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第2巻第11話「兄貴、俺やりましたよ」――総長同士のタイマンと、魂の相打ち

オラァッ!!」

「るせえ、どけぇッ!!」

 ドゴォン!と、肉と肉が激突する鈍い音が響き渡る。

 羅刹の幹部・長浜と、元暴走族総長・ヒロの戦いは、まさに互角のデッドヒートだった。

 戦術も、技術も、そこにはない。ただ互いの意地とプライドを拳に載せて、正面から殴り合う泥沼の肉弾戦。

 互いに顔面を血で染め、肩で荒い息を吐きながら、一歩も引かずに睨み合う。

「ハッ……なかなかやるな、金髪」

 長浜が口の中の血を吐き捨て、獰猛に笑った。

 ヒロもまた、腫れ上がった目を細めながら、特攻服の襟を乱暴に正す。

「あんたもな……。さすが元『天光』の総長、と言ったところかよ。……だけどなぁ! なんでそんな男が羅刹なんかにいるんだよ! あいつらは薬を東京にばら撒こうとしてんだぞ!? 恥ずかしくねえのかよ……武田や鮫島に利用されてっ!!」

 ヒロの魂からの叫び。街を、仲間を汚そうとする悪への、純粋な怒りだった。

 しかし、その「利用」という言葉に、長浜の顔から笑みが消え、獣のような凶暴な眼光が宿る。

「利用だと……!? バカにすんな金髪野郎ッ!!」

 長浜が激昂し、地面を強く踏み鳴らした。

「俺はな……武田なんてクソの本性なんざ知らん! だが鮫島は違う! 俺はあの人とタイマン張って、完璧に負けたんだよ! だから羅刹に入った、ただそれだけだ!! 強い奴に付いていく、不良(おれたち)のルールに文句あんのかよぉッ!?」

 長浜にとっても、それは譲れない男の筋だった。

 それを聞いたヒロは、深くため息をつき、静かに拳を握り直す。

「……話が通じねえな。やっぱ、一回気絶させねえと分かんねえか!」

「やってみやがれ、金髪がぁぁぁッ!!」

 二人の気合いが、夜の戦場を震わせる。

 同時に地を蹴った。残されたすべての力を、魂を、その右拳へと込める。

 ――オォォォォォアアアアアッ!!!

 交差する二つの影。

 ヒロの拳が長浜の頬を打ち抜き、長浜の拳がヒロの顎を捉えた。

 ズガァァァァンッ!!!

 凄まじい衝撃音とともに、二人の動きがピタリと止まる。

 互いの拳が、互いの顔面にめり込んだまま、数秒間の静寂が戦場を支配した。

 ……グラリ、と先に身体を揺らしたのは、長浜だった。

「……見事、だ……」

 それだけを呟き、長浜が糸の切れた人形のように、どさりと地面へ崩れ落ちる。完全な失神。

 勝ったのはヒロだった。

 だが――ヒロの肉体もまた、すでに限界をとうに超えていた。

「がはっ……」

 長浜が倒れた瞬間、緊張の糸が切れたように、ヒロの視界が急速に暗転していく。

 ゆっくりと、仰向けにコンクリートへと倒れ込んでいく身体。

 薄れゆく意識のなかで、ヒロは夜空を見上げ、心の中で静かに微笑んだ。

(兄貴……俺、やりましたよ……)

 あとは、俺たちの『街の守護神』が、あのバケモノをぶっ潰してくれる――。

 ヒロは完全に意識を失い、静かに目を閉じた。

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