幕間 自分らしさで、技と心を鍛える(一)
この数日間、アラヤは人に害を為す悪魔と戦いながら、その合間を縫ってエリゴスを相手に特訓を行っていた。
その日の夜もアラヤの家から近い場所で、二人は騎槍を打ち合わせる。
そしてその場には特訓を見守る、ハーゲンティとサクスの姿も在った。
穂先には特殊な保護布が巻かれている為に、攻撃がヒットしても相手の体を切り裂いたり貫いたりする事は無かったが……。
「――ちぃっ!」
「――くっ!」
彼らの強い力で騎槍が振るわれれば、流石に打撲は必至である。それを覚悟した上での特訓なのであった。
アラヤの額から一筋の汗が滴り、エリゴスのボブディ・ヘアが華麗に乱れる。二人共がニヤリと笑みを漏らしていた。
「ふっ。貴公、今日はまだ息切れしないのだな」
「まあ、お前の攻撃もだいぶ見切れてきたからな」
実戦さながらに、アラヤとエリゴスの騎槍が幾度も交わる。アラヤは己のその言葉通り、エリゴスの槍捌きに目が慣れてきていたのだ。
そうなれば後は落ち着いて、彼女の攻撃を一つ一つ見て対処をし、隙を見付けてこちらからも攻撃をすれば良い。
ただこれには、相手の動きを見切る事への集中以外に、もう一つ大事な事がある。
「はは、あの攻めたがりだった貴公が、腹に力を蓄えるという事を覚えたようだな」
エリゴスの言葉通り、アラヤは戦いながら常に一定の力を温存し、相手の動きの中に隙が生じるまで待ってみせる――という戦術を取っていた。
前までの彼はとにかく自分から攻めて、強引に相手の隙を作ろうとばかりしていた。
それは彼の戦いの気質故であったのだが、しかしそれだけでは正直な所、自身の消耗も激しかった。
強敵を相手にその裏を突こうとする為には、チャンスの時が訪れるまで心逸らずに粘りを見せる――それが大事だとアラヤは思い至ったのである。
エリゴスは後方へと跳び退り、騎槍を突きの形に構えた。
「貴公は、やはり突進は使えんのだな?」
「ああ。どうにも俺は、このアスモデウスの騎槍とそこまで息を合わせられないみたいだ」
エリゴスの問いにアラヤはそう答えたが、それを残念な事とは微塵も思っていなかった。無い才能を嘆くより、有る才能こそを伸ばそうという意識であったからだ。
……悪魔が所有する騎槍を始めとする武具には、それ自体にも魔力の個性というものが在る。
そしてそれらは所有者の魔力の個性に調伏される事に依って、特殊な技術やより強力な魔技を発現させるに至るのである。
「ふむ……。相変わらず貴公とアスモデウスは、不思議な縁の結ばれ方をしているな。技術の突進が無理だというのに、それをすっ飛ばして魔技は使えるなどとは。しかもその魔技も奴のものでは無く全て貴公のオリジナルで、騎槍もそれを受け入れているというのだから恐れ入る」
エリゴスはそんな事を言いながら、自身の身に魔力の影を纏わせ始めていた。
アラヤもまた、彼女が繰り出そうとしている突進に備える。
「騎槍の魔力を俺が持て余してたのは間違い無いさ。だからこれまでの俺の騎槍の魔技は投擲系のものばかりだった。アスモデウスとの縁の事は、知らん」
アラヤのぶっきらぼうな感じの言い方に、エリゴスはふと微笑んだ。
「そうか、まあ貴公らの関係に私らが立ち入れるとは思っておらんよ。――さあ、行くぞ!」
エリゴスの影のオーラが彼女を濃く強く覆って、まるでその姿が影の内に溶けたような様相となる。
彼女として認識して見えるのは、顔と、そして騎槍を持つ右手へと至る、右腕、右肩、右上半身だけだ。
「オオオッ!!」
エリゴスの影に溶けている下半身が、まるで地獄の黒蛇が襲い来るかのように凄まじい速さで伸びる!
その黒蛇の頭部に相当する位置にあるエリゴスの顔から右上半身、右手に持つ騎槍の穂先が、アラヤの体を的確に捉えていた。
これが、突進だ。
「テラー・シェード」
アラヤは落ち着いた表情で、自身の荒ぶる影を身に纏った。
サクスがじっとその影を見ている。
アラヤは、エリゴスの突進に対し……
「――ッ!!」
………………。
――(二)へつづく――




