第2巻第2話:『後手に回ると取り返しができなくなる』元エリート官僚、電撃戦を決断する
数日後の夜。激務を終えて自宅でカップ酒を開けようとした瞬間、正義のスマホがけたたましく鳴り響いた。
画面には「谷中」の二文字。すぐさま通話ボタンを押した正義の耳に、かつてないほど緊迫した谷中の声が飛び込んでくる。
その報告を聞いた瞬間、正義の目が鋭く見開かれた。
「——何!? 『羅刹』がこっちに来た本当の目的は、薬物の利権拡大だと……!?」
『はい! 先日、俺の元いた極道組織の関連組織が、シマ内で勝手にクスリを密売してる不審な奴を捕まえたんです。そいつを徹底的に尋問(焼き)入れたら、羅刹の末端の売人だって吐きやがりました。羅刹は東京にクスリの流通ルートを広げて侵攻し、邪魔する組織がいたら、あのゾンビ鮫島が物理的に処理する……っていう血生臭いシステムが出来上がってました!』
谷中の言葉を聞きながら、正義の脳内でここ数日間のオフィス街の光景がフラッシュバックする。
朝の通勤途中、モーニングルーティンでボコボコにしてきた不良どもの顔。
「……確かに、最近どうも目が血走っているチンピラがやたらと多いと思ってたんだ。まさか、どいつもこいつも羅刹のクスリに汚染された奴らだったのか」
『はい! 兄貴、それともう一つ、さっきウチの若い衆が羅刹の拠点を一つ特定しました。 ……ただ、不自然にガードが薄い。もしかしたら俺たちを誘い出す罠かもしれないですが、これ以上放置してクスリが蔓延したら、本当にこの街の治安が……!』
罠かもしれないという谷中の危惧。
だが、かつて国家の最高中枢で数々の政策リスクを冷徹に排除してきた元エリート官僚の決断は、一瞬だった。
「分かっている、谷中。躊躇している暇はない」
正義はカップ酒をテーブルに叩きつけ、凄まじい覇気で言い放った。
「今すぐヒロに電話しろ。兵隊を動かせるだけ集めさせろ」
『えっ……! 罠の可能性があっても、突っ込みますか!?』
「ああ。戦争は、先手から一気に潰すのが鉄則だ。後手に回ると取り返しができなくなる。 予算請求も危機管理も、相手の土俵に乗る前に根元から叩き潰すのが一番効率がいいんだよ!」
かつて日本の未来を担うはずだった超一流の頭脳が、今、完全に『裏社会の電撃戦』の指揮官として完全に覚醒していた。
『……っ! 了解しました兄貴! 荒川の兄貴の大号令だ、今すぐヒロのバカと、動ける兵隊を根こそぎ集めて拠点の前に集結させます!!!』
「頼んだぞ。よそ者のクスリ売りに、東京のルールってやつを教えてやる」
ガチャン、と通話が切れる。
正義はクローゼットから、また少し血の跡が増えた高級スーツを引きずり出した。
罠なら望むところだ。その罠ごと、横浜の500人組織を正面から踏み潰す。
『東京遊侠』荒川正義の、街の命運を賭けた電撃カチコミ作戦が、今まさに幕を開けようとしていた。




