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戦国異聞  作者: 椎根津彦
飛翔の章
11/116

新芽

 那古野城に出陣する織田勢が集結した。

広間にて三郎信長が声を張る。

「三郎信長である。一同、大儀。これより鳴海に出陣致す。敵は山口教継(のりつぐ)」

「おう」

「先手は内藤勝介。心してかかれ。平手五郎は内藤に与力せよ。追って沙汰する。」  

「は。先手の誉れ、有難く」

「承知仕(つかまつ)ってござる。ござんなれ」


「中段は佐久間半介、そしてわしじゃ」 

「承知」


「小荷駄(こにだ)は、林美作(はやしみまさか)とする」 

「ははっ」


「留守居は信広兄者、平手中務、林佐渡」 

「任せよ」 

「かしこまってござる」 

「ははっ」



「では皆、三献を」


「えい」  「おう」


「えい」  「おう」


「えい」  「おう」






 織田勢の中段、つまり本陣は中根村にいる。

俺の居る先手、いわゆる先鋒のうち、平手勢はそこを過ぎて小鳴海。鳴海の城はすぐ先だ。


「左兵衛、懐かしかろう。ぬしと初めて会うたのはこの辺りよ」

「え。この辺だったのか」

「あの時の左兵衛は青びょうたんの様じゃったわ」

「少しは見違えたろ、今は」


 若旦那は笑って言う。

俺にはまだ笑える余裕が無かった。何かふわふわ前のめりで落ち着かない。

自分でも緊張しているのが判る。

「まあの。しかし女も戦も最初が肝心じゃ。その様子じゃと縮み上がって引っ込んどる様じゃのう」

「何が」

「ぬしの一番大切な物よ」

そう言っていきなり俺の股間に手を伸ばして、俺の青びょうたんをギュっとつかむ。 


「いてててて!何するんだよ!」

「お。引っ込んどらんかったか。済まんの」

若旦那はまた大声で笑った。

…人のち〇ち〇掴んで何が面白いんだ。

…小学生かよまったく。

出陣してから若旦那はずっとこんな調子だ。

鳴海が近づくにつれ、どんどんひどくなっていく。

青びょうたんを掴まれているのは俺だけではない。

先手の若い連中などは、若旦那と一緒になってふざけまわっている。



やはりうつけの一の子分よ。

あれが平手の跡取りとは、兄者も大変よ。主と同じく大うつけじゃ。


などと、野口兄弟などは声を大きくして言っていた。

俺も最初は大丈夫かこいつ、と思っていたのだが、若旦那の行動は彼なりの精一杯の配慮であったらしい。


 信長が弾正忠家の新当主になり、その配下達も、万見仙千代(まんみせんちよ)、蜂屋般若介(はちやはんにゃのすけ)など、

若い者が多くなった。

当然と初陣の者も多い。

そういう者達からすれば、主に瓜二つといわれる信長の一の子分が、一緒になってふざけて親しくしてくれるのだ。

緊張も幾分かは解(ほぐ)れようし、随分と心強く思えたことだろう。

佐々内蔵助などは、初陣なのに軍目付を命じられて目の回る思いをしているのである。

 

「大物見(おおものみ)を出せと、内藤どのから仰せつかった。わしも行くが、誰か一緒に行かぬか」

誰もうん、とは言わない。

若旦那は俺を見ている。 


 ……はい、着いて行きゃいいんでしょ。


 大物見とは、現代で言う強行偵察、威力偵察の事である。

敵の近くにちょっとだけ大人数で行って敵情を探ろうよ、ってことだ。

普通、物見の役目は戦慣れした古強者(ふるつわもの)に行かせる。

戦い慣れしていた方が、敵に近づいて行っても本人が落ち着いていて、報告の信憑性が増すからだ。

この物見の報告に信憑性がなかったり、少数の物見では却って危険なときに大物見が出される。


 「平手どの」

「何じゃ般若介」


「大物見に出たら死ぬるかの」

「迷うとるなら来ぬがよいわ般若介。臆病者に般若介など名乗られては、般若の方が迷惑だわい。さっさと三郎様の元に帰れ」

言われた般若介は真っ赤になった。

「な…なにをっ。迷うてなどおらぬわ。行くわい」


蜂屋般若介は、信長の近習の中から特に選ばれて平手勢に与力として付けられた若者である。

平手勢はわざわざ若旦那自らが物見に出るのに、般若介が出ない訳にはいかない。般若介は与力なのだ。


 近習の中から選ばれて前線に来た、という事は、般若介本人の名誉だけでなく、信長の近習全体の名誉もかかっており、ひいてはその近習を選んだ信長の面子もかかっている。

臆病者とまで言われて、引き下がる訳にはいかなかった。


信広兄者、とは信長の庶兄、つまり腹違いの兄貴です。側室の子だったため、家督を継げませんでした。


スマホで見ると、フリガナがずれます。auのスマホだけなんでしょうか。PCか携帯から見ていただければ幸いです。

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