第2巻第13話「これじゃどっちがゾンビかわかんないな!!」――元官僚、不死身の怪物を完全粉砕
周辺では、連合と羅刹の兵隊たちによる『第二ラウンド』が始まっていた。
幹部たちが倒れてなお、戦火は衰えるどころか激しさを増していく。辺りには、すさまじい罵声と暴力の音がこだましていた。
その混沌の中心で、二人の怪物はなおも拳を交わし続けていた。
「ハハハハハッ! いや、最高だ! こんな闘い、生まれて初めてだぜぇッ!!」
頭から血を流し、骨が折れているはずの鮫島が、狂ったように笑う。
正義は敵の拳を紙一重で躱しながら、その異様さに舌を巻いていた。
「ああ、しかしあんた凄いな……。瀕死の羅刹の奴らまで、本当にゾンビみたいに蘇りやがって……! 」
「だから言っただろぅ!? こっからが第二ラウンドだってなぁ!」
鮫島の拳が空気を引き裂く。だが、正義の目は冷徹だった。元官僚としての高い処理能力が、極限の戦いの中で鮫島のモーションを完全に捉え始めていた。
「――ああ。だが、そろそろ見切ってきたな」
ズガァンッ!と正義の鋭いカウンターが鮫島の顔面に突き刺さる。
どれだけ殴られても笑っていた鮫島の動きが、確実に鈍くなっていた。痛覚はなくても、肉体の物理的な限界――蓄積されたダメージまでは誤魔化せない。
「はぁ、はぁ……っ。おいおい、息切れなしかよ……。アンタ、身体はボロボロのはずなんだけどな……?」
鮫島が初めて苦しげに息を荒くする。
対する正義は、返り血を浴びた顔で不敵に口角を上げた。
「これじゃ……どっちがゾンビか分かんないな!!」
その言葉に、鮫島は自分の負けを悟ったかのように、満足げな笑みを浮かべた。
「ああ……そろそろ、終わりが近いかな……ッ!」
二人の男が、残されたすべての力を拳に込める。
交差する一撃。互いの意地と意地、命と命のぶつかり合い。
――オォォォォォアアアアアッ!!!
正義の渾身のストレートが、鮫島の顔面のド真ん中へと完璧に炸裂した。
肉が、骨が、限界を迎えて砕け散る。
「ぐおーーっ……。けっ、こう……楽しかった、ぜ……」
それだけを絞り出すように呟き、羅刹の絶対的象徴――『ゾンビ鮫島』の巨体が、ゆっくりと、仰向けにコンクリートへと倒れ込んだ。
その目は完全に白目を剥いている。二度と立ち上がることはない、完全なノックアウトだった。
静寂が、一瞬だけ戦場を支配した。
そして――。
「……せ、正義の兄貴が……鮫島を倒したぞォォォォーーーッ!!!」
一人の連合兵の叫びを皮切りに、地鳴りのような大歓声が爆発した。
「やったぞーーーッ!!」
「俺たちの勝ちだ! 勝ったんだ!!」
地獄のようだった戦場が、一瞬にして歓喜の渦へと変わる。
満身創痍の谷中が、ふっと笑って正義のもとへと歩み寄ってきた。
「兄貴は……本当に凄い人だな。……おっと、ヒロの野郎、完全に気絶してやがる。しょうがねえ、担いでやるか」
谷中は愛おしそうにヒロを肩に担ぎ上げ、正義の勝利を称えた。
一方で、羅刹の残党どもは、信じられないものを見たかのようにガタガタと震えていた。
「あ、ああ……鮫島さん……! 嘘だろ、あの人が負けるなんて……!」
「マジかよ……くそがぁっ!?」
武器を落とし、腰を抜かす者たちが続出する。
戦場を包み込むのは、連合の圧倒的な【歓声】と、羅刹たちの絶望的な【悲鳴】。
東京の夜の闇の中。
ボロボロになりながらも、一人静かに佇む荒川正義の姿は、名実ともにこの街を守る『守護神』そのものだった――。




