第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(前半・二)
「喋ってないで、さっさと攻めてくれば良いものを」
アラヤはそう独りごちる。が、彼は本当は、ヤツらがゴモリーの力を警戒しているのだろうと予測付けていた。
左手にある騎槍の感触を得ながら、彼はこう思う。
――これじゃあ俺自身も、ゴモリーの力を当てにしてるのと一緒だな。
偶々《たまたま》だ。
あくまで、偶々《たまたま》自分が地面を転がった先に彼女が居たというだけなのだ。
しかしそんな偶然でも、そのお陰でヤツらの攻撃の手を止めさせ、騎槍を手中に戻す事へと繋がった。
――それが、アラヤのプライドを傷付けたのである。
「……!」
アラヤが無言でバティン達へと駆け出したのは、その胸に抱えた思いのままゴモリーに『下がれ』とは言えなかったからだ。
ゴモリーは憂いた眼でアラヤの背中を見ながら、少しだけ唇を噛み締めてこんな風に思う。
――馬鹿……。
「セナ・アラヤ、猪突猛進では私達は倒せませんよぉ!」
「あの一直線気質のレライエのようにはいかないぞ!」
バティンとアルファスの煽ってくるような言葉を、アラヤはガン無視する事に決め込んだ。
気にするべきは二人の確かな連携の取り方……それを消し去る為の狙いを付ける。
騎槍の穂の下に付く――風になびく赤い旗、そしてそこに金糸刺繍で描かれたアスモデウスの紋章へと眼を移す。
――これは本来お前の為の武器で俺にとっては借り物みたいなものだ。だからこそ、これは俺の好きに使わせて貰うぞアスモデウス!!
アラヤは視線をバティン達へと戻し、左手の指を巧みに動かして騎槍を旋回させる!
「何をする気か知りませんが……アルファス!」
「ああバティン、押し止めてやろう――グランド・バッシュ!!」
アルファスの魔技は、今度はアラヤの前面のアスファルトを持ち上げた。
アスファルトは瞬時に盾の形となって、アラヤを阻むべく向かってくる。
「テラー・シェード!」
アラヤは荒ぶる影の力で、盾へと対抗するつもりだった。
――一筋縄ではいかないのなら!!
盾とアラヤがぶつかり、盾の方が粉砕された。
しかし――。
アスファルトの破片が舞い視界が覆われているアラヤのその眼前へと、自身の魔力の影を纏ったバティンが、突進に依って即座に迫って来ていた。
突進とは、騎槍を持つ悪魔ならば標準的な技術として備えている攻撃方法であり、通常の突きよりもその威力は数段高くなる。
「ハァイッ! 右手の拳で盾を壊す事はお見通しでしたよぉ!!」
例え左手では騎槍を旋回させたままだとしても、それでも虚を突かれる形ではその威力は存分には発揮出来まい――それがバティンの目算だった。
そしてバティンの方は突進の力を自分の騎槍に蓄えている、だから力の差は歴然だったのだ。
しかしここで一番肝心なのは、バティンの目算がまるで外れていた事だった。
騎槍を突いた時アスファルトの破片はもう失せていて、そこでバティンは、額から血を流しているアラヤの姿を見た。
――血? まさか!?
アラヤは荒ぶる影をその両足へと強く集中させて、踏ん張っていたのだ。
盾の衝撃は敢えて正面から受け止めて、その上で今度はその身が投げ出されないように!
だからアラヤは左手だけで無く、空いた右手もまだ使える……。
「ハッ!」
アラヤは右手でバティンの騎槍を掴み、その威力を封じた。
例え突進の力込みの騎槍であっても、アラヤもまた踏ん張る足の力を強めているのだから可能なのだ。
或いは……
――一筋縄ではいかないのなら、こっちも死力を尽くして戦えば良いだけだ!
……アラヤのその、常に地に足を着けた屈強なる精神力の賜物か。
――(三)へつづく――




