第2巻第5話『俺はカタギだ元官僚のな』東京遊侠対横浜羅刹、全面開戦
不法占拠された巨大ビルのロビー。カビ臭い空気と不気味な静寂を引き裂き、荒川正義(30)の怒号が響き渡った。
「おい!! 鮫島出てこいやァァァ!!! 羅刹出てこいやコラァァァッッ!!!」
その直後だった。
ビルの奥、そして吹き抜けの二階、三階から、地響きのような足音と共に、おびただしい数の男たちが姿を現した。その数、総勢三百人。 全員が羅刹の特攻服やライダースジャケットを身に纏い、手には鉄パイプや鉈を持っている。
そしてその三百人の悪党を従え、先頭に立っていたのは——異様なまでの威圧感を放つ男、横浜のゾンビ・鮫島であった。
「ひ、ヒィッ……! 正義さん、アイツです! 6階から落ちても死なないゾンビの鮫島です! しかも、人数があっちの方が多いじゃねえか!!」
ヒロが改造バイクを盾にしながら涙目で絶叫する。こちらの連合軍は250人。対する羅刹は300人。数の上では完全に後手に回っていた。だが、その横で黒い特攻服の谷中が、ギラついた目でヒロを一喝した。
「なにひよってんだヒロ! 俺たちには『守護神』がついているから大丈夫だ! それに……見ろ、兄貴はもう殴りたくてうずうずしてるぞ!!」
谷中の言う通りだった。正義は三百人の敵に包囲されているというのに、恐怖など1ミリも感じていなかった。それどころか、血走った目を爛々と輝かせ、肩をガクガクと震わせて大爆笑しかけている。
正義は血まみれの角材を鮫島へと突きつけた。
「——お前か。睡眠不足の元凶である、ゾンビ野郎というのは」
鮫島は退屈そうだった目を少しだけ見開き、正義のボロボロの高級スーツを眺めた。
「あんたか、この有象無象を率いてる親玉は。……どこの組のもんだ? 堅気の後ろ盾か?」
「あん? 聞き方がなっとらんな、谷中の拳を見習え」
正義はふっと冷笑を浮かべ、堂々と胸を張った。
「俺はカタギだ。元官僚のな」
「……は?」
鮫島は一瞬呆然とし、次の瞬間、腹を抱えて大爆笑した。
「ハハハハハ! マジかよ! 元官僚のカタギが、何百人も不良引き連れてカチコミかよ! あんた最高に面白いなァ!!」
ピタリ、と鮫島の笑いが止まる。
二人の怪物の間に、張り詰めたような重い沈黙が流れた。
互いの狂気が、夜の空気の中で火花を散らす。
そして——沈黙の終わりは、同時に地獄の始まりだった。
「羅刹を殺せ。——いくぞォォォォォッッ!!!!」
正義の角材が振り下ろされる。
「皆殺しだぁぁぁ! ここを東京の血の海にしろォォォッッ!!」
鮫島の咆哮が轟く。
「「「「うおおおおおおおおおーーーーーーーッッッ!!!!」」」」
ドガシャァァァン!!! と激しい衝突音と共に、250人の東京連合軍と300人の横浜羅刹が正面から激突した。
怒号、悲鳴、鉄パイプが肉を叩き割る音。
東京の夜の覇権を賭けた、最大にして最悪の『羅刹対遊侠』の大戦争が、今ここに完全開戦した。




