第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(終局・二)
「アラヤ、何か私に、ご、ご命令でしょうか……?」
瞬く間に緊張の面持ちとなったサクスに、アラヤは少し躊躇ったが、それでも次の言葉を発した。
「俺と悪魔達との戦いの中で――サクス、お前に直接手を貸して貰いたい相手が出来た」
「――っ! そ、それは……」
言い淀むサクスではあったが、アラヤの表情を見て、やがてその秘めた本気さを感じ取った。
アラヤも彼女の様子を察し、そのまま自分の話を進めていくのである。
「これは俺も全く思っていなかった事なんだが、悪魔の中には深く連携を取り合って戦うヤツらが居るようだ。……最もそれ自体は、同じ悪魔のお前達はとっくに知っている事だったかもしれないが、な」
アラヤはそう言った時にはゴモリーの方を見ていた。
「……ごめんなさい。もっと早くに言っておくべきだったわ」
そう答えるゴモリーは俯き加減で、そんな彼女の仕草には――リョーコが密かに強く、反応していた。
そして、どうやらアラヤが何か気を悪くしかけている、という事にも彼女は気が付くのである。
「あ、次はジュースの方を頂こうかな」
リョーコはそんな風な事を独り言のように言って、そわそわした様子でグラスにオレンジジュースを注ぐ。
リョーコのそんな仕草は、結果的に場の空気を浮き足立たせる。
その空気の変化は、アラヤが感情の波を抑えさせる事に一役買った。
「……いや、いいさ。会話ってのは、そこまで都合良くやれるもんじゃないっていうのは、分かるから。その、まず俺が下手だからな」
アラヤは自分が言うように、会話という行為自体が上手くない。
行動に出せるような強く明瞭な思いであればそれで足りもするが、長い時を連れ添う相手との心の機微に関しては、伝え切れずにわだかまりとして残り……ふとした切っ掛けでそれがぶり返す事は有り得た。
一度は抑えた筈の、ゴモリーのあの出過ぎた進言を咎める気持ちが、また出てきそうになったのだ。
「有り難う、アラヤ」
ゴモリー自身はそんなアラヤの本音と、それでも不器用にでも気遣ってきてくれる気持ちを、自分の心の中に刻み込みながら感謝を述べる。
一方アラヤもゴモリーに軽く頷き返しながら、これからは例え下手でも自分が先んじて、自らの意思を言葉にしなくてはと思うのだった。
「サクス、俺が言った連携を取る悪魔とはアガレス一派のバティンとアルファスの事だ。鬱陶しい奴らだが、そのコンビネーションには目を見張るものがある」
アラヤの言葉には――お前もそれを知っているな? ――というニュアンスが、今度は真っ直ぐな気持ちとして表れていた。
「ああ、あいつ達の事でしたか」
「そうだ、あの二人だ」
アラヤはそう答えたが、サクスがこんな風な軽い反応を寄越す事を、予測してはいなかった。
……しかし彼女は軽いその言葉とは裏腹に、目つきが幾分鋭くなっていたのである。
「確かにいけ好かない奴らです。あの二人は友情というもので結ばれていて、それ自体は別に好きにすれば良いのですが……友情を持たない悪魔を、やや見下す傾向を持っている所があり、そこが私には許せません……」
「サクス……?」
アラヤは彼女の言った事に対し、驚きの気持ちが生じてしまっていた。
正確には彼女から憤怒と呼べる感情を感じ取った事に、だ。
「……アラヤ、貴方が奴らとの戦いで私をどのように使おうとされているのかを、先ず聞かせてください。私は貴方の配下だから、命令には従いますが――それは別として悪魔は主に、自分の能力を的確に把握し公使出来る知恵の高さを、示して欲しいと願うものなのです」
サクスははっきりとそう言い切った。
彼女にはアラヤを侮る気持ちなど無いが、それと己という種族が有する性を自らが尊ぶ事は別なのだ。
だからこうして、その事をきちんと伝えてみせる。
「……成程、な」
アラヤは最初はサクスの変化に驚きこそしたが、彼女が抱く思いに関しては、しっかりと受け止めてみせた。
――サクス、こいつも悪魔なだけあって話し方が上手い。……まったく、こいつ達と接してると学ぶ事が多いな。
アラヤはそんな風な事も思っていた。悪魔だからとか、異種族だからとか、そういった観念は彼にとって相手への理解を止めるものにはならないのだ。
その素直なまでの飲み込みの早さに、サクスは勿論の事、この場に居るゴモリーとエリゴスでさえ一目を置く。
「正直に言って今の俺は奴ら二人に対し、同時に決定打を与えられるような力や魔技は持っていない。だから奴らに勝つには、先ずどちらか一人に狙いを絞った上で誘い出し、始末しなければならない」
アラヤは冷静に話をしていた。冷静に、『自分の能力では不足があるのだ』と言っていた。
この事の方が彼自身にとっては、飲み込むのに一時の時間と――そしてゴモリーのあの出過ぎた、しかし悲痛な思いで口にされた進言を、自分の力だけで戦うという思いを曲げて受け入れるだけの度量が必要であったのだ。
だからこそ今の彼の言葉には、弱さや後ろ向きなニュアンスは一切無く……寧ろ、これまでより一層燃え滾る戦意が宿っていた。
――(三)へつづく――




