幕間 自覚が無くとも青春(二)
「……ちっ。無理かな」
阿頼耶は彼らの気持ちが動かないことを察した。察して、露骨につまらなそうに視線を他所へと逃す。
「――でさー、その時私は敢えて、全力疾走で悪魔の群れを駆け抜けて家に帰ったのよー。でもそのお陰で無事晩ご飯に間に合ったんだー」
少し離れた席で、前髪ぱっつんな黒髪女子高生が、同級生らしき子とやや大きめな声で話していた。
「いや、そんな元気良く言われてもね。私だったらなるべく悪魔を避けて、時間が掛かってもより安全に帰ろうとするけど」
「私だって普通ならそうだよっ。でもしょうがないでしょ、その日はママ秘伝ハンバーグの日だったんだからっ!」
「危険を冒して悪魔が暴れてる中を突っ切った理由がママ秘伝ハンバーグかよっ! 逆にそれでこそ玲子だねっ、あくまで逆にねっ!」
「いやーそれ程でもー」
「褒めてないっての!」
そんな意味不明な会話が繰り広げられていて、阿頼耶は思わず阿呆を見る目で、その前髪ぱっつんな女子高生を見てしまっていた。
――あれは悪魔相手によくやったと思って良いのか? でも要は逃げただけだが。いや、しかし……。
元々の友達らとの話へと中々戻れずにいる阿頼耶。そんな彼の様子を、織絵が察した。
「……まあ悪魔相手に何かの行動を起こせるのは、相当の馬鹿じゃなきゃ無理ってことで、ここは一つ結論としましょ。あ、言っとくけどここでの『馬鹿』は褒め言葉なんだからね、阿頼耶君」
「……なんでそれを俺に念押しするんだよ」
「なんとなく、キミはあの女の子が嫌いじゃあ無さそうだなーって思って」
ともあれ、無事に四人の会話は再開された。
突然の阿呆女子高生に、男友達二人は更に戸惑っていたのだが……。最終的には「まあ見た目可愛いし、いっか」という、負けず劣らず阿呆な結論で彼女の存在を受け入れていた。
阿頼耶は、それ以後の会話では悪魔への反抗心を、少なくとも口には出さなかった。
この気の良い友達との会話を無理から壊そうとするのは、単にダサいことだと、そう思ったのだ。
しかし同時に、自分にはこの小世界が窮屈だということも、自覚していた。
※
「楽しかったねー、阿頼耶君」
ファルラペを出た時に解散となり、阿頼耶と織絵は途中までの帰り道を二人で歩いていた。
「ああ」
何処か素っ気無い彼に、織絵はつまらなそうな顔になる。
「……集まりが終わった途端に冷め過ぎでしょ、もう。あのね、『藤宮が居るからファルラペに行けるな』って皆を扇動したのはキミなんだからね」
その言葉は怒っている風でもあったが、織絵の表情は彼を心配する気持ちも表していた。
「このところずっとそうだったけど、最近特に酷いよ?」
「そうかな」
「中学から別の高校に行っちゃった子達が、今の冷めてる阿頼耶君を見たらどう思うだろうね」
「さあな。ってか、会わなくなったヤツらはもう俺の事なんて憶えてないだろ」
「それは絶対に無いって。あんな面白い位熱くて友達思いなクラスメイト、人生で二人とは出逢えないもん」
「……」
彼らにとってこの話は、あくまで日常会話の範疇のようであり、しかしやはり特別な意味を持つ話だった。
――(三)へつづく――




