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第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(終局・一)

 インターホンが鳴って、アラヤはサクスの到着を確認した。


 そのまま彼女を皆が居るリビングへと招き入れる。


「ア、アラヤ……私へのご用件とは、一体なんでしょう……」


 リョーコの隣に座ったサクスは、アラヤを目の前にして震えていた。


「そんなに固くなるなよ、こっちにまで緊張が移る」

「す、すいません……」


 彼にそう言われても尚調子の変わらないサクスに、リョーコは居たたまれなくなり、つい声を掛ける。


「えっと、サクスも何か飲みなよっ」

「……じゃあ、オレンジジュースの方を」


 リョーコは了解して、ゴモリーが新たに用意していたグラスにジュースを注いでやった。


 サクスが一口飲んだ後、今度はエリゴスが彼女に話し掛ける。


「サクス、お前はアラヤと主従の契りを結んだんだったな。それ以後は人間を襲ってはいないのだな?」


 エリゴスの言葉は探るようであったが、サクスは、しかし彼女には一睨みしてみせた。


「私利私欲の為には襲ってないわ。ただ、この家に興味本位で近付く人間に対しては、警告の意味を込めて怖い目には遭って貰ってるけれどね」

「ほう」


 サクスの険のある言い方に、エリゴスはエリゴスで逆に感心した表情を向けていた。


「中々どうして……。陰気ではあるが、心の奥底には気位の高さが見て取れる」


 どうやらそれがエリゴスの、サクスに対する評価のようだった。


「へぇ、サクスこの家の守りもしてたんだ。確かに元々この近くの区域を根城にしてたもんね、別に無理な事じゃあ無いか。あ、でも怖い目って実際どの程度の――」


 サクスとエリゴスの悪魔らしいといえるやや不穏な会話に、リョーコが問い掛けようとしていた。


 しかしそこで話が長くなっては良くないと判断したゴモリーが、こう言葉を被せていく。


「彼女に守りを依頼したのは私よ、勿論アラヤの許可は得た上でね。人間が好奇心を以て未知の存在ものを探査しようとするのは悪い事では無いけれど、アラヤが暮らすこの領域に足を踏み入れるのは遠慮願いたいから」


 ゴモリーは最後の言葉を言う時には、リョーコにウインクをしてみせていた。


 アラヤの平穏の為だとあれば、リョーコとしては――


「成程、分かる。サクスもご苦労様!」


 ――と、即座に飲み込み良くするのだった。


 サクスは労いの言葉を受けて「ふん」と、軽く息を吐いた。

 ただ、邪険にしている風でも無く、リョーコに対してはまだ距離を測りかねているという感じであったが。


 このサクスという女はどうあれ、少なくとも他者に対して不用意に近付こうとはしないタイプなのである。


 しかしそれ故にだろう、彼女は自らが認めた者には絶えず誠心で以て接しようとする。


「サクス、お前に手間を掛けさせてる事は有り難く思ってるよ」

「あっ、いえ……貴方の軍団レギオンとしての務めと思えば、どうという事はありません……」


 アラヤの言葉に対しては、サクスは平伏して頭を垂れるのだ。


 サクスが見せる彼への振る舞いに、ゴモリーが優しげな笑みを浮かべていた。


「……アラヤ、サクスの貴方への忠誠は本物ね。これならきっと大丈夫だと思うわ」

「ああ、そうだな」


 二人のやり取りにサクスは、どうやら今がただならない事態であるらしいと感じ取る。


 ――(二)へつづく――

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