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第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(終局・三)

「サクス、お前の魔技で俺のアシストをして欲しいんだ。俺の狙いにそいつをより確実にハメる為に、お前の力が必要なんだ」


 彼女の魔技は相手の視覚、聴覚に影響を与えるもの――役割としては理解の出来るものだった。


「……ハメる、裏を突いて罠に嵌めるという事ですね。ふふふ、面白いですね、それ」


 サクスが、湿ったような表情で笑みを浮かべていた。


「やってくれるか。いや、やって貰わないといけないんだけどな」


 アラヤの言葉には有無を言わせぬ強さがあったが、それはサクスの内に生じた湿った情熱を、寧ろ加速させていく。


「悦んで、貴方の為に働かせて頂きます。ふふふ、だってそれは私の得意なやり方ですもの。――ええ、私のやり方で、奴らに目にものを見せてやりましょう」


 湿った情熱、というものは情熱の一つの形として確かに存在するのである。そこに言葉の矛盾などは微塵も無い。


 サクスの眼が鋭く光っている。アラヤにはその眼の光だけで、彼女のヤる気を見出せる。


「そう言ってくれて助かる」


 戦いというものは、一筋縄ではいかない、綺麗事だけでは出来ない……。参戦する以上、人にも悪魔にもどんな危機が訪れるか分からない。


 だがそれでも、やると決めたなら、ヤる。それぞれが持つ能力の個性を、敵も味方も多彩な形で連携させて。


「さて、そうと決まればこれから少し忙しい事になるぞ。エリゴス、お前にも手を貸して貰う」

「――ほほう、やっと私への要件も明らかになるのだな?」


 彼女はずっと会話の流れを見守っていたが、その名を呼ばれたと同時に不敵な表情へと変化する。


「ああ。といってもお前には実戦への参加じゃなく、俺の特訓に暫く付き合って欲しいんだ。あのバティンの突進チャージに対して立ち回る為のな。サクスにも戦闘での俺の動きを見知っておく為に、特訓には立ち会って貰う」


「特訓か、確かにその役目は騎槍を扱える私が適任だな。――構わないが、リョーコの霊馬騎乗の修行はどうする?」


 エリゴスがそう言ってリョーコを見遣ると、彼女は元気良く手を上げた。


「はいっ! それなら私はその間先生抜きで、霊馬と向き合おうと思いまーす。一度そういう時間が必要かなとも思ってましたから」


「霊馬と向き合う?」


「そうなんですアラヤ様。実は私用の霊馬がもう既に居るんですけど、まだその子と馴染めてなくて。だから仲を深める為に、一度私の力だけでチャレンジしてみたいんです」


「へえ、お前結構考えてるんだな」


 アラヤが褒める発言をすると、リョーコは瞬時に目を輝かせる。


「だって早くアラヤ様の力になりたいですもん!」


 屈託の無い表情でそう答える彼女に、アラヤは確かな精神の輝きを認めた。そしてそれは周囲の女悪魔達も同様だった。


 ゴモリーは特に、リョーコのその内面の資質というものに注視していた。


 ――エリゴスと仲が良かったり、サクスや私を自然と気遣ってくれたり……この子もいつか、アラヤと並んで悪魔にとって重要な存在になるかもしれないわね。


「……ゴモリー、あの時俺に『仲間を頼れ』と進言してくれて有り難う」


 不意にアラヤからそう声を掛けられて、彼女はちゃんと理解する事が出来なかった。


「えっ?」


 アラヤは目線をゴモリーに向けながら、優しげに微笑んでいた。

 彼女の心をすくう、慈しみの気持ちで。


「こいつ達と、そしてお前だったら、確かにもっと信頼出来るってそう思える」


 アラヤは自分の戦いへの意思に、皆がそれぞれの心と意思で応えてくれるのだという事を、今日改めて知ったのだ。


 それまではずっと、例え皆と接していても、戦いだけは別だとその繋がりを自分で分断していた。


 ゴモリーの進言の有り難さを、今ならしっかりと噛み締められた。その事を、こういう時こそ自分から伝えねばと、そう思ったのである。


「――っ! いいのよ、そんなの、少しも構わないわ……」


 ゴモリーは彼の言葉を嬉しく思う気持ちを堪えようとして堪え切れず、俯いて瞳を潤ませた。


 その想いがアラヤに伝わって、彼はここでゴモリーへのわだかまりを完全に払拭ふっしょく出来た。


 言葉は伝えれば良いというものではなく、それを受け止めてくれる相手が居てこそだから。


「この先の戦いも、一緒に居てくれ」

「勿論よ、アラヤ……」


 アラヤの話し方は相変わらず、自分の言いたい事しか言わないというものだけれど……彼の言葉は否応無しに重みが大きいから、それでもきっと、構わないのだ。


 ……これからはこの仲間達と共に自分の戦いを続けていくと、アラヤは改めてそう決意する。


 ――父さんが悪魔にどんな思いで殺されて、母さんが何を不幸と思って死んでいったのか、俺は何も知らない。


 緑茶が入った自分のグラスに口を付ける。


 その仄かな苦味が、今は舌に合った。


 ――今でもずっと、仇を討つなんていう気持ちは湧かない。俺が二人の思いを何も知らないから、だから親子であってもそんな風な感情を寄せる事が出来ない。……でも俺が生きている限りは、あの二人がくした命の分も一緒に戦い続けてやるさ。


 アラヤの戦意は、彼の精神の強さだけが持ち得た答え故の、唯一無二の戦意なのである。


 ――第五話 完――

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