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18、アプルゴルド星 〜小さなスケルトン

「クラちゃん、この場所の近くには水辺はなさそうですよ。星の門(ゲート)はあちらの方角にあります」


 そう指摘すると、この星を治める神の側近であるクラリス・ロールさんは、僕が指差した方向に視線を向けた。サーチ魔法を使っているようだ。


 僕も『眼』の力を使っているから、星の門の様子は見えている。ベアトスさんも見ているみたいだ。二人の魔王はサーチかな。


 猫耳の少女は、状況把握が終わっているのか、僕と手を繋ぐ息子のシャインの方に近寄ってくる。


(あれ?)


 女神様の背後には、やはり白い何かが見えた気がする。僕が気づくとスッと消えるんだよな。薄暗い森だから、白い物は目立つ。見間違えではないよね。


(小さなスケルトンかな?)



「なんじゃ?」


 女神様は見られていると感じたのか、不満げな様子だ。なぜ、見られて機嫌が悪くなるのか疑問だけど。


「ティア様の背後に、白い何かが見えた気がして」


「のわっ? なんじゃと!?」


(あれ? 気づいてないの?)


「たぶん、ティア様が心配で、彼もついて来たんだと思いますよ」


「コミュ障じゃな!」


 女神様がそう叫ぶと、カシャッと乾いた木枝が崩れるような音がした。


(驚いたのかな、魔王カイさん)


 猫耳の少女は、後ろを振り返ると、地面の上に散らばる白い小さな骨を睨んでいる。草原なら隠れるだろうけど、地面は黒っぽいから目立つよね。



「あら、ティアちゃんのおもちゃなの? でも、コミュ障ってなぁに?」


 クラリスさんは、白い小さな骨に視線を移し、不思議そうな顔をしている。


「こやつは、話せるのに話せないのじゃ。妾(わらわ)がワクワクする場所に行くと、すぐに妾の近くに出没するのじゃ。カイ! さっさと立つのじゃっ。骨のフリをしておっても無駄じゃぞ。バレバレじゃ」


 すると小さな骨は集まり、小さなスケルトンに変わった。いつものスケルトンよりも圧倒的に小さい人形サイズだ。魔王カイさんは、猫耳の少女に合わせているのかな。


「まぁっ! どこかの星の神の姿に似ているわ。ティアちゃんのペットなの?」


「こやつは、地底の住人での。この姿はスケルトンという種族じゃ。アンデッドの一種じゃが、クラちゃんは見たことがなかったかの?」


「初めて見たわ。骨だけで動くなんて不思議ね。わっ、かわいい! ティアちゃんのことが大好きなのね」


 猫耳の少女は、スケルトンを雑に掴んで、クラリスさんに見せている。魔王カイさんの顔の頬骨付近が赤くなっているみたいだ。なぜ血液がないのに赤くなるんだ?


「妾のことを追いかけてくる心配性なジジイなのじゃ」


 ジジイと言われても、スケルトンは嬉しいらしい。そういえば魔王カイさんも、魔王サラドラさんと同じくらい古い魔王だよね。アンデッドだから死なないし。


「へぇ、不思議な種族ね。でも小さくてかわいいわね。ティアちゃんのお人形さんみたいだわ」


「人前では話さないから、人形みたいなものじゃな。獣人は、こやつを怖がらぬか?」


「何の邪気も感じないから、きっと大丈夫よ。死体なら悪鬼が宿るから、すぐに焼かなきゃいけないけど……」


(確かに気配を消してるもんね)


「ふむ、それは妙じゃな。神アプルゴルドは、死者を砂に還すのではないのか。そして、その砂がこの星の鉱物に変わっていくと聞いておった」


「ティアちゃん、よく知っているわね。以前は、死体をそのまま土に埋めていたの。だけど、いつからか砂に還らなくなっていったわ。その原因はわからないんだけど」


「それで、焼いて灰にしてしまうのじゃな」


 大きな獣人の彼女は、力なく頷いた。女神様は、ズケズケとストレートに聞きすぎだと思う。



 クラリス・ロールさんは、僕の店で、木々が鉱物化してしまったと、辛そうに話していた。彼女は、水脈を司る水の魔帝だと言っていたっけ。


 アプルゴルド星の密林にあった大きな池も消えてしまって、砂金に変わったことで、神アプルゴルド様が消えてしまったんだよな。


 この場所は、その密林ではなさそうだ。もちろん、木々は鉱物化していない。ただ、すべてが枯れ木のように見える。葉をつけてないし地面に草も生えていない。




「謎すぎるわっ!」


 突然、赤いワンピースのチビっ子が、大きな声をあげた。僕と手を繋いでいるシャインが、ビクッとしている。眠気が吹き飛んだみたいだな。


「サラドラ、うるさい! 神アプルゴルド様の力が衰えているから、こういう事態になっているのだ。どこに謎がある?」


 ノームの魔王ノムさんは、魔王サラドラさんに冷たい視線を送っている。でも、その原因が謎だよね。


「あんたは、何もわかってないわねっ! どっちが先なのかが謎すぎるじゃないっ」


(どっちって何?)


 猫耳の少女はわかっているのか、何も反応がない。ベアトスさんが首を傾げているのが見えて、僕は安心した。わかってないのは僕だけじゃないんだ。


「アホのサラドラ、どっちが先でもない。この星にも厄介な侵略者がいるということだ。イロハカルティア星に近いから、狙われたのだろうな」


 魔王ノムさんの話が、僕には半分もわからない。どっちって何のことだろう。クラリスさんも首を傾げている。


「じゃあ、両方なのねっ!」


(聞いてみようか)



「名探偵サラドラさん、その両方って、何のことですか」


 僕がそう尋ねると、赤いワンピースのチビっ子は、呆けた顔をした。えーっと、バカにされたのかな。


「ライトは、わからないのねっ! お子ちゃまだもんねっ」


「いや、もう大人の姿になってますけど……」


「ライトは、お子ちゃまだよっ。まだ100年くらいしか生きてないじゃない。だから、ピンとこないのよっ」


(なんかムカつく)


 ビシッと僕を指差す決めポーズは、心に余裕がないと、カチンとくる。そう考えていると、赤いワンピースのチビっ子は、ニヤリと笑った。また、僕の思考を覗いてるんだな。



「名探偵サラドラちゃん、私もわからないわ」


 大きな獣人の彼女にそう言われると、魔王サラドラさんは、ふふんと嬉しそうに鼻を鳴らし、頭の上の花がピコピコと動いた。


(あの花、尻尾みたいだよな)



「クラちゃんもわからないなら、説明するねっ。星の命は、神の命と繋がっているの」


「それは知っているわ」


(僕も知ってる)


「うん、だから神を弱らせるには、星を弱らせればいいのよ。イロハカルティア星も、星にたくさんの綻(ほころ)びを作られたせいで、イロハちゃんは死にかけたのよっ」


「えっ? 女神様が? 黄の星系の創造神なのに?」


 そうだ。僕が転生してきたときは、そういう状況だった。中立の星の中で、イロハカルティア星が力を持ちすぎて目立っていたせいらしいけど。


「黄の太陽を創る直前のことだよっ。今は、イロハちゃんの力は強くなってるから、そんな綻びは作らせないけどねっ」


「そんなことが……。もしかして、アプルゴルド星も綻びが作られているの? 私、水の魔帝なのに、何も気づかなかったわ」


 彼女が、ズンと落ち込んでいる。そうか、水の魔帝の役割は、水脈を司るだけじゃないみたいだな。


「クラちゃんは異変に気づいたから、イロハカルティア星に来たんでしょっ。ちゃんとお仕事できてるよっ。悪いけど、クラちゃんには、この謎を解決するチカラは無いよ」


(サラドラさん、キツイな)


「えっ……そう、ね」


 大きな獣人の彼女は、さらに暗い表情を見せた。



「そうじゃな。獣人と神アプルゴルドの血族しか居らぬから、狙われたのじゃろ。妾(わらわ)に、どどーんと任せるのじゃ」


「ティアちゃん? でも……女神様の猫ちゃんなのに」


(あっ、忘れていたな)


 猫耳の少女は、しまったという顔をしている。



「両方に対処するには、手分けする方が早い。ライトは、どっちに行く?」


(どっちと言われても)


 魔王ノムさんは、僕とベアトスさんを分けようとしているみたいだな。僕達の表情をチラチラと見比べている。


 星の綻びを作っている侵略者と、もうひとつは宇宙海賊だろうか。


「ちがーう! ライトは、わかってないのじゃ。宇宙海賊は、最近湧いてきたのじゃろ。あんなもんは適当に蹴散らせばよいのじゃ。魔王ノムは、星の綻びを作る邪神の配下と、神アプルゴルドを封じた邪神の、どっちをギッタンギタンにするかを尋ねておる」


「えっ? アプルゴルド様が封じられているのですか」


 女神様は、それを知っていたから、無理矢理ついてきたのか。僕達だけでは、対処できない事態だ。



水木金お休み。

次回は、10月1日(土)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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