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25、アプルゴルド星 〜神都の内門での大量販売

「まいどあり〜なのじゃ」


 猫耳の少女は、テーブルの上に立って笑顔を振りまいている。そう、それだけなんだ。お客さんにポーションを渡す手伝いをする気はないらしい。



 僕が魔法袋から出したモヒート風味の10%回復ポーションを、10本セットにしてくれているのは、小さなスケルトン……魔王カイさんだ。彼は不思議な糸のようなもので、凄いスピードでまとめていくんだ。


 単品バラ売りも並べてあるけど、10本ずつのセットが飛ぶように売れていく。女神様が、10本なら金貨1枚と言った値引き効果だろうか。いや、猫耳の少女にメロメロになっているからかな。


 そのおかげで釣り銭の計算がいらないから、息子のシャインが、僕の代わりに会計係をしている。お客さんは、シャインとも話したいからか、お代の支払いの順番待ちをしてくれている。


(真面目すぎる種族だよな)


 この神都アプルの市街地には、泥棒はいないのだろうか。まぁ、神都だから、善良な住人を選別しているのかもしれないね。




「マスター、そろそろ大丈夫みたいよ〜。もう、みんな1セットずつ買ったみたい」


 神アプルゴルド様に仕えるクラリス・ロールさんは、辺りを見回して、そう教えてくれた。


(みんな、1セットずつ?)


 もしかして、それがこの星のマナーなのだろうか。湖上の街なら、リュックくんが自販機を補充すると、すぐに売り切れる。独占したい人が多いんだよな。


 だけど、この神都では、欲張る人はいないみたいだ。近衛兵の人達が、手伝ってくれているためかもしれないけど。



「クラちゃん、わかりました。お手伝いをありがとうございました。えーっと……」


 僕が、シャインが持つ大きな革袋の中身を確認しようとすると、クラリスさんは、ふるふると首を横に振っている。


「マスター、もう十分すぎる給料はもらったわ。そのお金は、湖上の街の子供達へのお土産に使ってちょうだい。とは言っても、あまり子供が喜ぶような産物はないんだけどね」


「えっ? でも、すごく手伝ってもらいましたし……」


 テーブルの上に立っている猫耳の少女が、手をひらひらさせている。女神様に任せる方がいいかな。



「ティア様が、給料を配ってくれるんですね? ネコババしませんよね?」


 僕は、売上金の入った大きな革袋を、猫耳の少女に手渡した、


「なっ!? ライトは、妾(わらわ)が猫じゃから、ネコババすると言っておるのか。ひどいのじゃ」


(猫は関係ない)


 女神様は、『猫がネコババ』というセリフを気に入っているみたいだ。普段オドオドしているシャインが、ぷっと吹き出している。子供達にはウケが良いセリフなのかもしれないな。


「ティア様を信用して託すんですよ? 浴衣の袖にそのまま入れたりしないでくださいよ」


「そんなことしたら、重くて腕が振り回せないではないか。こっそりもらうなら魔法袋に入れるのじゃ」


「こっそりもらわないでくださいよ?」


「みんなに聞こえておるのに、こっそりもらえるわけがないではないか。ライトはしょぼいのじゃ」


 そう言うと、ぷいっと明後日の方向を向く猫耳の少女……。だいたい、反論が苦しくなると、しょぼいのじゃと言ってごまかすんだよね。



「あらあら、マスター、ティアちゃんはそんな悪い子じゃないわよ?」


 クラリスさんが、少しデレっとした顔で、猫耳の少女を擁護している。すると、チッと小さな舌打ちが聞こえた。


(もうネコババできないね)


 どさくさに紛れて魔法袋へ入れようとしていた女神様の舌打ちだ。クラリスさんの信用を裏切るわけにはいかないもんね。


「妾は、悪い猫ではないのじゃ! 手伝いをした者に給料を配るのじゃっ」


 そう言うと、猫耳の少女は小さな手を革袋に突っ込み、一握りの金貨を取り出すと、クラリスさんにその丸くなった手を向けた。


「クラちゃん、手を出すのじゃ」


「えっ? そんなにたくさんもらえないよ?」


「はよはよ、革袋が重くて片手で持つのは辛いのじゃ」


(嘘だよね)


 大きな革袋にぎっしりと金貨が入っているけど、女神様はきっと重力魔法を使っているはずだ。


「わっ、ティアちゃんの細い腕が……」


 慌ててクラリスさんは、猫耳の少女の前に手を出した。大きな手に、小さな丸い手がちょんと乗せられ、パラパラと金貨がクラリスさんに渡された。


「はぅっ、ティアちゃんの手って、かわいいわねぇ」


 うっとりとする大きな獣人クラリスさん……。ほんと、小さな種族が好きだよね。



「次じゃ! おっきい門番も、こっちに来るのじゃ」


 女神様は、神アプルゴルド様の近衛兵にも、給料を支払うつもりのようだ。確かに、通常の10倍の価格で売っているから、もらい過ぎた分は、この国の人に還元すべきだよね。買い物には使えないほどの売上金だ。


「いえ、我々は……勤務中ですから」


「お、重いのじゃ……はよ取りに来てくれないと、妾の手がビリビリにしびれてしまうのじゃ」


 そう言って大袈裟によろけて見せる猫耳の少女……。めちゃくちゃ芝居くさいのに、近衛兵達は、慌てて近寄ってきた。


 そして、クラリスさんに渡したのと同じように、革袋に手を突っ込んで、一握りの金貨を配っている。


(枚数を数える気はないのね)


 近衛兵達は、わざわざ手に装備していた手袋を外して、金貨を受け取っている。大きな手に、小さな丸い手がちょんと乗せられると、みんな怪しいトロトロ顔になっている。金貨より、小さな猫耳の少女のお手が、何よりの報酬になったのかもしれないな。


 遠慮していた近衛兵達も、そのお手をしてもらいたくて並んでいるようだ。そして、手のひらに残った金貨をデレデレした表情で、みんな眺めているんだよね。


 だけど、明らかに枚数が違うみたいだな。金貨1枚は100万円だ。2〜3枚の差がある気がする。



「皆さん、猫ちゃんは枚数を数えられないので、少ない人は声をかけてください。僕が補充します」


「ぬわっ、妾は、数えられるぞっ。革袋が重くてぷるぷるしてたから、数えなかっただけじゃ。ふんっ」


 猫耳の少女は、革袋を僕に渡すと、革袋に手を突っ込み、ひときわ大きな一握りを作っているようだ。


「ティア様、何をしてるんですか」


「妾の分の給料のつかみ取りじゃ」


「じゃあ、どうぞ……。何をしてるんですか。一枚でも多く取ろうと頑張ってるんですか」


 なぜか、猫耳の少女は、革袋から手を抜かない。


「ぬ、抜けなくなったのじゃ」


「はい? 何がですか」


 そう尋ねると、猫耳の少女は僕にジト目を向ける。まさか、握りすぎて金貨が引っかかって、手が抜けないの?


 僕は、『眼』に力を込めて見てみた。小さな指からたくさんの金貨が、あらゆる方向にはみ出していて、革袋から手が抜けなくなっているようだ。


「ライト、何とかするのじゃ」


「革袋は破らないでくださいよ? ベアトスさんに作ってもらった特殊仕様なんですからね」


「何とかするのじゃ。透過魔法が発動せぬ」


 欲張りすぎて、革袋から手が抜けなくなった猫耳の少女……。これは、意外な効果を生んでいた。見物していた街の住人までもが、その表情をトロトロにさせている。


(強烈な魅了効果かもね)


 しかも、何の術も使ってないから、反転させられる心配もない。女神様の人を惹きつける能力は、半端ないよね。今回のこれは、ただの偶然だけど。



「ティアちゃん、金貨を握りすぎちゃってるんじゃないかしら? 少し減らせば抜けるわよ」


 クラリスさんがそう言っても、猫耳の少女は首を横にふるふると振っている。


「ライトならば、何とかできるのじゃ。意地悪をしておるのじゃ。妾が、うっかり宇宙船を迷子にさせてしまった報復なのじゃっ」


(いやいや、宇宙船は関係ない)


「あらあら、マスター、ティアちゃんがごめんなさいって言ってるわよ〜」


(言ってないよ)


 僕は、ふぅっとため息をつく。


「クラちゃん、あまり猫ちゃんを甘やかさないでください」


「聞いたか? ライトは意地悪なのじゃ〜っ」


「ティア様が欲張りすぎてるんです。皆さんに渡した給料よりも、たくさん取ろうとしてますよね?」


「妾は、給料を配る係もしたのじゃっ」


 もう一方の手をぶんぶん振り回して、謎の威嚇をしている。まぁ、仕方ないな。


「今回だけですよ?」


「わかったのじゃっ。今回だけじゃっ」


 僕は、肘(ひじ)まで深く革袋に捕まっている少女の腕に触れ、半分だけ霊体化!を使った。すると、圧倒的に大きな一握りが、革袋を通り抜けて、外に出てきた。


 ニマ〜ッと笑う猫耳の少女……。こんな少女が女神イロハカルティア様だとは、誰も思わないよね。



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