19、アプルゴルド星 〜行商人ふたり別行動
「俺とライトさんは、別行動する方がいいだな?」
ベアトスさんがそう尋ねると、ノームの魔王ノムさんは、大きく頷いた。
「他の星の住人だとわかる我々は、行商人として行動する方が、怪しまれないからな。それに、どこに侵略者が紛れているかわからない」
(きっと侵略者だらけだよね、宇宙海賊もいるし)
「じゃあ、俺は、星の綻びの修復に回るだよ。ノムさんが一緒に来てくれると助かるだ」
「そのつもりだ。目障りだが、サラドラも連れて行くか。アホが一緒の方が怪しまれない」
(ちょ、言い方)
赤いワンピースのチビっ子は、聞こえないフリをしているようだ。でも、サラドラさんがいる方が安心だよな。
サラマンドラの魔王サラドラさんは火を操る能力が高いし、何より、土を操るノームの魔王ノムさんと連携すると、とんでもなく強い。
「んだな。サラドラさんの火力は半端ねぇだからな。それに、ティアちゃんの世話は、ライトさんしかできねぇだ」
(女神様とサラドラさんは分けるんだな)
確かに、その方がいい。二人はすぐにケンカするということもあるけど、分かれる方が連絡しやすい。このメンバーなら、サラドラさんは女神様の次に、念話能力やサーチ能力が高いもんな。
ワープワームは、それぞれに分かれて行動するだろうけど、奴らは映像は送れるけど、声は送れない。僕には族長さんがくっついているから、話は聞けるけど。
「ええっ、ちょっと待って。私はどうすればいいかしら」
この星の神に仕える魔帝クラリス・ロールさんは、この展開に困惑しているようだ。
「クラちゃんは、妾達と一緒に、かくれんぼしておる神アプルゴルドを捜すのじゃ」
戸惑う彼女に、猫耳の少女は自分の胸を叩いて、任せておけのポーズをしている。
「ふふっ、ティアちゃんは頼もしいわね〜。さすが女神様のペットの猫ちゃんね。私は、水の魔帝なのに、何をすればいいかわからないわ」
(まだ、バレてないな)
クラリス・ロールさんは、まさかティア様が女神様だとは思ってないみたいだ。まぁ、普通、そうだよね。
黄の星系の創造神が、こんな獣人の少女に化けているだけでも信じられないことだ。しかもアプルゴルド星に来るなんて、想像すらできないよね。
この様子なら、猫耳の少女が多少の失言をしても、女神様だとはバレない気がする。
「そうだな。星の綻びの修復には、ゴーレムを使うから、こっちの戦力はこれでいい。あっ、アイツも来ているか?」
ノームの魔王ノムさんが、ベアトスさんにそう尋ねると、彼の魔法袋のひとつが消え、目の前に、妖艶な笑みを浮かべた女性が現れた。
(女性の姿の方が多いよね)
「魔王ノム、私は採掘しかしないからね。面倒なことは、そっちの魔人に言いなさいよね」
妖艶なサキュバスのような魔人レイは、艶やかな黒髪をかきあげ、挑発的な視線を送っている。色っぽいその視線に、魔王ノムさんは一瞬言葉を失っていた。
ベアトスさんは、よく魔王ノムさんと行動しているから、魔人レイも、親しくしているのかもしれないな。
「レイ、それは、リュックくんのことだか? 今回、リュックくんは来てないだよ」
「何を言ってるの? ライトの肩に黒いポーチが付いてるじゃないか。気配を消しているのは、私への挑戦かもしれない」
「リュックくんは、レイのことなど相手にしてないだよ。いつまでライバル視してるだ?」
「アイツは魔人のくせに、男の姿にしかなれない時点で、私に負けているじゃない」
(また始まった……)
魔人レイはリュックくんに対して、何というか対抗心がすごいんだよね。以前は、リュックくんも気にしていた時期があったけど、今では魔人間の上下関係は、どうでもいいらしい。
リュックくんは、興味のあるものにはこだわるけど、それ以外は無頓着なんだよな。だから余計に、魔人レイは、リュックくんにケンカを売るのかもしれない。バカにされていると感じるらしい。
「レイ、そんなことより、行商人がそんな服を着ているのはおかしいだ。もっと露出の少ない服に変えるだよ」
ベアトスさんにそう言われて、魔人レイは服をさっと変えた。主人である彼を怒らせたと感じたらしい。口は悪いけど、主人には忠実なんだよね。
長い主従関係があるから、ベアトスさんがイラついたことを敏感に察する能力があるようだ。ベアトスさんは穏やかな人だから、僕は彼が怒っているかは全くわからないんだけど。
(うん? 何かの合図が……)
あぁ、魔王サラドラさんがまだ知らんぷりをしているからかな。魔王ノムさんが強制的に連れて行くことは簡単だけど、ベアトスさんは、それは避けたいみたいだな。僕に、小芝居をしろという合図だ。
「ベアトスさん、星の綻びって、どうやって探すのですか」
そう尋ねると、ベアトスさんは、わざとらしいため息をついた。
「ノムさんに掘り進めてもらう地中探索が一番だが、行商人として振る舞うなら、どうするのが良いだ?」
「魔王ノムさんがゴーレムを使うとしても、侵略者に阻止される可能性もありますよね」
「んだな。邪神の配下と宇宙海賊の見分けも、自信ないだよ。邪神の正体もわからないから、困っただな」
チラッと、赤いワンピースのチビっ子に視線を移すと、頭の上の花がピコピコと揺れている。
(その気になったかな?)
「僕の方は、クラちゃんが案内してくれますけど、ベアトスさんの方は、いろいろと大変そうですよね」
「あぁ、綻びを作っている邪神の種族も数もわからないだよ。思いもしない場所にいるかもしれないだ」
赤いワンピースのチビっ子の頭の上の花は、目障りなほどピコピコと揺れている。本人は気づいてないのだろうか。
「困りましたね〜、謎すぎますよ」
(あっ、反応した)
やはり、謎という言葉を待っていたらしい。
「クマっ! 仕方ないから、あたしが道案内してあげるよっ。どこに綻びがあるかなんて、丸見えじゃないっ。何の謎もないわっ。でも、頑固爺には、わかんないかもねっ。
ビシッと、ベアトスさんを指差す赤いワンピースのチビっ子。よかった、やる気を出してくれた。
「なぜ、アホのサラドラにわかるんだよ?」
(ちょ、レイ!)
魔人レイは、しょっちゅう、いろいろな人のやる気スイッチを消すんだよね。
「魔人レイには、わからないんだよっ。名探偵サラドラちゃんには、解けない謎はないわっ。あーっはっはっはっは」
(何の謎もないと言っていたよね?)
とりあえず、赤いワンピースのチビっ子のやる気スイッチが消えなくてよかった。
妖精族には、大地の歪みがわかるそうだ。土を操る魔王ノムさんは、地中に潜れば察知できるらしい。だが、サラドラさんの方がその能力は高い。たぶん、本当に、もうわかっているのだと思う。
「では、ここでいったん別行動じゃ。天使ちゃん達も探してくれるから、困ったら助けてもらえばよいからの」
女神様がそう言うと、魔王サラドラさんは反論しそうになって、必死に口を閉じた。「イ」を発音する口になっていたから、イロハちゃんと口走ってしまわないように我慢したのかな。
「ティアちゃん、わかっただ。あっ、ライトさん、珍しい鉱石を見つけたら、集めておいて欲しいだよ」
「は、はい。えーっと、わかりました。でも、珍しいかどうかは僕には……」
「ティアちゃんならわかっているだよ。じゃ、俺達はまず、黒い海から行ってくるだ」
ベアトスさんがそう言うと、彼らはスッと消えた。たぶんベアトスさんの魔道具だろうな。
「ライト、妾達は、神アプルゴルドが住む街に行くのじゃ」
(女神様は、神の居場所がわかってるの?)
「えっと、神アプルゴルド様の街ですか?」
僕は、大きな獣人の彼女に視線を移した。
「わかったわ。神都アプルに、皆さんを案内するわ。私は、どういう感じにしていたらいいの?」
「クラちゃんが、ライトを連れて来たことにするのじゃ。いつも店に出入りしておるじゃろ? ライトがポーション屋だとわかったから、連れてきたという設定じゃ」
猫耳の少女の話に、彼女は大きく頷いた。
「わかったわ。だけど、私達は星の門を通ってないから……」
「驚かせるために、こっそりと戻って来たことにするのじゃ。星の門が壊される前に、こっそり入ってきた感じじゃっ」
誰も納得しない説明だけど……クラリス・ロールさんは苦笑いで頷いた。
「さぁ、神都アプルへ行きましょう!」
彼女の声に応えるように、ワープワーム達が足元に集まってきた。




