第35話 樹海
こお――――っ
丘陵から森への入り口に着くと、その中を通り抜ける風の音が聞こえてくる。森の後方に見える小高い山から吹き下ろす風のせいだろうか、夏だと言うのに風は少しヒンヤリとし、この森の奥深さが感じられた。
キ――ッ チチチチチチッ
森からは鳥の鳴き声も聞こえてくるが、森の中を見渡すと鬱蒼と茂った木々のために暗く、その姿は全く見えない。この森は俗に言う樹海の様を成しているようだ。ルナ達の一行が、そんな森に着いた時には太陽は大きく傾き、まもなく夕暮れがやってくる時間だった。
ルナが馬車の荷台から森の風景に望んで話し始めた。
「大きな森……。こんな所に砦跡があるの?」。
「ああ、地図だとここらから歩くしかないが、一時以上はかかろう」
ガスパルは、馬車を止めて用意してきたモノを荷台から降ろし始めた。
次第と暗くなった周囲には人影は当然なく、「カーッ カーッ」と黒い鳥が、泣きながら数羽固まって森の奥へと飛んでいった。
「手伝いますね」とアレクも一緒に荷下ろしをしたが、やはり不安げに森へ目線を投げている。
荷台からルナは降りると、そんな二人に少し視線を動かしたが、すぐに森の奥を見つめて口を開いた。
「インフィニティ、お願い」
とルナが呟くと、彼女の胸のあたりから碧い光を纏った小さな妖精の姿で、インフィニティが現れた。周囲が暗くなってきたため、羽を動かしてふわふわと飛ぶその姿が良く見えており、同時にルナの胸元からも和らかな金色の光が揺らめいている。インフィニティはルナの眼前にゆっくりと佇むと彼女の意志を理解し返事をする。
「見て来いってことだねルナ」
「うん。頼むわ」
「了解、了解」とインフィニティは話すと森の中に向かう。
「まったく、何度見ても驚くわい」
「そうですね。不思議で小さな妖精か」ガスパルとアレクの二人もその姿を見送る。
ルナの元を離れると、飛翔する速度を上げてインフィニティは飛んだ。木々を交わすように、時には大木を透過して進む。ルナも目を細めながら森を見つめていたが、インフィニティとの会話”通心”は継続している。
……どう、様子は? 砦はあるの?
……暗いね、ぎっしりと生い茂ってるからルナ達が進むのはきっと大変だよ。
……そう、もう夜になるし。
…… ・・・
……どうしたの、インフィニティ聞こえてる?
…… ・・・
……あ、ごめんルナ。ちょっと離れすぎた。えっとね……。
声が聞き取れなくなった事をインフィニティが説明した。あまりルナから離れると通心が滞るらしい。以前、バレンティアで騒動を起こした際に、一瞬で奴隷商の屋内を覗いた速さは、インフィニティ本来の意識体で会った事とルナのすぐ側だったため行えたとの事。今はルナとの絆が強くなった事や、妖精の姿ゆえ負荷がかかっているので、通心にも限界距離があると伝えてきた。
……だったら、元の神様みたいなればもっと遠くへ行けない? どうなの?
……試したくないけど、ルナとの繋がりが切れちゃうかも。
……えっ! 本当なのインフィニティ。
……私とルナの精神同化が進んだみたいだから薄れると怖いんだ。
その会話の内容にルナはため息を付いた。別にインフィニティの言葉にがっかりした訳ではないが、自分との結び付きや不思議な原初の粒子の力にも限界があるのだと感じた為だった。この力は、望めばなんでもできるお伽話の魔法じゃない、インフィニティと私の繋がる事で出来る力である事。
――私とインフィニティの繋がり……”絆の力”か。
ルナは、その言葉を大切に自分の心へ刻み込んでいった。
一通り、インフィニティと会話を終えるとすぐにガスパルに森の状況や、砦跡は見つけられてない事を伝えた。
「ガスパル、森の中すっごい大変みたい。どうしよう。インフィニティも砦跡までは見渡せないみたいなの」
「まあ、森の入り口でこんなじゃから、中はもっと凄かろうな」
「もう、暗くなるし、足元も見えなくなりますね」アレクが続ける。
「さて、どうしたものかの」ガスパルも色々と考えているようだ。
――この中を進むのはもう危険すぎる。日中でも慎重に進まにゃならん程に木々が深い。得体の知れん奴らがいるとすれば多少の罠もあり得るじゃろう。だが時間も限られておるしの。
ガスパルは、一通り思案した後にルナに振り向いて質問をした。
「ルナ、これからどうしたい? わしからの提案と質問じゃ。よく聞けよ」
ガスパルは穏やかな目をしていたが、話すその言葉には重みがあった。
「一つ、ここで朝まで過ごして夜明けから行動する。
二つ、このまま森へ入り砦を目指す。
三つ、わし一人が入り、お前らはわしの合図を待つ。
どれが適切と思うルナ?」
三つの提案。ルナはおっちょこちょいな所もあるが馬鹿ではない、ガスパルは質問とも付け加えた事にルナは自問自答を始めた。
真剣なガスパルの表情だけでも私やアレクを心配してるのが判る。足元の見えない森の中を歩く事は先日に体験済み。どれほどそれが危険な事か忘れる訳はない、薄暗い中で罠に捕らわれたあの忌々しい事実を忘れられるはずはない。……きっとガスパルは三つ目を選べと聞いて来ているに違いないはず。でも……。
ルナは、二人を見て回答を伝えた。
ガスパルとアレクはその答えを神妙な面もちで聞いた。
「四つ目よ。私とインフィニティの二人で今すぐ森に入るわ」
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