第七話 祝福と呪縛は似ている(終局・四)
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阿頼耶は自分の部屋で、帰って来た母・愛美と向かい合っていた。
彼女は普段勤めている職場以外にも、友人が経営するバーで週二回働くようになっていた。今日はその二回の内の一つだったらしい。
阿頼耶は大体の事は彼女が帰るまでに調べていたので、話の方は、割と流れるように進んでいった。
「前の家にはもう住めないの。あの一帯は今も異様な空気に包まれているから」
「長く居ると異常な行動を取り出す奴が現れるんだよな、ネットで見たよ。――その、あの時母さんは?」
「よくは憶えてないわ。頭がぼうっとした状態で……それでもお前を探し続けてたのよ」
「うん……」
「見付けた時、お前は立ったまま意識を失っていて、どうにかなってしまったんだってそう、思ったわ。――実際、今日までずっとお前は眠っていた、から」
「うん……」
「……あの時何が」
「父さんは、その、死んじゃったん、だな」
「……ええ、そう、よ」
聞きたいことがぶつかり合ってしまったが、愛美の方が引いてやった。
「……なんで?」
「あ、悪魔に、殺されたのよ……」
「……」
阿頼耶が少し黙ったのは、愛美の言葉の歯切れが悪いことに訝しんだからだ。
「なんで、もっと、怒りながら言わないの?」
「怒りながらって……」
この時点で、もう愛美は阿頼耶の心の向きが理解出来ていなかった。
「悪魔に殺されたんだろ? きっと、理不尽に。怒って当然じゃないか」
「そ、そうだけ、ど……」
「何処で殺されたの?」
「街で、よ。ただ、ま、巻き込まれたというのとは、違うと思う……」
「どういうこと?」
「……」
口を噤んで息を飲む愛美に、阿頼耶は――
「知ってること、ちゃんと教えてよ、母さん」
――出来る限り抑えた声色で、そう問い質した。
……怒りを堪えていたからである。愛美に対してだけではない、多くのことへの怒りを。
彼女一人にそれをぶつけてしまうのは、良くないことだと理解出来たから。
「晴人は、あの冷たいように見えていたあの人は、お前がずっと眠り続けている内に、この四ヶ月様々な異常を引き起こした悪魔達に、怒るようになっていった、の」
「……!」
「勿論、一番はお前が眠るようになってしまったことへの怒りよ」
……阿頼耶は、その言葉を聞いた時には、――自分が取り返しの付かないことをしたかもしれない――という思いになった。
「晴人の仕事が終わって、この家に帰って来る途中だっただろうという時に、多分あの人は、悪魔達が街を襲っている所に遭遇した」
「……立ち向かったっていうこと?」
――あの、他人を顧みるなと俺に教えていた父さんが……。
「そう、らしいのよ……! 後から私の携帯端末に連絡を入れてくれた人や、その場に居合わせていた人がそう教えてくれたの! 人間にそっくりな、老人のような悪魔に挑み掛かって、それで殺されたんだって!」
「――ッ!」
阿頼耶はすぐさま、パソコンを開く。
「何をするの!?」
「決まってるだろ、父さんを殺した悪魔を調べるんだ。名前は多分アガレス。上手くいけばその時の動画も出て来るかもしれない」
晴人本人の言葉では何一つ聞いていない。晴人本人の表情は何一つ見ていない。なのに、彼の思いを察することなんて出来はしない。
「やめてよ、そんなこと!!」
愛美が阿頼耶をパソコンから引き剥がそうとしてくる。――そうされる訳が、阿頼耶には本当に分からなかった。
「――んでだよっ!」
「常識的に考えてそうでしょ! 大事な家族の死を、何処の誰かも知れない他人に広められているかもしれないなんて、そんなこと頭によぎるのさえ嫌よっ!!」
とことん、意味が分からなかった。
「俺が見たいと思ってるから良いんだ!!」
――自分の大事な父親が、どんな思いで死んでいったか……それは絶対に知るべきことだ! そうじゃなきゃ、俺は、どういう怒り方をするのが正しいのか分からなくなってしまう!
正しい道というものが在る筈なんだ、自分が抱く思いを先へと進めていく、その為の正しい道が。
自分の思いで走ったが為に、阿頼耶は眠ることになったのだ。それをしかと自覚しているから、尚更それに連なってしまった父の死を自分は受け止めなければいけないとそう思った。
のに――。
「――くっ!?」
愛美の手は、阿頼耶の頬を打ったのだ。
「どうして分からないのよ、こんなことが! 相手を思いやれる人ならしないようなことを、お前はやろうとしているのよ!」
……阿頼耶は、泣きながらそう叫ぶ愛美が本気で怒っているのだと、そう思った。
……そして、自分の全てを愛美に否定されようとしていることを、直感的に悟ったのである。
――(五)へつづく――




