22、アプルゴルド星 〜モヒート風味のポーションを売る
僕がポーションを並べ終えた頃には、露店の周りには大勢の大きな獣人さん達が集まっていた、
ポーションを置くテーブルには、猫耳の少女の落書き風船が飾られている。色とりどりの風船は、灰色と白を基調としたこの場所では、とても目立っている。
「マスター、販売するのは、ミントのカクテルっぽいポーションだけなの?」
神アプルゴルド様に仕える魔帝クラリス・ロールさんは、並んだポーションのラベルを見て、首を傾げた。
(選択を間違えたかな?)
「クラちゃん、露店は、種類が多いと混乱するので、モヒート風味の10%回復ポーションだけにしました。パナシェ風味のクリアポーションの方がよかったかな」
「フルーツエールっぽい万能薬ね。あれは、この星では売ってないかも」
(万能薬ではないんだけど)
「じゃあ、とりあえず、この場所ではモヒート風味の10%回復ポーションを販売しますね。値段は、店と一緒でいいかな」
「わかったわ。ただ、ミントのカクテルっぽいポーションは、この街では金貨1〜2枚よ? 裏取引なら、銀貨50枚くらいだと聞いたことあるけど」
「えっ? 金貨1枚って、100倍じゃないですか」
僕が思わず叫ぶと、彼女は困ったような笑みを浮かべている。非難されたと感じたのだろうか。
でも、そうだよな。わざわざイロハカルティア星まで買いに来てここで販売しているなら、旅費とかいろいろお金をかけているもんね。
(他の星への行商価格が必要だな)
ここでイロハカルティア星と同じ値段で売ると、その商売をしている人の邪魔をしてしまう。だけど、さすがに50倍とか100倍というわけにはいかないな。
「ライト、外の星では、ぜーんぶ同じ運び賃をもらうことにするのじゃ。それで、儲かりすぎた分は、その星の産物をお土産に買えばよい」
猫耳の少女が、まともなことを言っている。こういうときだけは、女神様だな。そう考えると、ジト目を向けられた。完全に頭の中を覗かれている。
「ティアちゃんって、すっごくお利口さんね。マスター、私もそれがいいと思うわ。わざわざアプルゴルド星に来てくれたんだもの」
クラリスさんも同意してくれた。お利口さんと言われた猫耳の少女は、ふふんとふんぞり返っている。こういう所って、なんだか魔王サラドラさんに似ているよね。同じ妖精族だからかな。
「クラちゃん、運び賃は、いくらぐらいがいいと思いますか?」
「うーん、1本の値段をどうするかってことよね? 難しいわね。銀貨50枚くらい?」
(いやいや、それはない)
「さすがにそれでは、数が売れませんよね。僕としては、たくさん売りたいんです」
「そうでもないわよ? みんな買う気満々で、金貨を握りしめているわよ」
(へ? 金貨?)
そうか、アプルゴルド星は豊かなんだ。この星の鉱物は質が良いと聞く。大きな獣人さん達は、他の星へも頻繁に行き来しているから、交易も盛んなのかな。
イロハカルティア星では、他の星へ行く人は、ほとんどいない。たぶん、人族には宇宙へ行く能力がないし、魔族は地底での権力争いに夢中だ。他の星との交易の面では、とても遅れているよな。
「アプルゴルド星のような資源が偏った星では、他の星との交易がないと困るから、宇宙の旅をする人が多いのじゃな」
「まぁっ! ティアちゃんってば、ほんとにお利口さんね。そうなのよ。鉱物を売って、そのお金でいろいろな物を買うのよ」
(へぇ、そっか)
再びお利口さんと言われて、猫耳の少女は、僕に挑発的な視線を向けてくる。ティアちゃんが黄の太陽系の創造神だと、バラしてやろうかな。そう考えると、猫耳の少女は、明後日の方向を向いた。
(ふふっ、面白い)
「クラちゃん、では、1本あたり銀貨10枚を運び賃にします。他のポーションも一律それでいきます」
「ええっ? マスター、安すぎるよ? でも、そっか、それがわかりやすくていいかな。じゃあ、ミントのカクテルっぽいポーションは、銀貨11枚ね」
「はい、それで販売を始めます」
チラッと、息子のシャインに視線を移すと、指を折って呆けている。両手で足りないから、計算できないみたいだな。学校のテストの前には計算ができるようになるのに、すぐに忘れちゃうんだよね。
そんなシャインの様子を、大きな獣人の彼女は、デレっとした表情で眺めている。
「じゃあ、マスター、私も手伝うよ。シャインくんやティアちゃんには、お釣りの計算は難しいもんね」
「妾は、釣り銭の計算もできるのじゃっ! シャインとは違うのじゃ」
(当たり前でしょ)
猫耳の少女にそう言われて、シャインの目には、みるみるうちに涙が溜まってきた。女神様の言い方がキツイんだよな。シャインは、種族的に成長が遅い。人間に当てはめると、まだ1歳にも満たない赤ん坊だ。
「まぁっ、ティアちゃんはお利口さんだけど、シャインくんを泣かせちゃダメだよ? 仲良くね」
「のわっ!? シャインがすぐ泣くから悪いのじゃ」
手をぶんぶん振り回して謎の威嚇をする猫耳の少女……。だけど、いま僕達は、大勢の獣人さん達に見られている。お客様の前で、こんな……。
(あー、いいのか)
僕達が宇宙海賊かもしれないと疑って、皆、少し離れていたけど、ジワジワと距離が近づいてきている。そして、その表情も、よく見る大きな獣人さん達の顔に変わってきた。デレデレしつつ、小さな種族のケンカを心配してくれているようだ。
たぶん、女神様は何も考えずに、いつも通りにしている。だからシャインも、いつも通り、いじめられたと感じて大粒の涙なんだよね。
「ティア様とシャインは、ポーションを渡す係をお願いします。クラちゃんと僕は、会計係をします」
「なっ? ライトまで、妾が釣り銭の計算ができないと言うのか。妾なら、余裕じゃぞっ」
「ティア様は、お金をこっそりポケットに入れるかもしれないでしょう?」
「のわっ!? 妾が猫じゃから、ネコババすると言うておるのか」
(猫は関係ない)
「こないだ、タイガさんの店の手伝いをして、かなりポケットが膨らんでましたよね? あー、今日は浴衣だから、袖が膨らむかなぁ」
くわっと目を見開く猫耳の少女に、クラリスさんは優しい笑顔を向けている。だけど、売上金泥棒だよ?
「バレてないと思っておったのじゃ……」
「あらあら、ティアちゃん、ダメよぉ? じゃあ、私とマスターが会計係ね。ペアを組む方がいいかしら?」
「そうですね。じゃあ、やんちゃな猫ちゃんのお世話をお願いできますか」
「ふふっ、わかったわ」
僕達のポーションの販売会が始まった。猫耳の少女は、シャインより多く売ろうと張り切っている。でも、お客さんは、女神様からもシャインからも買ってくれるんだよね。たぶん、両方と話したいのだと思う。
そして、並べていた200本ちょっとのポーションは、あっという間に完売した。金貨22枚ほどの売り上げだ。
「あっという間に売れたのじゃ」
「お疲れ様でした。給料ですよ」
僕は、猫耳の少女とシャイン、そしてクラリスさんに、それぞれ金貨3枚を渡した。
「マスター、私まで? 受け取れないわ」
「クラちゃんには、とても助けてもらったので。また僕の店で、たくさん使ってください」
「マスターの店のご飯は安いもの。使い切れるかしら?」
「何回か貸切にすれば、金貨3枚などすぐに無くなるのじゃっ」
謎のアドバイスをする猫耳の少女……。あっ、だけど、クラリスさんの表情が……怪しい笑みに変わった。
「そうね。湖上の街の子供達を集めて、ご飯をご馳走すれば、すぐに無くなるわね」
「どどーんと、使うのじゃ! その前に、妾は、この街で買い物をしたいのじゃ。ライト、場所を変えてポーションを売るのじゃっ」
(あれ? 神竜の試練は?)
テーブルを魔法袋に片付けると、落書き風船を手に持った猫耳の少女は、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。ワクワクが止まらないらしい。
あっ、女神様は、小さな白いスケルトンにも風船を持たせている。アンデッドの魔王カイさんに風船……似合わない。
「ポーション屋さん、神都の市街地でも販売会をするのですか?」
ポーションを買ってくれた若い獣人の女性に、声をかけられた。まだまだ買いたい人が多いのかな。
「はい、他の種類も持って来ているので、適当な場所で販売会をしますよ」
「じゃあ、知り合いにも知らせてくるよ。こんなかわいい行商人さんは、見ないと損だからね」
(えっ? 見ないと損?)
彼女との話を聞いていた人達は、足早に神都の大きな門へと向かって行った。
水木金はお休み。
次回は、10月8日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




