第六話 悪魔の命から目を逸らさない(前半・一)
「ヒィギャアアアッ!!」
先んじて受けた魔力に依って視覚を奪われたケイジー属達は、騎槍の衝撃に露骨にえげつない悲鳴を上げて墜落していった。
アラヤの騎槍は軌道をジグザグに変更しながら、連続して更に数体のケイジー属を墜としてゆく。
「――ッ! 来たぞ、赤爪の反逆王子だぁっ!!」
民衆が一斉に歓喜の声を上げる。感情の高揚と共に、掬火は更に輝きの純度を増した。
……人間も、悪魔も、皆等しくその視線を一点へと集中させる。
其処にアラヤと、そして彼の後ろに控えるゴモリーとサクスの姿が在った。
「……へえ」
アラヤは右手の人差し指を倒れ伏すケイジー属達へと向けながらも、その赤い爪に集中させたブラッド・バースト発動の為の魔力の光を、そっと消した。
「おいお前達。残っている悪魔達との戦い、続けてみる気が有るか?」
アラヤは民衆が恐怖と戦いながら、それでも己の意思で戦いを起こしてみせた事を理解していた。
だから素っ気の無いような顔でありつつも、彼ならではな思考で、皆の意気を汲もうとしたのである。
「お、おうっ。まだいけるぜ!」
「私だって、やってやるわよっ!」
民衆は下がり掛けた戦意を再び燃え上がらせて、力強くそう答えた。
ゴモリーとサクスは、民衆の気概と、そしてそれを呼び起こしたアラヤの事をしかと見届けていた。
「――ふふっ、だから言ったのよ。『これからは貴方のファンも増えていく』って」
「悪魔の私でさえこの心を動かされたのだから、そりゃあアラヤと同じ人間が彼の影響を受ける事だって有り得るわよ」
貞淑さと、皮肉っぽさと……しかしどちらも人の心の動かし方というものについて、深く理解をしているが故の言葉であった。
民衆と属体悪魔達の戦いが繰り広げられる。
その只中をアラヤは歩きながら、その左手に魔力を込めて騎槍を空から戻した。
彼の後をサクスが追っていく。
「ゴモリー、この悪魔達はバティンとアルファスの軍団よ。だから、今回は私がお前の前を行かせて貰うわ」
サクスは歩きざまゴモリーにそう告げた。
そんな風に断りを入れるのは、彼女なりにゴモリーへの配慮をしてみせた、という事なのである。
先程アラヤの騎槍が一体目のケイジー属を撃つ前に、既にその魔技で奴の視力を奪っていたサクス。
アラヤとの自然な連携も可能となった彼女のその気持ちに、ゴモリーは苦笑した。
「まったく。どうして皆私を特別扱いみたいにしてくれるのかしらね?」
同じ個としての悪魔なのに――そんな風に彼女は思う。
新しく買った服は前の物と似た黒生地だが、袖無しなのが特徴だ。
微かに開放的な雰囲気も併せ持ったが、それでも彼女が纏う貞淑さはそのままであり――その貞淑さで以て、戦いの場に在っては事の流れを見極める。
「……来るわね。レライエが居るだけじゃない、これは、ビフロンスか」
その力を感じた時、ゴモリーの眼の光が、微かに鋭さを増していた。
――(二)へつづく――




