幕間 デモニクカジュアル・ガールズトーク(一)
アラヤの家から帰る途中、リョーコはエリゴス、そしてサクスと一緒だった。
この付近は人の気配がとても少ない、夜ともなればその無音のプレッシャーは相当のものだ。彼女を送る事は自然な事だろうと、女悪魔の二人共が思っていた。
「ねえ先生、少し気になる事が有るんですけど良いですか?」
リョーコの言葉に、エリゴスは眉根を寄せる。
「悪魔に関する事なら、まだ教えてはやれんぞ。それはお前が私達の仲間になった時、ゴモリーに言われている筈だ」
それは実際にあったやり取りだと、リョーコもそう憶えていた。
道中口数の少なかったサクスが、この時は口を挟む。
「……私もその場に居たから知っているわ。何せ私とその子は形は違えども、同じ日にアラヤとの契りを得たのだから」
そう、サクスがアラヤの軍団になったあの直後に、リョーコもまたアラヤの仲間になりたいと訴えたのだ。
そこで交わされた会話はリョーコを受け入れるかどうかの重要な交渉に他ならず、エリゴスとしてはそれを自分が破る訳にはいかないのである。
「私が真面目にアラヤ様の為に特訓をして成果を上げてみせたその時に、アラヤ様が街から離れていた半年間でどんな事をしていたかとか、先生やゴモリー達とアガレス一派が何を目的にしているかとかを話して貰える……。それは勿論分かってます」
リョーコは冷静にそう述べた。
アラヤに近付いていくには、彼だけでなく彼が深く関わりを持つ悪魔達の事も、しっかりと知っていかなければならないのだ。
そしてその為には、自分から進んでアラヤやゴモリー達に対し信頼を勝ち得ていこうとするのは当然の事だ、とも理解していた。
その他大勢と面色合わせているだけで『よしよし可愛いな』とあやして貰えるなどと、そんな夢想を彼女は抱きはしない。
「そのですね、私が今思ってるのは悪魔の事っていうより、どっちかというと民衆の事なんです。最近はアラヤ様の戦いが皆に好意的に見られてもいますけど、それが今後も続いていくかどうかちょっと不安なんです」
リョーコとしては、アラヤが民衆からヒーローのように見ているというのは歓迎すべき事だと思っている。
しかし民衆は時に自分達が持ち上げたヒーローを、容易く炎上させる事があるとも知っている。
仮にそうなったとしてあのアラヤがそれに負けるとも思わないし、実際彼自身少しも今の状態に対し浮つきすらしていないのだから、リョーコの不安は杞憂に過ぎないのだ。
それでも、アラヤの事は自分なりに大事に考えたいという気持ちは抑えられなかった。
「先生は私も知らない間に、ネットでアラヤ様に赤爪の反逆王子なんて異名を付けて人気を上げてたんだから、それに関する話は聞いてくれても良いでしょう?」
リョーコのその言葉に、エリゴスが反応するより先にサクスが吹いた。
「ぶふぉっ! ちょ、ちょっとそれ、本当なの!?」
驚きながらもサクスはエリゴスを睨み付けていく。
「本当よサクス。先生から『アラヤにだけは言うな』と口止めされてたから、あの場では言わなかったけど」
「そ、そうなのね。エリゴス、お前よくも……!」
「う、うん? 確かに私の仕業である事は認めるが、何故お前が怒るのだ?」
エリゴスは目を丸くしてそう尋ねる。その表情は彼女にこの問題に関して、少しの悪意も無いからこそ出たものであった。
「最近ここら一帯に近付く人間の数が増えてたのよ。ええ、アラヤにその異名が付いてからね! その所為でそいつ達全員を跳ね除けるのに苦労していたのよ!」
サクスに怒りに満ちた声でそう言われ、エリゴスは少し慌て気味になる。
「そ、それはすまない。しかし誰にも完全に迷惑を掛けずに行動するというのは、ほぼほぼ不可能なものではないか……」
話が思わぬ揉め事へと発展してしまっている事に、リョーコもまた慌ててサクスをフォローする。
「落ち着いてサクス。ま、まあその分さっきアラヤ様に感謝されてたんだから良いじゃん! それにアラヤ様が人気な事自体は、配下である貴女にとっても良い事でしょう?」
そんな風に言われると、サクスも怒ってばかりもいられなくなる。
「そ、それは、そうだけれど……!」
口をへの字にして憤慨しながらも、サクスはやっと怒りを堪えてみせた。
――(二)へつづく――




