第五話 マルチプル・コンビネーションをヤる(前半・一)
街中の大通り――アガレス一派が現れた時にはお馴染みとなっていた民衆の阿鼻叫喚は、セナ・アラヤという悪魔以上の不純物が混じった事に依り、その様相に変化が生じていた。
「行け、軍団の長だろうと倒しちまえー!」
「赤爪の反逆王子! 勝てば私もファンになるからー!」
アラヤは迫り来る悪魔バティンとアルファスに対し、騎槍を左手に構え迎え撃つ姿勢を取っている。
人々の前で幾度も悪魔の襲撃に歯向い戦っている内にネット上で付けられた、その異名の事を気にしている余裕は、無い!
「テラー・シェード!」
叫んだのは自身の魔力が秘める、荒ぶる影を発現させる魔技の名前。
その影の力で、アラヤは自身の戦闘力を底上げするのだ。
――これでもきっと、凌ぎ切るのがやっとだろうな!
……レライエとの戦いから数日が経ち、その時受けた傷も完全に回復している。
それでもこの二人の悪魔を一気に相手するのは、アラヤにとっても相当骨の折れる作業であった。
「ハァイッ! この攻撃は如何ですかぁ!!」
前の方に居るバティンがテンション高い声で、アラヤが持つそれと似た系統の騎槍を突き出してくる。
清潔感のある栗色ショートヘアに溌剌とした顔つき、青を基調とした上衣にズボンという服装のバティンは、人間風に言えば好青年と呼べる外見をしている。
アラヤにとっては突きの脅威よりも、ヤツの声とその好青年感へのイラつきの方が、心に来るウエイトが大きかった。
「アガレス一派の、そういう分かり易さが――!!」
アラヤはバティンへと叫びながら、自身の騎槍でヤツの攻撃を防ぐ。
「ははっ、騎槍同士の戦いもまた乙なものっ!」
バティンもまた瞬時に姿勢を整え、そのまま幾度も突きを繰り出してくる。
「――俺の戦意を、駆り立てるんだっ!!」
アラヤはヤツの攻めの勢いに負けじと、的確に捌き続けていく。
その眼に宿るギラつきをバティンは見据え、口元を歪めて笑みを作る。
「良いですねぇその眼、私の心にもビンビン来ますよセナ・アラヤ。お前の底無しの戦闘意思の波動が!」
バティンは張り詰めた表情をしつつも、しかしまだ余裕が有るかのようだった。
アラヤはその理由を知っていたから、バティンの騎槍を捌きながらその次の防御の事まで考えざるを得なかった。
「アルファス、今です!」
バティンの言葉に、ヤツの後ろに居た同じくアガレス一派のアルファスがその手をアラヤへと向ける。
薄めのグレーの上衣に白ズボン、肩より下まで伸びたカーキ色の髪……バティンより少し大人っぽく見える、鋭い眼をしたアルファスの叫びが木霊する。
「グランド・バッシュ!」
アルファスの魔技グランド・バッシュ。
それはアラヤの左右の地面、その固いアスファルトを念力で持ち上げて、正しく強固な盾とし――アラヤ目掛けてぶつけてくるものだ!
バティンは一足先にその場から離れ、防戦一方だったアラヤはそのまま取り残される形となってしまう。
「チッ!」
アラヤは舌打ちをしながら、その短い内に覚悟を付けた。
多少のダメージは負う――という覚悟である。
アラヤは自分の空いている右手を一瞬見遣ってから、荒ぶる影の力が集中する拳とし、右側のアスファルトの盾に裏拳を放ち粉砕した。
左側の盾には、敢えて背中を晒しその衝撃を甘んじて受ける。
「がっ……!!」
アラヤの体が衝撃で投げ出され、騎槍も左手から離れた。
地面を転がり、仰向けの状態で止まった所で、アラヤはゴモリーの、ふわりと波打つ黒のフレアマキシスカートを視界に入れた。
「ゴモリー、そっちに居たのか……?」
「……貴方の右側は、今は空いているから」
ゴモリーは少し躊躇う素振りを見せて、そう答えた。
アラヤは地面に後頭部を付けた状態で、ゴモリーの顔を見上げている。
ヒールを履いている事を除いても、それでも女の中では長身な彼女の眼が憂いを帯びている。
陽の光を受けている深紅のロングヘアの綺麗さには、眩しい、と感じたが。
「……俺だって、好きで空けてる訳じゃ無いさ」
アラヤは少し不機嫌な表情を、しかしゴモリーの顔からは視線を外してから作ってみせた。
そのまま立ち上がる彼にゴモリーは――
「今はまだ、仕方無いわ」
――とだけ告げる。
「なんの相談かなセナ・アラヤ、そしてゴモリー?」
「お前も参戦するのかな、ゴモリー?」
バティンとアルファスがそう言葉を発してきた。
その事には、アラヤは素の表情を見せる。
「ゴモリーは俺の後見役だ。戦いには、混ざらない」
アラヤは強い口調でそう答えながら左手に念を籠め、落ちていた騎槍を引き寄せた。
「はっはっは、強がりますねぇ。まあ私達はどちらでも構いませんけどね」
「俺とバティンの連携は、そう簡単には崩せはしないのだからなぁ」
揃って余裕の表情をして見せている二人の悪魔に、アラヤは静かに、イラつきを深めていく。
――(二)へつづく――




