテーブルと椅子が現れた。獣人サイズだな。
「おぉお、クラちゃん! 凄いのじゃ。もしかすると寝る時には、寝具に変えて寝るのかの?」
「そうよ、自在に変えることができるの。安宿は狭いからね。生活の知恵というものかしら」
「ふむ、とっても広いが、この星の住人には狭いのじゃな」
猫耳の少女はキョロキョロと見回し、はるか上の方に何かを見つけて、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。浮遊魔法を使えば見えるはずなのに、クラリスさんに何か指示しているみたいだ。
クラリスさんがステッキを振ると、高い位置に繋がる階段が現れた。すると猫耳の少女は、階段を駆け上がっていく。そして窓らしき物に、へばりついている。
女神様は、そういえば内門をくぐってからは、全く魔法を使ってないよな。小さな白いスケルトンを常に握っていることにも、違和感がある。
(まさか、魔法が使えないの?)
『魔法は使わないようにしてるんじゃねーか』
(あっ、リュックくん、起きた?)
『あぁ? 別に寝てねーよ』
(寝るって言ってなかったっけ?)
『さぁな。そんなことより、シャインが寝てるぜ』
(へ? あ、ほんとだ)
シャインはいつの間にか、土の上に転がって眠っている。寝不足だったし、疲れたのだろう。シャインは普段なら、帽子を取って狼の姿にならないと眠らないけど、限界突破してしまったらしい。
僕は、魔法袋からシャインお気に入りの大きめクッションを取り出し、その上に寝かせた。
『腹黒ババァは、完全に調子に乗ってるよな』
(うん? そう? 女神様は、この星に来たときは魔法を使ってたよ? 魔法が使えなくなったわけじゃないんだよね?)
『潜入してるつもりじゃねーか? 神都で魔力を察知されたら、腹黒女神だとバレるからだろ』
(潜入? 女神様はずっと素性を隠しておくつもりかな)
『さぁな。ただ、今バレたら、神竜と呼ばれてる奴が警戒するからだろ。魔王カイを握りしめてるのは、アンデッドの魔王の邪気を纏うためだぜ。光属性は目立つからな』
(あー、だから、ずっと小さなスケルトンを振り回してるのかな。魔王カイさんも気の毒だよね)
『は? 魔王カイだぜ? 喜んでるに決まってるじゃねーか。アイツ、変態だからな。腹黒女神が美しく見えるらしーぜ』
(リュックくん、女神様に聞かれたら……)
『聞かれねーよーに話してる。魔王カイには聴こえてるだろーけどな』
(ちょ、ダメじゃん。魔王カイさんが気を悪くするよ)
『オレは素直だから悪くないって、言ってるぜ』
(へ? ちょ、リュックくん!)
「この窓の外には、何があるのじゃ? たくさんの獣人さんが集まっておるぞ」
猫耳の少女は、階段からタタタと駆け降りてきた。白いスケルトンが……階段にガガガと打ちつけられている。
(雑すぎる……)
「そっちの方は、貧民街じゃないかしら。関わらない方がいいわ。あら、ティアちゃん、お人形が壊れてしまうわよ? もう少し丁寧に扱わないと」
(神都に貧民街?)
「カイは、壊れないのじゃ。ふむ、なぜ、神都に貧民街があるのじゃ? 罪人なのかの?」
「私が旅に出てからのことだから、よくわからないわ。たぶん、数年前からかな? 罪人でもないと思うけど」
クラリスさんは、話しにくそうにしている。秘密にしておきたいことなのかもしれないな。
チリンチリンチリン
「お待たせしたね」
大きな獣人さんが、手に大きな容器を持って現れた。ふわりとスパイスの香りがする。
「これは、豪勢ね〜」
クラリスさんは、目を輝かせていた。
「たくさん金貨をもらったからね。他の部屋にも同じものを運んだよ。ごゆっくり」
テーブルに容器を置くと、獣人さんは部屋というか中庭から出て行った。
「ご飯?」
(あっ、シャインが起きた)
「ふふっ、ご飯が届いたよ。お口に合うかしら? 神都の高級レストランから出前を取ったみたい」
「じゃあ、みんなで食べるのじゃ!」
猫耳の少女はそう言ったものの、運ばれてきた料理を睨んでいるだけだ。そして僕に向かって、何か合図をしてくる。
(毒見をしろってこと?)
女神様は、徹底して魔法は使わないつもりらしい。シャインが食べるのを見て、やっと手を伸ばしている。
「あぁ、でも、マスターの店のご飯に慣れてしまったから、あまり美味しいとは思えないわね」
クラリスさんは、料理を口にして眉間にシワを寄せている。シャインも女神様も同じ顔をしていた。
僕も、スパイスの香りがする肉をかじってみた。
(あぁ、なるほど……)
毒は入ってないけど、魔物の肉だろうか。独特の臭みがあり、スパイスでは隠せてないようだ。しかも、腐りかけのような気もする。だけど、これが高級レストランの味なんだよね。
女神様だけでなくクラリスさんも、結局、僕の弁当を食べた。
食事が終わると、クラリスさんはステッキを振り、テーブルをたくさんのベッドに変え、さらに天井も作ると、すぐに眠ってしまった。
(彼女も疲れていたんだな)




