第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(後半・一)
ゴモリーの言葉を聞いたアラヤの動きが止まった。
心が張り詰めた……と言った方が良いのかもしれない。
「……お前達が手助けしてくれてる事には、感謝してるよ」
アラヤは冷静にそう答えたが、しかし伏せ目がちで、その上今尚ゴモリーの方を見ていない。
「それはあの半年間の修行の事や、今の家で暮らせている事についてでしょう?――そうじゃなくて、これからの貴方には仲間の、もっと前へと踏み込んだ助力が必要だと言っているのよ」
ゴモリーの口調は穏やかではあったが、それでも微かに、アラヤの心へと迫る強さが混じっている。
「それ、俺と悪魔の戦いにまでお前達が手出しをするっていう事だよな?」
アラヤはここで、はっきりとゴモリーの眼を見て言った。
「……俺の力じゃあ、やっぱり個としての悪魔達とは渡り合えないっていう判断か?」
アラヤは真っ直ぐ向き合うとなったら、例えどんな内容の会話でも彼なりにきちんと話をしようと努める。
それもまた、かつて仲間の悪魔達から受けた修行の中で学んだ事ではあったのだが……それとアラヤが今抱いている思いとは、また別の問題なのである。
人間の自分が悪魔達と戦うのなら、あくまで人間の自分が悪魔を倒せるのだと世界に対して証明してみせなければならないのだと――少なくとも、アラヤ自身はそう思っている。
ゴモリーは瞳を閉じて、首を横に振った。
「そうじゃないの。私と、今は霊として貴方の中に宿るアスモデウスも含めて、元は七十二人居た強力な個の悪魔。アスモデウスが五年前から貴方と再開するまでの間に七人殺して、そして今は六十六人……。その中の多くの悪魔と貴方はこの先戦うかもしれなくて、そして戦うからには、貴方はこの先ずっと勝ち続けなければならないのよ」
彼女の言葉には強さがあったが、その内に籠めていたのは懇願の思いだった。
だからだろう――次の言葉を言う時には、彼女の表情が悲壮なものになっていた。
「貴方が貴方の思いを通したいのは分かるわ。でも、それでも貴方一人が死に急ぐような戦い方をしていてはいけないのよ、アラヤ……」
アラヤはずっと、ちゃんと彼女の眼を、顔を見続けていた。
「…………分かったよ、ゴモリー」
アラヤの口調は穏やかなものとなっていて、その事にゴモリーはきゅっと口元を引き締める。
「ごめんなさい、出過ぎた事を言ってしまって」
彼女はそう言って貞淑に、頭を垂れた。
話の結果に関わらず、彼女は最初からアラヤに謝るつもりで居たのである。
「いいって、そんなの……。それよりこれからファルラペにでも寄るか? ほら、前にお前に付き添って貰ったあのスイーツの美味いカフェの事さ」
「気持ちだけ有難く、受け取るわ。……今の怪我して服も汚れた状態で行ったら、貴方出禁になってしまうもの」
ゴモリーはそう答えて微笑んだが、アラヤが自分を誘った時、妙におどけてみせていた事に――彼は本当は怒っているのだろう――と理解していた。
だから、彼の心のケアはあの親友に任せる事にした。
「それに、あのリョーコとも既に約束してたじゃない。彼女の特訓が無事終わったら、そのご褒美として連れて行ってあげるんでしょう?」
ゴモリーはお姉さんぶりながらそう言ってみせる。
……のだが――
「ん、まあ、そうだな……。じゃあお前とはまた今度っていう事で、良いよな? 単純に俺がファルラペに行ける回数が増えるのは有難くもあるし、さ」
――アラヤは、彼は結構平気で、そんな事を宣いもするのであった。
しかしそれは……我慢してお前の意見を聞いたんだから、そこは俺の言う事だって聞いておけよ――という、彼なりの怒りを治める為の納得方法でもあったのだ。
「……ふふっ。ええ、貴方の仰せのままに」
天然で王子なのか、はたまたその身に宿す色欲の魔力の賜物なのか、或いはその両方か。
ともあれゴモリーはそんなアラヤの怒り混じりの寵愛を受けられた事に、心の幸せを感じるのだった。
――(二)へつづく――




