20、アプルゴルド星 〜神都アプルの門にて
僕達は、ワープワーム達のワープを使って、神都アプルへと移動した。族長さんが僕の腰にくっついているから、いちいち呼ばなくても完璧なタイミングで対応してくれる。
「ええっ? 神都の門にもう着いたの? マスター、天使ちゃん達って、どういうことになっているわけ? 神都の場所を教える前に着いたよ」
神アプルゴルド様に仕える魔帝クラリス・ロールさんは、ワープワームがすぐに神都へワープしたことに驚いていた。
(ちょっとマズかったかな)
「クラちゃん、僕達がこの星に着いてからしばらく経つので、ワープワーム達は、住人の多い場所を探してくれていたみたいです」
僕は、適当にごまかした。完全な嘘ではない。ただ話さないことがあるだけだ。ワープワーム達は、この星を事前に調べていたようだ。
ワープワームは、主人が行ったことのない場所へのワープは、基本できない。だけど奴らは、リュックくんに連れられて、あちこちの星に、既に潜入している。だから、この星へも直接ワープができたんだ。
「そう、天使ちゃん達って偉いのね〜、びっくりしたわ。ここからは私が案内するね」
(よかった、信じてくれた)
大きな獣人の彼女は、やわらかな笑みを浮かべた。だけど、イロハカルティア星に来ていたときとは違って、その表情はキリッと引き締まっている。
「クラちゃん、妾は、これで良いかの? 門に並ぶ人は、皆、変わった服を着ておるのぅ」
(この星の住人の服が欲しいのかな)
門に並ぶ人達は、皆、クラリスさんと同じく3メートル以上ありそうな大きな獣人だ。服は、魔物の皮を利用したワイルドな感じの物が多い。
服は質素で地味だけど、目に付くのは色とりどりの紐状の物だ。縫製技術が発達してないのか、魔物の皮を適当に裁断して紐状の物で、ほどけないように縛ってあるように見える。
腰には、何本もの紐を帯のように巻き付けてあるし、手首や足首にも紐状の物が見える。地味な服のアクセントだろうか。手首には、たくさんの色の紐状の物を身につけている人もいる。
(紐が好きなのかな)
不思議な紐だな。その材質はわからない。鉱物だろうか? いや鉱物なら紐としては使えないかな。草木のつたではないことは確かだ。きしめんのように平べったくて、少し光沢のある紐状の物だ。
クラリスさんは、僕の街で流行っている冒険者の服を着ている。腰には剣を装備しているけど、紐状の物は身につけていない。
猫耳の少女は、祭り仕様の浴衣のままだ。だけど泥汚れは、すっかり綺麗になっている。
転移魔法を使うと、身体に付着していた菌を他の場所に持ち込まないようにするため、身体がクリーニングされる。他の星への長距離ワープでも、同じことが起こっているようだ。
「ティアちゃんの服は、とてもかわいいわよ?」
「そうかのぅ、皆が着ている服には、大きなリボンが付いておるのぅ。かわいい色もあるのぅ」
(紐のことかな)
「ふふっ、ティアちゃんってば、リボンが欲しくなっちゃったのかな? あのリボンに見える物は、階級を意味しているのよ。この神都の神殿で、神竜の試練を受けたらもらえるわ」
クラリスさんの説明に、猫耳の少女は目を輝かせた。嫌な予感しかしない。だけど、女神様が着目したということは、あの紐に何か手掛かりがあるのだろうか。
「なんとっ! 妾でも、もらえるのか?」
「ええっと……あはは、神竜の試練を受けなきゃもらえないのよ? 他の星の人は、誰も受けないと思うけど」
「他の星の者では、ダメなのか?」
(なんか必死だな)
「ダメってことはないと思うけど」
「あのリボンは、竜のウロコから作ったのじゃろ?」
(竜のウロコ?)
「さすがティアちゃん、よくわかったわね〜。あのリボンに見える物は、竜が脱皮したときの抜け殻からできているわ。ウロコ1枚から1本の竜紐ができるの」
(竜紐? やっぱ、紐なんだ)
「あんな不思議なリボンは、イロハカルティア星には無いのじゃ。カイも欲しいらしいぞ。ライトとシャインは、どうするのじゃ?」
なぜか好戦的な顔をする猫耳の少女……。魔王カイさんは、何も言ってないと思うよ。小さな白いスケルトンは、女神様に腕を掴まれて乱暴に振り回されている。
「ティア様、僕達はポーションの行商に来たんですよ? お手伝いをしてくれるんじゃなかったんですか」
「のわっ!? そうじゃった。忘れておったのじゃ」
ガックリと肩を落とし、握っていたスケルトンを落っことす猫耳の少女。
カシャンと乾いた音を立てて、地面に散らばる小さな白い骨……。
(芝居くさいな)
「あらあら、ティアちゃん、どうしましょう。泣かないでよ? お人形が壊れてしまったわ」
周りの視線を集めている僕達。神都の門の列に並ぶ大きな獣人達は、ハラハラと様子を見守っているようだ。
この星の住人は、小さな種族が好きだ。だから、こんなにも心配する。お人好しなのだろう。そのせいで、宇宙海賊達が好き放題しているのかな。
「やっぱり、妾は、神竜の試練に行きたいのじゃ!」
バタバタと手を振り回して、僕に謎の威嚇をする猫耳の少女。
(あれ? 竜?)
アプルゴルド星には、大きな獣人と神アプルゴルド様の血族の鉱物系の種族しかいないはずだ。魔物や動物はいるだろうけど、知能の高い種族は、神の血族以外は獣人だけだよな?
竜は、知能が高い。宇宙船を作る技術を提供してくれたスチーム星の竜人さん達も、かなりの知識人だ。
この星には、竜族も住んでいるのだろうか? 神竜の試練ってことは、神と呼ばれる竜がいるの?
「ティア様、それなら、ちゃんと行商のお手伝いをしてくれてから、ということにしましょう」
「うぬぬぬ……わかったのじゃ。カイ! いつまで骨のフリをしておるのじゃっ」
女神様に怒鳴られ、地面に散らばっていた骨は集まり、小さな白いスケルトンに戻った。
(魔王カイさん……)
白いスケルトンは、再び猫耳の少女に腕を乱暴に持ち上げられ……頬骨が赤く染まっていた。虐待されているようにも見えるけど、魔王カイさんは、女神様に構ってもらえて嬉しいらしい。
「まぁっ、元に戻ったわね。すごいお人形ね〜」
「カイは、落っことしたくらいでは壊れないのじゃ」
クラリスさんは、小さな白いスケルトンのことを、猫耳の少女のペットだと思っているんだよな。女神様も、わざと雑に扱っているのかもしれない。
◇◇◇
「水の魔帝、そちらの小さな3人は……」
「イロハカルティア星の人達です。彼が伝説のポーション屋だと知って、ご案内したのですよ」
皆が並ぶ列とは別の門に、クラリスさんは僕達を連れて行った。とは言っても、大きな獣人達が並ぶ列のすぐ横の、通用門のような門だ。
「なるほど。先程から聞こえていましたが、行商というのは、ポーションの行商ですか。水の魔帝の星の門の通過記録が届いてませんが、本物でしょうか?」
(あっ、星の門……)
クラリスさんは、僕の方をパッと見た。彼女は、すがるような目をしている。頭が真っ白になったみたいだな。
「妾達は、皆を驚かせようと、こっそりやってきたのじゃっ」
猫耳の少女がそう話すと、門番の表情はフニャッと緩んだ。だけど、すぐに顔を引き締めている。
(小さな種族に、ほんと弱いよね)
「こっそりと言われても困りますね。星の門を通過しないで戻れるわけはないので、精巧に化けた侵略者の可能性も……」
「は? 私が偽物だと言っているのか!?」
クラリスさんが突然、豹変した。
そのオーラに驚いたシャインは、ビクッと身体を震わせた。寝不足でウトウトしていたけど、目が覚めたみたいだね。
「い、いえ、あの……」
門に並ぶ人達からの心配そうな視線が、僕の息子シャインに集まっている。ビクッとしたから心配してくれたのかな。
(僕が話す方がいいかな)
「門番さん、僕は、ポーションの行商人ライトです。この星には、星の門を通らずに入りました。門が壊されていたから素通りできてしまったみたいで……すみません」
「えっ? あぁ、さっき、星の門が壊されたから修復したと連絡がありました。あの時に到着したのですね。よく、ご無事でしたね」
門番の態度は一転して、僕達を気遣っているように見えた。僕も、彼らから見れば、小さな種族だからかな。
「伝説のポーション屋の一行だ。それくらい当然だろう?」
クラリスさんがそう話すと、門番は大きく頷いた。
「足止めをしてしまい失礼しました。皆様、ようこそ神都アプルへ!」




