第六話 悪魔の命から目を逸らさない(前半・二)
アラヤの目の前の空間が歪み、その次元の狭間からバティンとアルファスが姿を現す。
「久しいですねセナ・アラヤ!」
「お前と再び見える時をどれ程待ちわびたか!」
奴等はその身に戦意を迸らせながら、アラヤを強く睨み付けてくる。
そして、彼の傍に立つサクスの事も。
「お前は、サクスですか……。まさかお前、アラヤの仲間になったのですか?」
バティンの言葉に、彼女は彼女の思い故に表情を険しくさせた。
「仲間という関係では無いわ。私はこの方に忠誠を誓い、お仕えすると決意したのよ!」
そう、サクスのアラヤへの思いはあくまで主従の念である。そこにこそ彼女の誇りが秘められているのだ。
「ははは! あの独りで居るしか無かったお前が、寄りにも依って人間に頭を垂れるようになったとは! やはり同じ悪魔を相手に友としての情を持とうとしてこなかった者は、やがては哀れな末路を辿るという事かな――なぁサクスよ!!」
「はっはっは! 私達が凌ぎを削るこの戦場という場所に於いては、お前などが居ても矮小であるに過ぎませんよっ!!」
アルファスとバティンが高笑いと共にサクスに見下す目線をぶつけてくる。
しかし、そんな言葉などにサクスの心は動じたりしない。
「ふん、どうとでも言えばいいわ。私にはお前達と語るような舌は無い、それに今は、私が喋った分だけアラヤがお前達に向ける言葉の邪魔になるだけよ!」
サクスはアルファスを真っ向から見返しながら、謙るのでは無く強い心で、主である彼の意思の後押しをしてみせた。
……アラヤは、素の表情をしていた。
しかし彼の周囲の空気は今、異様な程に張り詰めていくのである。
そう、この素の表情から放たれる圧力は、アラヤが本気で戦意を燃え上がらせる時の前奏曲に他ならない。
「俺も、お前等とは逢いたいと思っていたぜ。今回こそお前等の内どちらか一人、確実に始末してやる」
これから先も幾多の悪魔と戦い続けていくのだ。それは間違い無く途方も無い、深き暗黒を往く道のりとなる。
だが、その戦いの中で一人ずつでも悪魔の数を減らしていけば、いつかは必ず光明が見えるのだ。
慌てる事は無い、一つずつで良い――アラヤは心の芯でそう思う。
「俺達の内どちらか一人、だと……?」
戦いとは、己と敵方との意思のぶつけ合いだ。
当然、アラヤのその意思は奴等にとっては受け入れ難く、打ち砕くべきものとなる。
「私とアルファスの絆をそんな簡単に断ち切れると思うのですか? 愚か者め!」
バティンが憤慨し、アルファスが鋭い目つきでこう言い放つ。
「俺とバティン、死すべき時が来るとすればそれは二人同時だ。それまでは例え何があっても、互いが互いを死なせるものかっ!」
アラヤの言葉は、二人の戦意をより高める結果を呼んでしまった。
……だが、これら全てが前奏曲の内の事である。
「……成程。俺の考えはまだ甘かったと、戦い始める前に知れて良かったぜ」
アラヤが静かにそう言ったのと、騎槍を握る左手に、足腰に、力を入れたのは同時だった。
それを――
「そいつとまともな会話が出来ると思うな! さっさと構えてろ!」
――再度出現した次元の歪みから発せられた言葉の主だけが、明確に理解していたのだった。
誰よりも早く――
「レライエだとっ!?」
――突撃する寸前だったアラヤが、その名を発した。
歪みから現れたレライエは、一緒に現れた緑の髪をした誰かを突き飛ばして、瞬時に大弓をアラヤに向けて構えてみせる。
アラヤは注視すべきレライエが居た為に、あくまでほんの一瞬しかその誰かに目線を向けられなかった。
――なんだ、あいつは?
乱れた緑髪が顔を隠してしまっている為に、口元しか見えない。
「ビフロ――!?」
サクスがその緑の髪の、女であるらしい誰かの名を叫び終わるよりも速く、レライエが怒号を上げてゆく!
「戦闘開始、俺が許すぜアラヤァ!!」
同時に、既に一射アラヤに撃っている。
「――ハッ!」
アラヤはこの時にはもう奴に対し――話が早いな――と、そう思いながら矢の軌道を見据えていた。
冷静に矢を躱す。
今の射撃はあくまで牽制の為のものであり、アラヤの身体の何処かに当たれば良いといった程度だった――だから回避も難しくは無いのだ。
ただ、回避した結果アラヤはバティン達への攻撃を止めてしまった……それは複数の敵を相手にする状況に於いては軽く見れない事だ。
「レライエ、戦いは私達に任せて貰いたい!」
バティンがその手に己の騎槍を出現させ、構えを取った。
「いきますよアルファス!」
「ああ、セナ・アラヤは俺達で倒す!」
バティンが一気果敢にアラヤへと攻め込みだし、アルファスは奴の援護をする為に魔力を高めていく。
「ふん、来いバティン」
アラヤは冷静に、相手を迎え撃つ体勢へと移行した。
その一瞬、再びあの緑の髪の女の方へと視線を遣る。
女の姿が消えていた事に、アラヤは……心がざわつくのを感じた。
バティンの突きを防ぎ騎槍同士の金属音が響いた時には、そのざわつきも消えたが。
バティンとアラヤの騎槍が打ち合う――アラヤは防御に重きを置く戦いをしているが、大きく動く事は無くその場に留まりながら、バティンの攻撃を捌いていった。
「おのれっ!」
バティンはアラヤの防御の力が以前よりも増していると感じ取っていた。
――(三)へつづく――




