第2巻第18話〜闇の同盟と、迫る包囲網〜
東京と横浜の境界近く、静まり返ったうらぶれた廃工場。
錆びついた鉄骨が剥き出しになったその場所に、普段なら決して交わることのない二つの巨大な闇が集まっていた。
パチパチとドラム缶の火が爆ぜる中、向かい合って不敵な笑みを浮かべる二人の男。
横浜羅刹の武田派幹部・赤間と、八王子火喰の幹部・立田である。
「今回はわざわざ足を運んでくれてありがとな、立田さん」
赤間が煙草に火をつけながら、低く濁った声で礼を言った。対する立田は、周囲に控える羅刹の兵隊たちを退屈そうに見回しながら鼻で笑う。
「いいってことよ。しかし、まさかあの天下の『羅刹』が真っ二つに分裂とはな。大変でしょ、いろいろとさ?」
探るような立田の視線に、赤間は煙を吐き出しながら、冷酷な眼光を投げ返した。
「……その件だ。うちのトップである武田さんは、鮫島に未だに心酔している『裏切り者ども(鮫島派)』を一人残らず根絶やしにするつもりだ。そして……」
赤間は一拍置き、さらに声を低くした。
「鮫島を殺り、うちのツラに泥を塗ったあの『遊侠』もな。そこで提案だ、立田さん。俺たちと手を組まないか?」
その言葉を聞いた瞬間、立田は一瞬の静寂の後、腹を抱えて下品に笑い出した。
「ハハハ! 鮫島派だけじゃなく、あの怪物『遊侠』まで同時に消すってか!? 相変わらずイカれてんなぁ、武田の頭はよ!」
立田は笑い声を収めると、ふっと口元を歪め、ボスの土田から預かってきた言葉を告げた。
「……まあ、いいぜ。うちのボス(土田)からの伝言だ。『今後、火喰は横浜羅刹・武田派に全面協力する』とよ。遊侠ってツラつきのデカい獲物は、うちのボスにとっても極上の娯楽になりそうなんでね」
立田は右手を差し出し、赤間とその手を強く握り合わせた。
「今日から味方だ。よろしくな、赤間さん。……さぁて、東京と横浜、まとめて大掃除といこうじゃねえか」
狂気と野心に満ちた二大組織の同盟。
知らぬ間に、正義と鮫島派の生き残りたちをまとめて圧殺するための、巨大な包囲網が完成しつつあった。
薄暗い照明が虚しく照らす、横浜の廃ボウリング場。ここが現在、羅刹・鮫島派の最大拠点となっていた。
かつて正義に叩き潰されたはずの鮫島は、包帯を巻きながらも不敵な笑みを浮かべてそこにいた。
「チッ……武田の野郎、街中でうちらの若い衆を狩り始めやがった。もうめちゃくちゃだ!」
幹部の北山が、いら立ちを隠せずに壁を殴りつける。武田派の容赦ない攻勢により、鮫島派はジリジリと追い詰められていた。
「まあまあ落ち着けよ、北山。とりあえず今は様子見だ。一瞬の隙を見て、一気に反撃に転じるからよ」
「はい……鮫島さんは、本当に前向きですね」
鮫島のタフな精神力に、北山が少しだけ安堵の息を漏らした、その時だった。
――バリン! パリンッ!!!
突如として、廃ボウリング場の大きなガラス窓が一斉に叩き割られた。激しい破片の音が静寂を切り裂く。
「なんだ、なんだぁ!?」
「おい、どうした! 武田の連中か!?」
北山が鋭く叫び、周囲の組員たちが一斉に武器を構える。
だが、割れた窓から立ち込める煙の向こうから現れたのは、見慣れた武田派の特攻服だけではなかった。
「……おいおい、嘘だろ」
北山の顔から血の気が引いていく。
そこにいたのは、羅刹武田派の面々と――その背後に控える、赤黒い特攻服を纏った不気味な集団。東京・八王子を拠点にする最凶の半グレ、あの『火喰』の構成員たちだった。
「マジかよ……武田の野郎、火喰と同盟を組みやがったのか!?」
鮫島が忌々しそうに吐き捨てる。横浜の覇権を握るためなら、東京の怪物を引き入れることも厭わない。武田のなりふり構わない裏切りに、北山は怒りで歯を剥き出しにした。
「武田の野郎……!! 誇りってモンがねえのかよ!!」
完全に包囲された廃ボウリング場。
多勢に無勢、絶体絶命の鮫島派に、火喰と武田派の凶刃が迫ろうとしていた。




