第37話 爺様の思いと少女
「ルナ、これからどうしたい? わしからの提案と質問じゃ。よく聞けよ」
と、ガスパルからの三つの提案をされてルナは答えた。
「四つ目よ。私とインフィニティの二人で今すぐ森に入るわ」
ガスパルとアレクがその答えをじっと聞き及んでいたが、急にガスパルが笑い始めた。
「がっははははは!」
隣にいたアレクはそんな姿を見て目をパチクリさせているが、ルナは真剣な眼差しでガスパルを見ていた。
ガスパルは、笑いながらも考えている。
――よく、この短い間に成長したのルナ、良い答えだがまだ足らんな。では伝えるか。と、思考をすませて言葉を口にする。
「ルナ、五つ目じゃ。わしとお前ら二人で森に入る。アレクお前は留守番を頼んだぞ」
「「えっ?」」ルナとアレクの目が点になる。
「ちょっと、ガスパルさん。なぜ僕だけが留守番なんですか!」
「私とインフィニティの二人で行くって言ったでしょが! もうろく爺い!」
二人とも各々の意見でガスパルに文句をつけたが、そんな二人を黙って目を細めて見つめるガスパルが居て、返事がない二人は次第とお互いに言い合いをする事に陥ってしまう。
「僕も行きます! 置いていかないで下さい! そうだよねルナ!」
「いいの! アレクあんたは残ってなさいよ!」
「僕だって、クララを助けたいんだよ!」
「うるさいわね! これからは危ないの!」
「ルナみたいなチビが行ってどうするんだよ! 魔法が使えるからって!」
「チ~ビ~だと~。もう頭にきた! あんたなんかぶっ飛ばしてやる!」
「やるか~。このドちび!」
「やってやろうじゃないの!」
言い合いから、売り言葉に買い言葉。けんか腰になって取っ組み合いでもしそうになった二人へガスパルが、やっと重い口を開く。しかし、穏やかだった表情は一変し真剣な眼差しへと変わる。一息大きく息を吸い込むと。
『黙れ!! このガキ共!!』でかくて耳が痛くなるほどの声量で怒鳴りつけた!
「ウヒィ!」一喝された二人は驚いてガスパルの方を恐る恐る向いてみた。
丁度、夕日が地平線に沈む光景を背にし見え難くなったガスパルの顔は、つぶらな眼だけが浮かびあがり、押し黙った獣が佇んでいるようだった。
「どどどど、どうしたのよガスパル……」
「顔がちょっと怖いんですけどガスパルさん……」
普段見せないガスパルの様子に二人はその後、言葉を失ってしまった。
……やべ~。なんか怒らせたの。
……親父にもあんな怖い顔された事ない。
ルナとアレクの二人は、ガスパルの容貌にびびってしまう。
でも、それもそうだ思う、なにせ百戦錬磨の『狼のヴィクトール』が一喝したのだから。
ガスパルが少し殺気を込めて一喝したおかげでやっと静かになった二人に、再び真剣な顔を向けて話し出す。
「よいか、わしは合理主義者だ。考えうる危険にわざわざ飛び込むほど馬鹿ではないし、臆病者と言うならそれでもかまわん」
ルナとアレクは固唾を呑んでガスパルの話を聞き続けた。
「だが、大切な者を見捨てるほど落ちてもおらん。
だから、五つ目が一番合理的なのじゃ。いくらインフィニティとルナが二人で、森に分け入って戦闘経験のない者に何ができる? 砦跡に無事につけても一体何をどうするつもりじゃルナ?
それにアレクに残れと言ったのは、パルネとクララを無事に助けた後どうする? 怪我をしておるかもしれんし、もっと酷いかもしれん。急ぎ街に連れ帰る必要はないのかのう? その為には馬の世話もしておかねばならん。
それに何か不測の事態が起きて、アレクの母親を悲しませる訳にはいかんのじゃ。アイラにとってお前は残された生きる希望だという事をいい加減にお前も理解せい」
ガスパルの言葉にルナとアレクの二人は押し黙っていた。
そこへ、インフィニティが戻って来る。
「おやおや、どうしたのお二人さん? 話は聞いてけどね」
インフィニティは、ルナとアレクの二人の間を飛び交いながら、ニコニコしている。
「何笑ってるの、もう」
「ふう~。息が詰まるかと思った」
二人はインフィニティの姿を見て緊張がほどけた様子だった。
しかめっ面をしていたガスパルも表情が和らいだ。
「フフフ、お前なかなか良い時に来たな」と笑う。
「う~ん。よく判んないけどね。ふふ」とインフィニティも微笑んだ。
三人が顔を見合わせて頷き合う。
インフィニティは、その周りをしれっと飛んでいる。
「よし、行くぞルナ、インフィニティ」
「了解。ガスパル」
「残念だけど、気を付けてください」
三人と一人のコンビは意気投合が出来た。さあ、後は目指すだけだ。
突然ルナが、着ているワンピースの裾をたくし上げると、腰の紐で結び留め始めた。白い太ももが露になったその姿で、ガスパルとアレクを振り帰る。
夕闇迫る中、風になびくブロンドの長髪、金色を纏い青い瞳を輝かせて凛として佇む一人の少女。そして周りを妖精が飛び交う情景。とても幻想的だ。
「さあ、行きましょう」やる気満々のルナ。
「そこまでせんでも」爺様はあきれ顔。
「いいの、歩きづらいから」小うるさいわねとルナ。
「ルナ……、うっ」アレクは、ルナの寝姿に新しく芽生えてしまった感情をこじらせた。
「じゃあ、行ってみよう――」インフィニティも元気だった。
そんな、三人と一人を広大な樹海が、暗闇をひろげて待ち構えている。
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