17、アプルゴルド星 〜天使ちゃん達の能力
店の前の広場には、大量のワープワームが集まっていた。アプルゴルド星までは、どれくらいかかるのだろう?
『ライトさま、ごいっしょ、します』
目の前に現れたのは、ワープワーム達の族長さんだ。そして、僕の腰に装備している魔法袋の紐にくっついた。
「族長さんが一緒だと心強いよ。僕は初めての宇宙へのワープだから、ちょっと不安だったんだ。宇宙といえば、転移魔法で気絶した記憶しかないからさ」
『だいじょうぶだとおもいます。リュックさまで、じっけんしました』
「そっか、じゃあ安心かな」
(リュックくんが先に使いたかったんだな)
僕は、転移魔法にめちゃくちゃ弱い。おそらく体質なのだと思う。グニャリと歪む転移の揺れで、とんでもなく気分が悪くなる。一方で、ワープワームを使ったワープは大丈夫だ。たぶん、到着までの時間の差だと思う。
転移魔法は長距離移動に適していて、ワープは基本的には短距離だ。ワープワームを使うと、転移並みの距離を移動できる。そのため、イロハカルティア星のワープワームの支配権は、他の星の人達も欲しがっているようだ。
だけど、宇宙空間へのワープは、普通のワープワームにはできない。僕が支配権を持つ奴らは、邪神の力をいくつか吸収したから特殊なんだ。
「天使ちゃん達、はよ出発するのじゃ」
猫耳の少女が手を振り回して威嚇している。だけど、ワープワーム達はまだふわふわと漂っているだけだ。
「うぬぬ、ライトがおるから、妾の言うことを聞かないのじゃ!」
(むちゃくちゃだな)
「ティア様、この子達の主人は僕ですよ? 本来なら、ティア様に従うのも変ですよね」
「のわっ!? 変じゃないのじゃ。妾は……うー、ライトと仲良しじゃからな」
女神様は、アプルゴルド星の魔帝クラリス・ロールさんには、あくまでも女神様の飼い猫だと思わせたいみたいだな。主人である僕の、さらに主人だから、ワープワーム達は女神様にも従うんだ。
「ティアちゃんは、女神様の猫ちゃんだから、特別なのよね。ワープワームは、主人とその家族にしか従わないと聞くけど」
「うぬぬ……魔王がそう言うなら、そういうことでよいのじゃ」
(また、わざと間違えてるね)
「ティアちゃん、アプルゴルド星は今は危ないから、貴女はここでお留守番していてちょうだい」
大きな獣人の彼女にそう言われて、猫耳の少女は慌てた表情をしている。
「ま、まて、クラちゃんは魔帝じゃったな。妾が間違えたから怒ったのか」
必死な表情の猫耳の少女に、クラリスさんは優しい笑顔を向けた。
「ティアちゃんなら、魔王って呼んでいいよ。さっき、情報が届いたの。星の門が壊されたみたい。危険だから、今回は神族の二人だけにしてもらうわ」
「危険なら、妾も行くのじゃ! ライトもそのつもりだったじゃろ? シャインはどうするのじゃ」
「ティア様が行かないなら、シャインもお留守番でいいですよ」
「なんじゃとっ!?」
僕にそんなウルウルとした目を向けても無駄だ。アプルゴルド星は、友好的な星だから大丈夫だと考えていた。だけど女神様が危険にさらされるなら、話は別だ。
「ティア様は、ついてこないでくださいね」
「妾は、強くなったのじゃ!」
「そういう問題ではありません」
「嫌じゃ! 妾は絶対に行くのじゃっ」
(はぁ……どうしようかな)
「待たせたわねっ!」
(あれ? 地底に戻ってたのかな)
魔王サラドラさんは、誰かを引っ張ってきた……いや、引きずってきたみたいだな。サラドラさんとあまり変わらないくらいの小さなお爺さんに見える。
(ノームの魔王ノムさんだ)
「魔王ノムさん!?」
「あぁ、ライトさん、久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。あの、なぜ?」
「このアホが、ティア様と一緒に他の星の探検に行くと、地底全体に知らせたんじゃよ。だから、止めようとしたのだが……」
「違うでしょっ! あんたは、ティアちゃんが心配だからでしょっ」
ノームも、サラマンドラと同じく妖精族だもんね。妖精族である女神様に、特別な想いがあるのだと思う。
魔王サラドラさんは、女神様をライバル視しつつ、キャッキャと騒ぐのが楽しいみたいだし、魔王ノムさんは、単純に女神様を心配しているらしい。
女神様が、冒険者ギルドで危険なミッションを受けると、魔王が、こっそりと後方支援をしているという噂もある。おそらく、ノームの魔王ノムさんと、アンデッドの魔王カイさんだろうな。
魔王カイさんは、コミュ障で他の種族とは関わらないけど、異常なほどの女神様信者だ。たぶん、魔族の国ではどの魔王よりも強いと思う。大魔王になる気はないみたいだけど。
「まぁっ、小さな剣士さんかしら? なんて可愛いの〜」
クラリスさんは、初めて見る小さな種族に、目を輝かせている。魔王ノムさんは、地上には滅多に来ないもんね。
「可愛い、のか? ワシがか?」
「きゃ〜、つぶらなおめめ〜」
彼女が嬉しそうな顔をしているということは、魔王ノムさんも、アプルゴルド星では受け入れられそうだな。
「ライトさん、ノームの魔王が一緒の方が、心強いだよ」
ベアトスさんは、魔王ノムさんとよく一緒に採掘してるんだっけ。確かにノームは土の妖精だから、鉱物にも詳しいよね。
「そうですね。じゃあ……」
僕は、ぐるりと見回した。
(うん? あれ?)
一瞬、猫耳の少女の背後に、白い何かが見えた気がした。気のせいだろうか。女神様は、一歩も引かない雰囲気の頑固な顔をしている。
「ティアちゃんは諦めないだよ。ライトさん、魔王ノムさんが入ってくれたら、バランスも良いだよ」
「そうですね。じゃあ、行きましょうか」
(急がないとな)
星の門が壊されるなんて、尋常じゃない。こんな場所で、ごちゃごちゃ言っている暇はない。
僕達の足元に、ワープワームのクッションが現れた。みんな次々とクッションに乗っている。置いていかれまいとする必死さが伝わってきた。
(ふふっ、ちゃんと確認してから出発するのにな)
ふと、不安そうな表情のシャインと、目が合った。転移事故で、妹のルシアと離れ離れになったことを思い出したのかな。
「シャイン、手を繋ごうか。いつもよりワープに時間がかかると思うから、ちょっと不安なんだよね」
僕は、あえて、こんな言い方をしてみた。すると、やはりシャインは、キリッと表情を引き締めた。
「はい! 父さん、大丈夫です」
スッと出してくれた小さな手を握り、僕は足元のクッションに乗った。
◇◆◇◆◇
『ライトさま、ゲートからすこし、はなれたばしょにします』
(門付近は戦闘中なんだね。わかった)
いつもより長いワープ時間の途中で、族長さんからそんな念話が届いた。僕の腰にくっついていると、ワープ中にも話せるんだな。
『まもなく、とうちゃくします。もりのなかです』
◇◆◇◆◇
目に映る景色は、僕の知る森のイメージとは全く別のものだった。昼間なのに薄暗く、見渡す限り緑はない。
「えっ? な、何? もう着いて、る?」
「はい、門の付近には近寄れないので、少し離れた森の中だそうです。クラちゃん、場所はわかりますか?」
目をパチクリさせている彼女。アプルゴルド星までなら、直通で5分くらいなんだな。これなら、危険だとわかれば、女神様をすぐに強制送還できるね。
「マスター、これが天使ちゃん達の能力なのね。ワーム神と呼ばれる理由がわかったよ。びっくりしたぁ」
「こんなに長いワープは、初めてじゃ。なかなか着かないから、迷子になってるのかと心配したのじゃ」
(迷子って……)
女神様は、ワープワームへの負担を気遣っているのだと思う。素直じゃないんだよな。
「猫ちゃんじゃないんだから、迷子にならないわよっ! みんないる? はぐれてない?」
魔王サラドラさんも、少し心配していたみたいだ。ベアトスさんと魔王ノムさんは、平気な顔をしている。コイツらのワープを信頼してくれているんだな。
シャインは、まだ、ぎゅっと手を握ったままだ。落ち着くまで、このままの方がいいかな。
僕は『眼』の力を使って、ぐるりと見回してみた。ここは、まだ、自然が残っている場所のようだ。この場所に繋がる道が無いためだろうか。
「マスター、私達、迷子になっちゃったかも。水の匂いがしないわ」
この星、アプルゴルド星の水の魔帝クラリス・ロールさんは、少し焦った表情を浮かべていた。この星では、居場所を、サーチではなく匂いで察知するのかな。




