第七話 祝福と呪縛は似ている(後半・一)
今、アスモデウスとベリアルは殆ど捨て身の姿勢で戦っている。
それは彼等が地上にやってくるよりも前から、既に苛烈な戦いを繰り広げていた故の流れであった。
小手先の戦術などはお互い既に知り終えている。今更そんなものを出したとて見切られるだけなのだ。
互いの全身から渦巻く魔力が放出されて、ぶつかりながらも相手のそれを侵食しようと絡み合う。
阿頼耶は、彼等の動きを断片的にしか見る事が出来ない。
空と地――戦闘領域を大きく取って縦横無尽な軌道を描く、人間の常識を超越した悪魔の戦い。
展開の予測がまるで付かない、それも阿頼耶がすぐに二人を見失う要因となっていた。
激突音と舞い散る血だけを頼りにして、捉えたと思った次の瞬間にはまた消える悪魔達の姿を、必死で追う。
……ベリアルもアスモデウスも、戦いの中でその阿頼耶の念を感じ取っている。
――私達の戦意に、違和感無く手前の意思を絡めて来よるとはな。
――怒りの念か。しかしこれは、俺達にというよりあいつ自身への怒りに感じる。
アスモデウスは騎槍のリーチを活かした速き突きで、ベリアルの身体を幾度も穿っている。
ベリアルは速さでは騎槍に劣る大剣という得物で、しかし一閃の威力の高さに依って例え刃そのものが当たらずとも、そこに生じる衝撃波でアスモデウスの身体を抉っていた。
――ッ!
アスモデウスは右肩に大きく抉らせながら、それでもベリアルに肉迫する。
騎槍の間合いの、最良とされる距離にまで。
「ハッ!」
そして騎槍に強く念を籠めて、強力な連続突きを放っていく。
「レ・ユイット・クー・デ・ロルロージュ――!」
八点鐘――その名を冠する彼の魔技は、騎槍に纏わせたオーラの揺らぎに依って、直線状の突きの攻撃でありながら同時に相手の視覚を惑わせる力をも起こす。
王の風格を持つベリアルであっても、この魔技に相対してはその精神に軋む圧力が走る!
「――ッ!」
――だが、惑いのままに大きく動くは逆に下策!
ベリアルは深きに至る傷さえ負わなければ良いと判断し、その為に騎槍の揺らぎを見切る事に注力して、逆に回避の動きは最小限に留めた。
皮と肉が騎槍に依って裂ける。……違う、敢えて裂かせたのだ。
そして八撃目の突きの後に出来た一瞬の隙を狙って、奴は、大剣の剛のオーラ纏う一薙ぎをアスモデウスの胴に打ち込んだのである!
ドミネート・アクシス――覇道の基軸の意を持つこの魔技は、例え屈強なアスモデウスの肉体であろうと真っ二つに斬り裂く威力を有している。
胴に刃が食い込む。次の一瞬には紙切れのように断ち切られる――。
アスモデウスの脳裏に死の可能性がチラつくが、しかし、それでも決してそうはならない。
アスモデウスの魔技は、まだ終わっていないからだ。
「カルム――!!」
静穏……八つの鐘が鳴り終わった後のそれに擬えた九撃目の突きは、纏った揺らぎのオーラを霧散させる程の、音さえ置き去りにする速さの直撃だった。
大剣の刃が止まった。ベリアルの胸の下を騎槍が貫いたからだ。
そして彼の騎槍のより強い殺意を籠めた一撃は、傷を与えた箇所を破裂させる魔力を発現させる。
――――――ッ!!!!!!!!
その一瞬に衝撃の全てを集約させた爆発音が鳴り響いて、ベリアルの背から、多量の血が噴出した。
左肺の三分の一が爆散している。
……阿頼耶の顔が、奴の血で塗れた。
――(二)へつづく――




