↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/279

26、アプルゴルド星 〜宿屋へ

「少なかった皆さん、追加でお渡しします」


 僕は再び、そう声をかけたが、神アプルゴルド様の近衛兵達は、首を横に振っている。猫耳の少女が渡した分を、まだ怪しい笑顔で眺めているんだよね。


「マスター、近衛兵の分は、もう十分よ。それに、ティアちゃんが直接渡してくれたからね」


 やはり猫耳の少女が手渡したことに、意味があるみたいだ。彼らは、小さな種族が好きだもんな。それにアプルゴルド星は、貧しい星ではない。お金には無頓着なのかもしれない。



 僕達としてもポーションの販売は、売上金よりも、この神都の人達に親しみを持ってもらえたことが、何よりの成果だ。住人に信頼されないと、この星が抱える問題を解決できないもんな。


 ベアトスさん達は、別の行商人として各地をまわり、アプルゴルド星への侵略者が仕掛けた星の綻(ほころ)びを修復しているはずだ。


 僕達は、姿を消した神アプルゴルド様を捜すために、この街に来た。女神様が神竜の試練にこだわるのは、そこに何かの手がかりがあるからだと思う。


 しかし僕としては、この街の住人達の体力の減りも気になっている。ポーションを並べながら、時々ゲージサーチをしていたが、皆、体力は半分以下なんだ。




「妾(わらわ)は、赤いリボンをもらいに行きたいのじゃっ。どこに行けば良いのじゃ?」


 猫耳の少女は、街の住人達が身につけている竜紐を指差し、バタバタとその場で足踏みをしていた。


(完全に子供になり切ってるね)


 女神様は、湖上の街にいるときよりも、子供っぽい仕草をしている。いつも街の子供達と遊んでいるから、子供らしい振る舞いは完璧だ。


「行商人さん、まぁまぁ、あはは、そんなに慌てて……。もう夕方になるから、明日にする方がいいよ」


「神竜の試練はね、夕方からは難しくなるんだよ。いくつも証を受け取っている人しか挑戦できないんだ」


 ポーションを買ってくれた大きな獣人さん達が声をかけてくれた。僕達がこれからどうするのか、様子を窺(うかが)っていたみたいだね。



「なんと! 難しいのは困るのじゃ。ふむ、では、明日の朝から行く方が良いのかのぅ」


(あれ? 素直だな)


「その方がいいよ。だけど、他の星の人が神竜の試練を受けるなんて、聞いたことがないけどね」


「どんな試練なのじゃ? 妾にも出来るかのぅ?」


 不安そうに瞳を揺らす猫耳の少女……。


 ポーションを買ってくれた獣人さん達は、少女にメロメロだ。さっきの意味不明な、革袋から手が抜けない騒動で、より一層、少女への保護欲が掻き立てられたのかもしれない。


「行商人さん、不安なら、俺が付いて行ってあげようか? 赤い竜紐がもらえるかは、わからないが」


「おおっ! それは心強いのじゃ! 是非ともお願いしたいが……迷惑ではないかのぅ?」


(自由自在だね)


 女神様は、獣人さん達の心を完全につかんでいる。彼らは、もう完全に猫耳の少女のとりこだな。



「迷惑なわけないよ。俺達は、何度も行ってるんだ。試練はその時によって違うけど、大抵は、奥にある神竜様の石像にたどり着けば合格だよ」


(迷路みたいなものかな?)


「朝なら、すぐにたどり着ける。夕方から夜明けまでは、進路を妨害する魔物が出るんだよ」


「なんじゃと!? 神都の中に魔物が現れるのか」


 大袈裟に驚く猫耳の少女……。すると近衛兵達までもが、会話に参加してくる。



「お嬢ちゃん、神竜の試練は、神殿の中庭から地底へ繋がる空間で行われているんだよ。その空間から中庭へは、魔物は出てこないから大丈夫だ」


 神アプルゴルド様の近衛兵は、竜紐をもらってないというけど、神殿のことはちゃんとわかってるんだな。


「おっきい門番は、リボンをもらってないのに、神竜の試練に行ったことがあるのか? 順番待ちをしてないのか」


 女神様は、すぐさま疑問を口にしている。これは、聞き取り調査だ。でも誰も、猫耳の少女を怪しむ人はいない。


「神殿に勤める者は、誰も中に入ったことはないよ。平民のための試練だからね。神竜様は、神アプルゴルド様の加護が届いていない人達に、加護を与えようとされているんだよ」


 近衛兵の説明に、大きく頷く猫耳の少女。一方で、神アプルゴルド様に仕える魔帝クラリス・ロールさんは、微妙な笑みを浮かべていた。


 彼女のこの顔は、何かを疑っている表情かな。


 僕の店で、彼女はコーヒーを飲みながら、いつも一人で百面相をしている。考え事があるときには、僕の店に来るみたいだ。そして、ひとしきり考えた後には、その考えを整理するためか、僕にいろいろと話してくれる。だから何となく、彼女の顔色の変化はわかるんだ。


(僕も同じかな)


 近衛兵の話から、僕は、神竜の試練に何かの意図を感じた。平民だけしか入れない空間が、神殿の中庭にあるなんて、やはり違和感があるよな。




「それなら今夜は、どこかに泊まらねばならぬのぅ。良い宿を知っていたら、教えてほしいのじゃ」


 猫耳の少女がそう尋ねると、獣人さん達が相談を始めた。クラリスさんではなく、街の人に聞いているのは、何か意味があるのかな。


 すると、近衛兵が口を開く。


「行商人さん、神竜様が神殿にお越しいただきたいと、おっしゃっていましたから、是非、神殿にお泊まりください」


(あぁ、そうだっけ)


 そういえば、この人達は、神竜の指示で僕達を出迎えに来たんだったな。


「おっきい門番、それはダメじゃ。神竜の試練を受ける前に神竜に会ってしまうと、妾達がズルをしたと皆に思われてしまうのじゃ」


(神竜に会う前に、その空間を調べたいのかな)


「そ、そんな風には思わないと……」


「おっきい門番が思わなくても、リボンを持っている人に、ズルをしたと思われたくないのじゃっ」


「そうか、行商人さんは、曲がったことが嫌いなんだね。素晴らしいと思うよ」


 そう言われて、ふふんとふんぞり返っている猫耳の少女……。僕としては、何も言えない。



「じゃあ、神都で最も立派な宿に案内しようか」


 近衛兵がそう言ってくれたが、猫耳の少女は、ポーションを買ってくれた住人の方を向いた。


「あの、行商人さん達の安全のためには、安宿の方がいいですよ」


(うん? 安宿は治安が悪くない?)


「そうなのか? 安宿の方が良いのかのぅ?」


「近衛兵なら平気でしょうけど……高級な宿には、宇宙海賊が泊まっているんだよ。神都の安宿なら、田舎町から来たこの星の住人しかいないから、安全ですよ」


(あっ、宇宙海賊)


「ふむ、それなら安宿にするのじゃ。クラちゃんも一緒に泊まるじゃろ?」


 まさかの突然の泊まりのお誘いに、クラリスさんは驚きの表情で固まっていた。神に仕えるクラリスさんは、この神都に家があるんじゃないのかな。


「そ、そうね。かわいい皆さんだけだと、心配だもんね」


 猫耳の少女に、キュッと腕をつかまれていては、クラリスさんは了承するしかないよね。


「じゃあ、俺がオススメの安宿に案内するよ。心配だから、俺も泊まろうかな」


「だよな、かわいい行商人さんだけにするのは、心配だよな。宇宙海賊が狙ってくるかもしれない」


(えーっと?)


 なんだか、次々と泊まる宣言をしていく大きな獣人さん達……。女神様の魅了が効きすぎてるみたいだな。


「それなら、みんなでお泊まりなのじゃ〜」


 無邪気な猫耳の少女に、僕は、ため息をつくしかなかった。ある意味、宇宙海賊より危ない気がするんだけど。



 ◇◇◇



「空いている全室を借りるぜ」


 案内された内門近くの大きな建物に入ると、ポーションを買ってくれた人が、驚きの発言をしている。


「団体さんだね。空きは、12室だから12人まで……おや? まぁっ! 小さな種族だね、いらっしゃい」


「行商人さんだよ。彼らは特別室に泊めてあげてよ」


 そう言って、金貨を出す獣人さん。僕が払おうとすると、クラリスさんに制された。小さな種族に払わせることは、彼のプライドを潰すことになるらしい。


(でも、100万円だよ?)


「ちょっと、あんた、釣り銭はないよ? 12室と特別室で、合わせて銀貨7枚だよ」


(あっ、安いんだ)


「釣り銭はいらないから、余った分で、晩飯をつけてくれ」


「はい? 金貨1枚じゃ、ロクな食事は用意できないよ?」


(食事は、めちゃくちゃ高いのか)


「俺達は何でもいいよ。あっ、行商人さんは……」



 すると、クラリスさんが口を開く。


「彼らは弁当を持ってきているから大丈夫。この星の食べ物は、彼らには合わないと思う」


「妾は、食べてみたいのじゃっ!」


 そう言うと猫耳の少女は、金貨をジャラジャラとカウンターに置いた。


(ちょ、彼のプライドを潰してるよ……)



皆様、いつもありがとうございます。

水木金はお休み。

次回は、10月15日(土)に更新予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。