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第38話 樹海の脅威

 ルナとガスパルが、夜の樹海に足を踏み入れて半時ほどが過ぎていた。ガスパルは用意した小道具を雑のうに入れて背負い、姿勢を下げて這うように体を低く保ち進んでいた。その後をルナが、ぴったりとくっ付いて行く陣形だ。


 また、インフィニティは二人の前に出て先導役を行っている。

 樹海に入る前に、ガスパルは方位磁石と地図から砦跡の方角をインフィニティへ伝えた事や磁気の揺らぎを感知することまで覚えたので予定の方角に進むことが出来ている。


 ……どお、インフィニティ前の方は?

 ……今の所、人の気配はないね。小動物はいるけど。


 進行作戦は、インフィニティの気配察知。ルナとの"通心で"何らかの情報の伝達。ルナの前を行くガスパルが、罠類の感知と蔦や木々などが行く手を大きく阻んだ時にだけ用意した鉈の使用。

 気配が無い場合は、インフィニティの碧い光やルナ自身からもれる少しの明かりが歩むのに役に立っていたが。


「もう、虫が、あっち行って。おおっとっと! 滑る~」

「こら、大きな声を出すんじゃない。静かにせんか」


 日光の届きにくい樹海のせいで、背丈の高い草の類は少ない様子だが、ワンキュピックほどの草はびっしりと生えているし、蔦やコケ類が地面や木々にまとわり付いているので、どうしても足元が不安定に成りがちだった。また、どうしても進路を拒む木の枝や蔦の処理も必要になり用意した鉈で掃う手間がかかる。

 ガスパルの罠への警戒は継続中なので、二人の進行速度は上がらない上に厄介な事も起きてしまう。


 ……ルナ、大きいのが来るよ。四本足二匹。右と左に一つずつ。

「来た。大きい四本足二匹、左右に分かれてる」ルナがガスパルの背中を小突く。

「チッ、マッドか」とガスパルは舌打ちすると、両刃剣に手をかけ抜刀した。


 夜行性の危険生物が二人を襲うのは、もう3回目。毒蛇に、木々の上から落ちてくる大吸血ヒルと忙しい。


 今回は、運悪く牙の鋭いマッドウルフのようだ。体長は約2ヤート、土色の毛皮を持つ彼らは、昼でも見つけにくい。彼らは番で行動し獲物を狩る。しかも悪い事に、()()()()()()()()()を覚えてしまったので厄介だ。


 音や光を放つインフィニティに、今を任せる事は出来ない。できうる限り静かな処理が必要とされている。


 タタタタタタタッ、タタタタタタタッ。

 タタタタタタタッ。   近づいていた足音が止んだ。

「来たな、どっちからだ?」 

「左が近いだって」と、ルナが囁いた。


 先ずは一匹一撃と雑のうを捨て身構えるガスパル。

 至近距離ではインフィニティの誘導も敏捷なウルフ達相手では、どこまで役には立つか不明だが貴重な情報だ。一つでもいいから有利に立ちたいと老冒険者は考えている。


 マッドウルフは獲物に対して簡単には威嚇などしない。強者はそっと命を刈り取る力を持っている。二匹の狙いは、勿論ルナだ。暗闇に目立つし、小さくて狩りやすいと彼らは考える。草木に身を沈み込ませ、自然と同化し不意に襲う。


「合図したら伏せろ」

「はい」

 今のルナには、獣への恐怖はなかった。


 ……側にガスパルが居る、私はこの爺様を信じる。

 ここ数日で、培った強い意志とガスパルへの信頼がルナを勇気付けている。



 ――獲物へのマッドウルフの狩りが開幕した。


 やや、離れていた右側の一頭が吠えた。……囮役。

 ルナとガスパルは、右の方へ注意を向ける。

 その瞬間に、草木に潜んでいた左の一頭が飛び掛かる。


 ウルフの二匹は、慎重にこの狩りを成功させようと目論み、いつも成功する確率の高いこの方法をとった。暗闇の中で音を立てずに、にじり寄ると牙と爪を研いでいた。


 しかし、今回は相手が悪かった。『狼のヴィクトール』は、それを読んでいる。今までに同じ状況は経験済みだし、今回はインフィニティからの貴重な情報が役に立った。


 囮の合図で不意を突こうとした左の一頭が、ルナの身近から襲いかろうとしたが、その一歩手前でガスパルはルナに合図を送った。


「伏せろ!」「はい!」ガスパルの合図でしゃがみ込むルナ。


 ウルフが、ルナへ飛びかかった時、そこにはガスパルの両刃剣がすでに唸っていた。「ヌン!」と刃がルナの頭上を通りすぎると、ルナのほのかな灯りに輝く夜行性ウルフの眼が暗闇に顕わになり、それを見届けたガスパルが絶妙なタイミングで剣を振った。放った刃はウルフの喉元を見事に直撃した。


 キャフッ――! フフフフン……。


 ウルフの首は半分以上裂け、瞬く間に絶命してしまった。


 驚いた囮役のもう一頭は、死に至る番の光景をじっと見つめていたが、牙をむいて唸る事を止め尻尾をうな垂れて、ルナ達の居るその場を離れて行った。


 老冒険者の手腕と読み、そして闇夜を見渡すウルフの持つ目が仇となり勝敗を分ける事となった。


「ふ~っ。インフィニティのおかげじゃな」

「私達、三人の連携勝ちね」

「まだまだ、これからだぞ」

「ええっ、分かってる」


 一戦を終えたが、休む暇はない。また同じ隊列を組み暗闇の樹海を進み始める。


 ……ルナ、木々が減って開けた所が続いてる。

 インフィニティが進む先に道を見つけたようだ。


 ――「ガスパル、前方に開けた場所が続いてる」

 ――「いよいよ、ヤバくなって来たな」

 ――「どうして?」

 ――「こんな誰も近づかない森に道みたいのが残っている訳ないじゃろ」

 ――「そうか……人。人がいるのね」

 ――「そうだ、パルネ達もきっと居る」


 ルナとガスパル、インフィニティは進む速度を変えぬまま、用心深く木々をかき分けて進んで行った。



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