第六話 悪魔の命から目を逸らさない(序幕・一)
異空間に存在する宮殿の中で、その主である悪魔アガレスが魔力の映像盤を眺めていた。
そこに映し出されていたのは、人間達の街で悪魔の軍団と戦うセナ・アラヤの姿――。
「ふむぅ」
奴はアラヤの戦い方に、とある疑念を抱く。
――随分と調子の良い動きじゃのう。まるで己を取り巻く状況の全てが見えておるような……。
実際アラヤは多くの属体悪魔に囲まれる中、それぞれの攻撃に対し、常に余裕ある行動を取り続けていた。
――あの童は相手を力で捻じ伏せる戦闘型であった筈。何かの知見を得たとしても、体に染み着いた戦い方は容易には変わらんじゃろうに。
アガレスは冷静に慎重に、アラヤの周辺の映像も探っていく。
そして多くの民衆の中に紛れる悪魔サクスの姿を見つけた時に、奴は――笑った。
※
玉座に座るアガレスの前に、レライエとバティン……そしてアルファスが立ち並ぶ。
「アルファスよ。セナ・アラヤ――あの童から受けた傷も、遂に癒えたようじゃのう」
アガレスが深みのある声色でそう尋ねると、アルファスは眼を鋭くさせながらも、彼に対し会釈をしてみせた。
「ああ。……この前は不覚を取ったが、今度はバティンと共に必ず奴の息の根を止めてやるつもりだ」
口調はまだ平静さを感じ取れるものだが、奴の内では今、アラヤへの復讐心が渦巻いていたのである。
そんなアルファスに続くように、バティンも声高々に口上を述べる。
「アガレス、私もアルファスと同じ気持ちです! 私達は直ぐにでも出陣します、良いですね!」
一派の長を務めるアガレスに一応の確認は取るが、しかしその語気の強さから、最初から自分の意思を押し通すつもりでいる事が伝わってくる。
だが――。
「息巻くなよ」
レライエが冷静な様子で腰に手を当てながら、だが眼では睨み付けるようにして二人を諫めたのだ。
「レライエ、お前という奴はまたそうやって、私達の気持ちの団結を乱すような発言をする!」
バティンが憤慨しながら彼に抗議の言葉を吐く。
しかしレライエはバティンよりも、アルファスの方へとその視線を向けていた。
「心を燃やすのは良いけどよぉ、その真ん中に在るものが復讐の思いだっていうのなら……アルファス、それはお前自身さえやがて焼き尽くすかもしれないぜ?」
レライエの言葉は決して奴を侮るものでは無かったが、それ故に真に迫る強さが存在していた。
「……忠告は受け取ろう。闘争心を司るお前の戒めは、戦いに於いて軽んじるべきものでは無いと思っている」
アルファスはそう、レライエに一定の信頼を示す意の言葉を返す。
しかしその上で、こう語りもするのだった。
「しかし俺とて戦場での護り――堅牢たる戦士の心を識り司る者だ。故に、俺が仲間の絆を乱すような出過ぎた行動を取る事は無い。お前の心配は、あくまで杞憂だ」
アルファスの返答にレライエは……舌打ちをした。
「……そうかよ」
――確かに堅牢だな。こいつには俺の言葉は届かない……分かっていた事ではあるがな。
レライエは心でそう呟く。
しかし本来我が強い悪魔の心の性質を鑑みれば、そうした頑固なまでの意志の強さは、同士として心強くはあるとも思っていた。
……アガレスの心には、レライエともバティンやアルファスとも違う思惑があった。
「レライエの言葉――その中の『息巻くな』という部分には儂も賛同する」
その言葉に、やはりバティンが先に反応を見せる。
「なんですって!?」
口調こそ気品を漂わせているが、その心は血気盛んと言うに相応しいバティンは、そのまま食って掛かりそうな勢いだった。
「まあ待て。童の事だけでなく、儂らには儂等の目的が有る事も忘れるな」
アガレスの声色が深みを増す。
――(二)へつづく――




