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戦国異聞  作者: 椎根津彦
飛翔の章
15/116

帰還、そして休息

 日が明けて六月九日、織田勢は那古野に戻って来た。

「若。勝ち戦、祝着至極にこざりまする。亡くなられた殿も喜んでおりましょう」

政秀は祝いの言葉を口にした。

「爺、勝ってはおらぬ」

「またそのような」

「が、負けてもおらぬ。よう生きて戻ったわ」

信長は遠い目をする。

「まことに」

「フフフ、五郎右衛門め」

「…あやつが何か、しでかしましたか」

一瞬、政秀の動きが止まる。

「言うたのよ。勝てはせぬが負けもせぬと」

政秀は、は?といった顔をしていた。

「そのような事を」

「やはり俺の兄貴分よ。爺、いい倅をもったな」

政秀はぽかんとしていた。




 「おかえりなさいませ」

若旦那と別れ、ヘロヘロになって屋敷に戻って来た俺を、せきが優しく迎えてくれた。

「…ただいま」

せきの顔をみると、ほっとする。

「…どうなされたのでございますか。涙が出ておりまする」

「え」


 俺は泣いていた。なぜだろう、涙が止まらない。

泣きじゃくっていた。


 

 

「ありがとう、落ち着いたよ。なんか、悪かったね」

せきは俺が泣いている間、ずっと手を握っていてくれた。

静かに、とても優しく。

何があったのか、とも聞いてこなかった。それが俺にはありがたかった。

多分、せきもびっくりしたのだろう。

大の男が鼻水垂らしながら泣いている姿など、見た事は無いだろう。


「人があんなに死ぬのを見るのは初めてだったんだ」

「本当に初陣でいらしたのですね」

「うん」

「俺も…誰か殺してしまったのかも」

手がどうしても震えてしまう。手も、声も。赤塚から戻ってくるときから、ずっと手の震えは止まらない。

「大いくさだったのでございましょう。どうしても、殺さねばならぬ時もございます」

せきは、目を伏せてそう言った。

「せきは冷静なんだね」

「れいせい、とは何の事にございますか」

「すごく落ち着いているって事さ」

「せきは…『れいせい』などではありませぬ」

せきは、俺から目を離さず、睨むように続ける。

「左兵衛さま、若旦那さま…それに吉兵衛どのも。皆戻らぬのではないかと」

せきはうつむく。

「ちゃんと戻って来ただろ」

「はい」

「これからもちゃんと戻ってくるよ。俺の帰る所は、ここしかないからね」





 「そうであったか」

政秀は吉兵衛かの報告を受けていた。

「若旦那さまは今孔明と呼ばれておりまする。野口どのご兄弟も、若旦那さまを見る目が変わったげにござりまする」

吉兵衛は嬉しそうだった。

「そうか。ところで大和左兵衛はどうじゃ」

「今はまだ何とも。されど若旦那は左兵衛どのの事をかなり買っておいでのようでござりまする」

「ほう」

「左兵衛は先が見える奴じゃ、と。今は青びょうたんでも必ず化ける、と申しておりまする」

「後の世から来た、というあれか」

「は。若旦那さまは信じておられるようにござりまする」

「そうか」



 



 「平手監物久秀」

「ははっ」

「春日井郡福富のうち、所領新恩二千石を宛がうもの也」

「有難く頂戴致しまする。一層の忠勤を励む所存にござりまする」

 

 ここは那古野城の大広間。弾正忠家の家臣が集まっている。今日は論功行賞だ。

俺は若旦那の家来、いわゆる陪臣だから大広間には入れない。控えの間に詰めている。


 若旦那は破格の大出世だ。

元々平手家の嫡男だから、いずれは平手家当主となる。

だが跡取りは平手家の家来扱いであり、陪臣扱いなのだ。周りから敬意は受けても政事には参加できないのである。

しかし今回は平手家への加増ではなく、若旦那個人への新領地二千石。

信長から直接領地を貰ったのだ。つまり直臣。那古野城で政事に参加できる資格を得たのだ。

平手家の嫡男にして信長の旗本。スーパーセレブだね。 


 俺はこの世界で生き延びたい。

この世界と、もともと俺の生きていた時代が歴史としてまだつながっているならば、この世界で生きた証を後世の俺に残したい。

俺は交通事故で死んだのではなく、この世界で生きて名を残したのだと。

しかし俺には名を残す為の力がない。頼れるのは五郎右衛門だけだ。

今は、友そして家来として若旦那を支えよう。上手く支え続ける事が出来れば若旦那はより昇っていける。なんてったって今孔明だ。そうすれば俺も一緒に高みに昇れるだろう。




蜂屋般若介、佐々内蔵助も加増された。


般若介は五百石。

内蔵助も五百石。


しかし般若介は内蔵助と一緒、というのが気に入らないらしい。二人共、もともと信長の近習なのだ。いつもお互い競いあっている。

その般若介が俺の居る控えの間に来た。


「ぬしもあの場に居ったであろう。俺は始めから手柄を上げた。鳴海勢にも横槍もつけた。俺のほうが手柄が多い。何ゆえ内蔵助も五百石か。合点がいかぬわ」

「まあ…でも」


 「…おい」

あれれ、内蔵助だ。


 「横槍つけろ、と言われたのは俺だぞ。俺のほうが手柄は上だわい。お主は俺の誘いに乗っただけではないか。やっかみもいい加減に致せ。ばか」

「何…だと」


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 ケンカだ。面白そうだ。

でも。

五郎が戻ってきたから帰るとしよう。


 「文句があるなら返せ、ばか共」

後で二人は信長からこっぴどく叱られたらしい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初は新恩二千石と書かれ、その後すぐに二千貫文と書かれてます。石高と貫高どっちですか?時代や土地にもよりますが倍程度の違いではないかな。
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