第2巻第9話「まだまだこっからだろうが、鮫島ぁ!」――元官僚、化物と真正面から殴り合う
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「オラァッ!」
正義の鉄拳が、羅刹の兵隊の顔面を容赦なく撃ち抜いた。骨の砕ける鈍い音が響き、男が崩れ落ちる。
最前線に立つ正義の強さは圧倒的だった。群がる敵を、ただ愚直に、怒りのままにのしていく。
だが、その狂乱の戦場において、もう一人、異様な存在感を放つ怪物がいた。
「ハハハハハッ! 効かねえ、効かねえよぉ!」
羅刹の幹部――ゾンビ鮫島。
連合の男が背後からフルスイングした金属バットが、鮫島の脳天に直撃していた。並の人間なら即死、良くても昏睡する一撃。しかし鮫島は、頭から血を流しながらも、満面の笑みで振り返り、バットを持った男の腹を蹴り破った。
痛覚が壊れている。いや、肉体そのものがバグっている。
人混みを血に染めながら突き進む二人の怪物が、ついに、戦場の中央で正面から向き合った。
「鮫島……あんたマジで、六階から飛び降りたり車に轢かれたりしたって話、本当かよ!?」
息を荒くしながらも、正義は鋭い眼光で敵を睨みつける。
対する鮫島は、頭の傷口から流れる血を乱暴に拭い、ニタリと下品に口角を上げた。
「あんたこそ、元官僚様がこんな泥沼にいて良いのかなぁ、あぁん!?」
「――今じゃただのリーマンだ。オマエもなればわかるよ」
吐き捨てるような正義の言葉に、鮫島の目が狂気に狂う。
「じゃあよぉ! 思いっきり殴っても、文句言うなよなァ!?」
鮫島の巨体が爆発的な踏み込みを見せた。
空気を引き裂くような拳が、正義の顔面へと迫る。正義は瞬時に両腕を交差し、ガードの体勢を取った。
ズドォォォォンッ!!!
凄まじい衝撃音が鳴り響く。
ガードの上から受けたにもかかわらず、鮫島の放った腕力は常軌を逸していた。正義の身体はコンクリートの地面を削りながら、そのまま力任せに押し負け、後方へと派手に吹き飛ばされた。
「兄貴ぃ!?」
「正義さん!?」
悲鳴を上げるのは連合の兵たちだ。
一方で、羅刹の残党どもは勝ち誇ったような大歓声をあげる。
「ガハハハハ! さすが鮫島さんだ!」
「何が街の守護神だよ! 口ほどにもねえ!」
土煙が舞う中、鮫島はつまらなそうに首の骨を鳴らした。
「あーあ、なんだ。こんなもんかよ。期待外れだぜ」
興が削がれたとばかりに、鮫島が背を向けて立ち去ろうとした、その瞬間だった。
――ヒュゴォォォォッ!!!
背後から、空気を切り裂くとんでもない質量と速度の「何か」が接近してくる。
野生的な勘で首を傾げた鮫島の頬を、猛烈な風圧と共に何かがかすめ、背後の壁を粉砕した。
それは、拳大のコンクリートの塊だった。
「……あ?」
鮫島がゆっくりと振り返る。
土煙の向こう側、衣服をボロボロにしながらも、眼球の奥にドス黒い怒りの炎を宿した荒川正義が、そこに仁王立ちしていた。
「おいおい……まだまだ、こっからだろうが。なぁ、鮫島ァァァーーーッ!?」
地響きのような正義の咆哮。
それを見た鮫島は、恐怖するどころか、これ以上ないほどの歓喜に顔を歪めた。
「ハハッ! あんたマジで最高だなァ!!」
どちらからともなく地を蹴った。
次の瞬間、二人の肉体が激突する。
ガードなどもう無い。
正義の拳が鮫島の顎を跳ね上げれば、鮫島の拳が正義の脇腹をえぐる。
殴って、殴られて、肉と肉がぶつかり合う、文字通りの肉弾戦。
一歩も引かない怪物のタイマン。
周囲の地鳴りのような怒号さえ耳に入らない。
誰もが固唾を呑んで見守る中、どちらが勝つのか、その結末は誰にも予想がつかなかった――。




