第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(後半・三)
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夕刻、アラヤの家――。
彼は今、二人の客を迎えていた。
「アラヤ様っ、本日はお家に呼んで下さって有難う御座いますっ!!」
一人は白のトレーナーシャツに黒のジャージズボンという、ラフな格好をした前髪ぱっつん左右非対称のリョーコである。
その格好で居る事が健康的な可愛らしさを醸し出すというのは、彼女が花の女子高生であるからだ。
「それと、ネットで動画見ました。今日のアガレス一派との戦い、お疲れ様でした」
リョーコはアラヤの額に巻かれている包帯を見て言った。
悪魔に関係する動画には当然凄惨な場面も付き物ではあるが、それでも多くの人間が手早く情報を仕入れられるという事は、それ自体が大切な事である。
「ああ、まあ適当にくつろいでくれ。ジュースでもお茶でも好きな方を飲んでくれて良い」
アラヤはそう言って、テーブルに置かれた四つのグラスと、ペットボトルのオレンジジュースと緑茶を指し示した。
「はいっ、じゃあ最初は緑茶を頂きます! ハードな特訓の後だからもうヘトヘトで……」
リョーコはヘトヘトと言った時にはややオーバー気味な疲れ顔を作って、自分の隣で座っている長身の女の方を見遣る。
「『一日でも早く霊馬を乗り熟せるようになりたい』とお前自身が言ったのだろうが。そんな顔をしても手心は加えはしないぞ。――ああ、私も緑茶で」
桃色に近い、正確にはライトマゼンダという色味の、内巻きパーマの掛かったボブディヘア。
凜とした雰囲気とオトナの女の色香を併せ持ち、ライトブルーのバンドカラーシャツと白のズボンを着こなしている――その彼女の名はエリゴスと云った。
彼女もまた悪魔であり、アラヤに協力する者の一人である――その得意とする能力は騎槍の扱いと、霊馬と呼ばれる地獄の精霊の騎乗術。
「アラヤ様ぁ、それにゴモリィー、先生ったらずっとこんな感じで厳しいんですよぉ?」
エリゴスを先生と呼び彼女から霊馬騎乗を教わっている最中であるリョーコは、悪態を吐きながらも、どっちかと言えばそのノリ自体を楽しんでいる風ではあった。
リョーコ自身、今はこうしてアラヤの仲間になった以上、彼の戦いに付いていけるだけの技術は是が非でも会得したいという強い思いも有る。
その上。
――特訓を終えたらアラヤ様とスイーツだもん……。美味しいし、展開としても美味し過ぎるわっ!
彼とのファルラペ一回分の約束が有る時点で、リョーコのやる気には既に多大なブーストが掛かっているのだ。
しかしあくまでそれは表には出さない、無闇にがっつく女は避けられるかもしれないという、乙女の想い故に。
「ふふっ、どうやらお互いすっかり気心が知れているみたいね」
アラヤの隣で髪をゴムで括っている姿のゴモリーが、二人の様子を見て微笑む。
グラスと飲み物を用意したのは彼女であり、リョーコはその手早さに感嘆したものだった。
「エリゴスは確かに厳しいが面倒見も良い。騎士だからな」
「アラヤ、貴公はそうやってすぐに私をからかう。今のこのニホンで生きている以上、私とてこの国の文化に順応しようとは務めているのだぞ」
アラヤの言葉に、エリゴスは口をへの字にしてみせた。
確かに彼女の言葉遣いはかつての時代の騎士の風格を想起させるが、しかし外見はニホンの大人女性風なお洒落さを、見事に演出しているのである。
「えっ? ごめん、からかっているつもりは無かったんだけどな」
「無自覚は罪だぞ、貴公」
エリゴスはそんな事を言い、じとっとした目つきで彼を見てからグラスの緑茶を飲み干した。
そして空になったグラスをリョーコの近くに置くと――
「はい先生、もう一杯どうぞ」
――と、彼女はエリゴスの為にささっとおかわりを入れるのであった。
「本当に仲良しじゃないかお前達」
「そんな事はどうでも良い。それよりも、今日わざわざ私達を招いた訳を話せ。……私は貴公から直にそれを聞きたい」
エリゴスはそう言った時、ゴモリーの方を微かに見遣った。
ゴモリーが無言で頷いて、それを見たエリゴスは、アラヤの今の心情を無下にはすまいと思うのだった。
アラヤは、少しだけ間を空けてから口を開く。
「もう少し待ってくれよ。もうじきもう一人の客のサクスが来るから、その時話す」
……アラヤは今、彼なりの仲間の頼り方をやってみせようとしているのだった。
――終局へ続く――




