第5話 ガスパルの告白
あれからもルナはぐっすりとパルネの膝枕で眠り続けている。
その傍らにガスパルとデュオがいた。
そうしたなか、他の娘達は個々に横になり眠りについたりしていたが、デュオとガスパルは樹海の獣らを警戒して、交代で焚火と夜警の番をしている。インフィティの姿が見えないが、ガスパルからの伝言を携えて樹海の外で待っているアレクを迎えに行ったようだ。
クララの救出は無事に済んだ。いつまでも、こんな所には居られない。馬車を運ぶようにと。
ここに集まった全員の避難と休養が優先される。そんなガスパルの考えが、アレクへの伝言だった。
「おい、若造。起きておるか……」
夜警をしながら、ガスパルは傍らで横になっているデュオへ問いかけると、その声を聞いた彼は体を起こした。
「ああ、起きてるさ。眠れねえよ」
「なら、少し話をしよう、いいな」
「望むところさ。俺もあんたらに聞きたい事がある」
焚火の中に枯れ木をくべ、炎を見つめながらガスパルは質問を始めた。
「たしかセイドといったな。あれとお前たちはここで何をしておった? もちろんお前達だけで出来るような単純な事ではなかろう?」
「今更だけど、俺はとんでもねえ事に加担していたと後悔している。食い詰めた学士だった俺は、自分の研究もままならなくってさ、人づてでセイドを紹介された」
「誰の紹介じゃ?」
「ああ、王都の学士ギルドに出入りしてた奴だ。名前は何だったかな……、2~3年働けばたっぷり金が入るいい仕事があるぞってな。そうすれば研究に没頭できるかなと思ってさ」
「ここでは一体何をしておった。娘らをさらい、あんな赤い鬼が現れるとは尋常な事ではないぞ」
「あれの事は俺もまったく知らなかった。ここでは3人で小鬼の繁殖をしてたんだ。そこの娘達を母体にな。そんな事に手を貸した俺のやった事は許されるもんじゃない。もう手遅れだってわかってるよ。また生まれるしな。……でも、ずっと嫌だったんだ。それだけは嘘じゃねえ」
「小鬼の繁殖じゃと……あれが何かお前は判っておるのか。それに生まれるとは……。どちらにせよお前の行いは鬼畜の所業じゃな。いくら、改心してもお前の罪は消えんぞ」
「判っている。この目で何人もの娘の死も見たし、どこかへ連れ去られた娘らもいた。いまさら詫びたって何の役にも立たねえよ。だからさ、自分にできること。少し何かの役に立ちたいと思ったのさ。あのシスターパルネのようにな……」
「それで手助けをする気になったというのか」
「よく判んねえけどそんな所さ。改心なんざ、神も信じない無神論者の俺にはねえよ。だけど、こんな俺でも心を打たれる事ぐらいはあるのさ。……そうだ、そうだ神だ! あのルナって娘の事を教えてくれよ爺さん」
「その前にお前はこれからどうするつもりじゃ?」
「まだ考えもつかねえが……そうだな、できる限りこの娘たちの世話でもしてみるか。……別に罪滅ぼしじゃねえよ。小鬼のことを知っていて対応できるのは俺ぐらいだし、こんな事に巻き込んじまった娘達に少しは何かをしてやりてえんだよ」
「若造……お前、それは懺悔と詫びではないのか?」
「違う違う。俺は現実主義者でもあるから、神への懺悔はしない。ただ、何もしないと後悔をすると思ったし、自分のしでかした後始末をしないと俺はもう人でもなくなる気がするからな」
「そうか……」
二人の話をそっと聞いていたパルネが、ルナの髪をさすりながら口を開いた。
「デュオ、あなたは人でなしね。改心して人助けをしたように思ったけど、お金の為に人を人とも思わない行いは許されるものではないわ。あなたの罪は、自分で背負って歩くのは当然だし、はっきりと神に懺悔する事を勧めるわ」
「お前の言う通りだパルネ。でも一つだけいいか。こんな俺の気持ちを揺さぶって導いてくれたのはお前だって事を……」
「…………」
パルネは黙っていた。返す言葉が見つからないのか黙っていた。
言葉にできない思いがパルネの心にあるようだ。
牢屋の中でのデュオとのやり取りを思い出す。
わたし……この人を優しいと思ってた。どうしてこんな事を言っちゃうんだろ。
パルネとデュオが黙りこくったのを見ていたガスパルは、また焚火に木をくべながら口を開く。
「パルネよ、お前の言う神とはなんだ。聖母アドアステラか?」
「そうよ、私は聖オリエント教のシスター。あたりまえでしょう、ガスパルあなただってそうじゃない」
パルネの問いに、ガスパルは夜空を見あげながら答えた。
「残念じゃが違う。わしが崇拝する神はテラ神じゃ。この空に浮かぶこの地を生み育てた神じゃ」
この答えにパルネとデュオは驚きを隠せない。パルネは教団から聞かされた異教の神、デュオは数十年前に滅んだ異教の神だとなんとなく知っていたが、それ以上にガスパルの言葉に響くものがあった。
テラ神! 王国に滅ぼされた異教徒!
空に浮かぶこの地を生み育てた神だと!
そんな馬鹿な話があるものかと二人とも思った。さらにガスパルは話し続けた。
「わしは、昔戦った。王国軍とな。そして、その裏で糸を引く聖オリエント教と戦った。それは、酷いモノじゃった。大人子供問わずに異教徒の名前だけで信徒達は惨殺された。こんな年になってもその光景が忘れられん。そして友も妻もわしは失った」
「ちょ、ちょっと待って……ガスパルあなたは……」
パルネがやっと口を開いたが、その表情はこわばり困惑に包まれている。
「信じられんかもしれんが事実じゃパルネよ。お前も見たな、ルナが戦う姿をそしてその相手、赤い大鬼を見たな。あれがわし等テラ教徒と王国軍の最後の戦いで投入された化け物じゃった。奴らはみな無慈悲に信徒らを引き裂き、食い殺したのじゃ」
「そんな馬鹿な……。聖母アドアステラを掲げた王国軍で、あれが使われたというのですかガスパル!? 本当なの? それじゃあ、ここでデュオがしてた事って……いや嘘よ、嘘に決まってる!」
「信じられん気持ちはわかるがの、事実じゃ。ルナを想うお前の為にもはっきり言うぞ。ペルテオ王国は聖オリエント教会の傀儡として、この地を支配しようとしておる。邪魔者は殺す! それがパルネ、お前が信仰する神の本当の教義だとな」
「そして教団はまた赤い大鬼を使ってまた戦火を広げるのじゃ。罪なき人を殺すなぞ、わしはそんな事を決して許しはしないし、黙って見ている気もない!」
ガスパルの言葉に、信じられない面持ちが隠せないのパルネとデュオ。
だが、何とも言えない恐怖とガスパルの悲痛な告白に心底心が凍り付く二人だった。




