幕間 自分らしさで、技と心を鍛える(二)
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その激突の後も暫し打ち合っていた二人だったが、やがてそれをハーゲンティが静止した。
「今日はそこまでだ。手を止めろ貴様達、家の方で手当をしてやる」
そう、彼は特訓後の傷の治療を請け負っていたのだ。
「俺はまだいけるぞ」
「私もだ。聊か制止が早くないか?」
気概十分といったアラヤとエリゴスがそう言うが、しかしハーゲンティは険しい顔で首を横に振るのである。
「馬鹿者共め、己の身体の頑強さを過信するな。エリゴス、貴様も今はあのリョーコに修行をつけるという責務を負っているのだろうが。それを完遂するまでは、その身に大事があってはならんのだぞ」
彼の言葉に、エリゴスはぐうの音も出ない――という表情になった。
「……わ、分かっているとも」
渋々了解した彼女に、ハーゲンティの横に居るサクスがニヤリとした。
「お前も色々大変なのね、ふふふ」
「うるさいぞサクス。この特訓だけでなく、今度私のランチにも付き合わせてやろうか?」
「なんでそういう話になるのよ! どさくさに紛れて私をお前の日常に巻き込まないで」
「ふむ。お前が絡んできたから、絡み返したというだけなのだがな」
「お前の絡み方随分と突飛ね!?」
何故かおかしな感じのするやり取りになっているサクスとエリゴスを余所に、アラヤは着ていたカッターシャツを脱ぎながら、ハーゲンティの元へと向かっていた。
「治療道具は持って来てはいるんだろ? なら家でと言わずここでやってくれよ」
そんな風な事を言い放つ。
またその最中アラヤは、肌に付いていた打撲の赤みを見て――これは確かに後で痛みの尾を引くやつだ――とも思っていたのである。
「貴様はまた、そんながさつな事をしおってからに」
怒るハーゲンティに構わず、アラヤは彼の前にどかっと座り込んだ。
「今後はさ、家に帰るまで待てないような、そんな事態が起こる可能性だって有り得るだろ? これはその時の為の予行練習ってやつさ」
アラヤのそんな軽口のような話し方に、なんとエリゴスまでもが乗っかっていく。
「確かにな。よし、それならアラヤの次は私もお願いしようか」
「エリゴス、貴様がそんな冗談を言うな。……まったく、止むを得んな」
ハーゲンティは不機嫌そうな顔をしつつも、慣れた手捌きでアラヤの怪我をしている箇所に軟膏を塗っていく。
「なあハーゲンティ、お前の軟膏の治癒効果は元から信頼してるけど、それだけじゃなかったな。お前のその怪我の具合の見極めがあったからこそ、俺はあの半年間の修行を無事終えられたんだ」
アラヤがふとそう呟き、その事に、ハーゲンティは驚いた。
「どうした? いきなり随分と殊勝な事を言うじゃないか」
「……まあ、俺だってたまにはな」
アラヤは物憂げな表情で答えた。実際はその心の中で、仲間を頼りにしているという態度の表し方がまるで上手くない自分に対し、少しばかり呆れていたのである。
戦いの中に在っては、当然深手のリスクを完全に避けるなど出来ないという事も忘れはしないが……。
だからこそ、次にその時を迎えるまでに、ハーゲンティに感謝を伝えたい気持ちになったのだ。
「ふっ、そうか」
ハーゲンティはさっきの怒りは忘れて、そして軽く微笑みながら短く言葉を返した。
「――ゴモリーは今頃どうしているのだろうな?」
「さあな。流石にもう服は買い終わって、何処かで夜景でも見てるんじゃないか?」
ハーゲンティが唐突に聞いてきた質問に、アラヤはそんな大したことでもない――といった感じで答えた。
今日ゴモリーは昼過ぎから、自分の新しい服やその他ビューティー雑貨などのショッピングに出掛けていたのだ。『今日だけはもし何処かで悪魔が暴れたとしても、お前は何も気にせず自分の時間を楽しめ』と、アラヤから彼女にそう伝えていたのである。
「ふむ。あいつにだけは、もっと沢山の感謝をしてやっておけよ」
「口を動かすよりも手を動かせ」
ハーゲンティから自分の心を見透かしたような進言をされて、アラヤは一瞬で仏頂面になって言い返す。
「おうさ」
彼はアラヤのそんな反応をも予測していたような感じで、またも短くそう応えて、後は軟膏が長持ちするよう綿を当てテープ留めしてやるのであった。
そんな朴念仁な感じのする態度は、彼の優しさを裏返したものなのである。
――(三)へつづく――




