第八話 生きているということは、死んでないということだ(極点・三)
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アスモデウスとレライエの戦闘。
剣を扱うレライエの攻めは正しく連撃であり、アスモデウスもそれに合わせた戦い方へと移行していく。
「俺の魔霊食らってみせろよ!」
レライエの挑発に――
「ああ、良い提案だな!」
――と、気迫の籠った表情で返して、奴の連撃の呼吸が途切れた瞬間に攻勢へと転じたのである。
騎槍の連続突きをレライエに見舞う。
「ちっ――!」
今度は奴が守勢に回った。騎槍に対しリーチでは劣る剣はここでは防御に向かない……そう理解したレライエは、剣は使わず体捌きに依る回避に専念する。
それも常に、最小距離の回避を行う。
……クロケルは最初の位置から動かないまま、その優れた視覚に依ってレライエの動作を見ていた。
「やっぱりあいつは目が良いな。大弓を扱わせてもきっと使い熟せる筈だよ」
そう呟く先で、奴はアスモデウスの突きを次々と見切っていたのだ。彼の連撃が途切れる一瞬の隙を待ち、再度己が攻勢に回る――という狙いで。
その為に、時折大事には至らない程度の傷を受ける事は想定内としていた。
――傍目には、或いは節穴ならば、レライエが一方的に圧されているように見えるだろう。
しかし……。
「クロケルは本当にレライエの事は褒めるっすよね。一派の皆は割とあいつ苦手なのにさー」
サブノックも、悪態を吐きこそはしたが、奴の動きに力量の不足を感じてはいなかったのである。
彼の言葉に、クロケルはふと笑う。
「俺は別に誰の事も、好きでも嫌いでも無いよ。――ああも近接状態が続いては援護射撃が撃てない。だから俺も行く」
そう言って、奴もまた影のオーラを纏って移動した。
……その際に、人間の女とすれ違う。
「ひぇあっ!?」
その人間の女――玲子がおかしなテンションで悲鳴を上げた。
「おい」
玲子は連続して悪魔と接点を持つ。悪魔フォルネウスが、胸部の上側から血を滲ませた状態で、彼女に話し掛けてきたのだ。
「ぱっ!?」
――こ、こいつさっき空から降って来た悪魔だっ!!
危険に慄くが為に表に出すリアクションは阿呆そのものだが、しかし思考の方はまだ筋道を立てることが出来ている。
だから玲子は、そっと目線を直ぐ側に有る長斧へと向けた。
「触るなよ。もしお前が触ってたら問答無用で私はお前を殺していたんだからな」
フォルネウスが釘を刺すようにそう告げてくる。
脅している、という風では無い。しかしその飾らない言い方が、玲子には逆に――凄まじく怖いお姉さんだ!――と思う切っ掛けになるのだった。
「さ、触りませんーっ! こんなカッコいい斧に、わ、私なんかが触る訳無いじゃないですかぁー!」
玲子は殺されたくない一心でオーバー気味な答え方をしたが、しかし彼女の長斧に対しては、割と本気で格好良いという風に思ってはいた。
――人間が、自分のバイクとか車に勝手に触られたくないみたいな、そ、そーゆー感じのことよねっ!? 私、他人のバイクとか車にも触んないもんっ! か、カッコいいよねー、カッコいいともー!
……これは瞬発力の領分である。例えそれが先程人間を何人も吹っ飛ばしたものであっても、『触って欲しくない』と言われた物には、『触るのは悪い』と瞬時に意識を切り替えてみせたのだ。
「――よし。帰れ」
フォルネウスは玲子のその瞬発力に理解を示し、長斧を拾い上げながら、彼女にこの区域からの脱出を促してやる。
「いや、それがですねー。私その、人を探しててー」
しかし玲子はフォルネウスに殺されずに済んだ、という安堵から――気が緩んでそんなことを漏らしてしまうのだった。
「人だと?……居てももう逃げてるだろう。周りの人間共は全て我先にと、この場から離れていってるんだからな」
「い、いや、それが……」
言い淀む玲子に――
「気になるな。早く言え、でないと殺す」
――と、フォルネウスは冷徹な感じの表情でそう急かした。
……フォルネウスの胸部の傷は、先程アスモデウスの反撃に依って付いたものだ。
深手だが、しかしその出血の程よりも、彼女の意識は平時のようにはっきりしている。
その謎に対し、玲子は特に意識はせぬまま……
――えー、話してこいつもあの御方のファンになったりしたら嫌なんだけどなー。
……と、全力で明後日の方に向いた心配をするのだった。
※
……阿頼耶はふと呟く。
「アガレス一派の奴等、随分と好き勝手な戦い方をしてるな? 補い合うっていうより、とにかく隙を見つけては自分の攻撃を差し込んでるって感じだ」
アスモデウスとレライエの戦いにクロケルが乱入して、既に数分。
最初。騎槍の連撃に押される一方だったレライエを、しかしクロケルは特に助けるでも無く――
――アスモデウスとレライエ両方の足が止まったその一瞬を狙って……両者諸共撃ち抜くかのような軌道で、大弓の矢を射ったのだった。
そこから流れが変わった。矢に気付いた二人が同時に距離を取り、その後は両者が打っては離れるを行う形となったのである。
そしてそこに――。
「個の悪魔は我の強い者が多いから、意識して連携を取る事は寧ろ少ないのよ」
そのゴモリーの語りが出たのと時を同じくして、映像盤に映るクロケルが、もう何度目かになる乱入の矢を射った。
――そうだ。奴はアスモデウスとレライエの双方に対し、時に打ち合った直後のタイミングで、時に離れたタイミングで、自らも移動しつつその矢を撃ち込み出したのだった。
「……でもあれ、仲間割れとは違うよな? 奴はレライエも狙ってるが、撃ってる矢全部、ギリギリ避けられる角度を狙って撃ってやがる」
阿頼耶がそう感じた通り、クロケルの矢は、強いて言えば殺意が薄かった。
アスモデウスとレライエの殺意が膨大過ぎる為に、映像盤越しでもその差が明らかに分かったのである。
「恐らく――クロケルは自身が乱入して二人に正常な間合いを取らせない事で、騎槍と剣のリーチの差を打ち消しているんだわ。レライエの援護をするのでは無く、自身がアスモデウスの力を削ぐ為に取れる手を、遠慮などせずに打っている」
ゴモリーの言葉に、阿頼耶は腑に落ちた。
「確かに、クロケルが間に入った事で二人の戦いは、条件的にはほぼ互角になった。だが同時に、互いがダメージを受ける速度も急激に上がった」
間合いを意識して牽制し合う必要が無くなった分――両者がより強烈な一撃を繰り出すようになったのだ。
打ち合う度に、両者の肉体が裂け血が飛び散っている。どちらも、自らの身体が傷付く事そのものには遠慮が無いかのようであった。
……阿頼耶は、二人の戦いがこんな凄絶なものに成り行く理由を知っている。
「死力絶招――その力を持つ者の戦いは、何よりも手前の意地を通し切れるかどうかが要になる、か」
それは正しく死力を尽くした戦い方だ。命の力を極限まで振り絞る戦い方とも言える。
――(四)へつづく――




