第2巻第17話〜牙剥く有象無象と、横浜の火種〜
「おらよッ!!」
正義の容赦ない拳が、半グレの顔面に直撃する。
凄まじい衝撃波とともに吹っ飛んだ男は、路地裏のコンクリート壁に文字通り「突き刺さり」、白目をむいて崩れ落ちた。
「全く、どいつもこいつも……!」
谷中も鋭いストレートを放ち、群がってきた不良たちを次々と昏倒させていく。
周囲には、遊侠の名を狙って襲いかかってきた有象無象の死屍累々が広がっていた。
正義は服についた埃を払いながら、退屈そうに首を鳴らす。
「最近なんか俺に喧嘩売る奴増えたな。まあ、良いストレス発散になってるから別にいいけどよ」
「のんきなこと言わないでくださいよ兄貴。……こいつら、狙ってきてるんです」
谷中が倒れた男の胸ぐらを放り投げ、真面目な顔で正義に向き直った。
「兄貴、最近裏社会では『遊侠狩り』ってのが大流行ってるんですよ」
「遊侠狩りだぁ?」
「はい。羅刹の鮫島を倒した時、兄貴『遊侠』って名乗ったじゃないですか。あれが裏で完全に広まっちまって……今や『遊侠をヤれば一気に有名人になれる』ってんで、東京中のイカれた奴らが血眼になってるんです」
それを聞いた正義は、心底めんどくさそうに頭を抱えた。
「おいおい勘弁してくれよ! 俺が鮫島をぶっ飛ばしたのは、俺の『睡眠時間』を守るためだったんだぞ!? これじゃ本末転倒じゃねえか、意味がない!」
「いや、動機が個人的すぎますって……。あ、そうだ兄貴。それと羅刹について、ちょっと気になることがありまして」
「あ? 気になること?」
谷中は声を潜め、横浜の不穏な情勢を切り出した。
「はい。今、横浜の羅刹は『武田派』と『鮫島派』の二つに割れて、激しい内部抗争を繰り広げてるらしいんです」
すると、横で話を聞いていたヒロが「あ、確かに」と手を打った。
「幹部だった長浜が言ってた。『俺は鮫島さんについていくだけだ』って。あのゾンビ野郎、粗暴な割には結構人望あったんですかね?」
「ああ、俺もそう思う。北山とやり合った時も、あいつ鮫島に完全に心酔してる目をしてたからな」
谷中の言葉に、正義はふむ、と顎に手を当てた。あのしぶとかった鮫島の顔を思い浮かべる。
「……まあ、どっちにせよ羅刹の内部抗争がこっちに飛び火してくる可能性は高いな。巻き込まれないように気をつけるか。はぁ、なんか面倒なことが増える一方だな……」
東京の『遊侠狩り』、そして横浜の『羅刹の抗争』。
二つの巨大な嵐が、知らず知らずのうちに正義たちを挟み撃ちにしようとしていた。




