決意
平手の親父どのとの話はまだまだ続きそうだ…。「じゃが悲しい事に三郎様はうつけで通って居る。そなたの様に器量人と見る者は少ない」
「城造りの縄張りと一緒です。弟勘十郎様は精々末森止まり、三郎様の縄張りは大きさが桁違い…大きすぎて他の者には分からんのだと若旦那は仰いました。成程、と思いました」
…若旦那が言った事にしたけど問題はない筈だ、親父どの自体が信長の与党なのだから。
「倅がそう申したか」
「はい。若旦那さまは、三郎様は縄張りが桁違いなだけではなく、下々の目で物事を見ているとも仰いました。だから民百姓、地下人ともお会いになるのだと…三郎様はご嫡男、家督を継いだ今、奇行を改めた方が良いのはお分かりの筈。改めないのは何か秘めたるもの、覚悟があるからだと。だからこそ、うつけ者と呼ばれてもお気になさらないのだと」
うむ、水が欲しいぞ…親父どのは俺の話を黙って聴いている。倅がそう申したか…親子で話をする事はないのだろうか?微妙な問題だけに、話しにくいのかも知れない。
親父どのが目を開いた。
「しがらみがない故召し抱えた、か…成程得心がいったわ…倅にはそなたの様な者が必要なのじゃろう。これかも五郎右衛門を支えてやってくれ。それと、たまにでよい、今日の様にまた倅の話を聞かせてくれ」
親父どのは笑いながらそう言ったが、目は笑っていなかった。冗談じゃない。那古野の次席家老とマンツーマンでお話とかあまりに怖すぎる。しがらみなくて面倒がないから友達に、と言われたのに、わざわざしがらみを両手一杯にされるのは御免だ。出る杭、出る杭…
「ご苦労だった。下がってよい」
大手口まで来ると、吉兵衛が待っていてくれた。
「では参りまするか…大和さま」
帰り道、吉兵衛は自分の事を語り始めた…名乗りは毛利吉兵衛実元という。春日井の地侍で、若い頃は正秀に近習として仕え、久秀が生まれると傅役として久秀に仕え、久秀の家のオトナとして今に至っているのだそうだ。
仕えた経緯からすれば、吉兵衛は今でも親父どのの意向に沿う様に動いている筈。若旦那もそれは判っているだろう…その毛利吉兵衛に、俺に合力せよ、と若旦那は命じた…そうか、自分からも親父どのからも目が届く様にして、俺の身を案じてくれているのだ…そして若旦那は、友達がという立場で自分だけの相談相手が欲しいのだ。
若旦那は、いい奴だ。しがらみがないというだけで友達になってくれなんて、赤の他人に中々言えない。だけど、いい奴は早く死ぬと相場が決まっている。友達にはいい奴が望ましいし、そういう奴の友達になりたい。それに、気付いた…なれるなれないに関わらず、もう俺を友達と呼んでくれる様な存在は若旦那しかいないって事に…。
「友達か…ちょっとやってみるか」




